8 ラティオスとラティアス、その運命は…
「ここです」
「………」
着いた場所は、岩が崩れて入口がむき出しになっている遺跡だった。
それを見たディンは、いきなり電光石火で走り出した。
ラティオスは訳が分からず、追いかけ始めた。
「くそ……間に合ってくれ……」
一分足らずで中間地点にたどり着いたディン。そこでいきなり叫び声が聞こえた。
「キャアアアアア!?」
「!?…チッ」
さらにスピードを上げる。そして、最下層の扉を勢いよく開けると、広い部屋に入る。
その部屋は神秘的な部屋で、奥には祭壇がある。ラティアスはその前にいる。
「……ラティアス」
ディンはラティアスに歩いて近づく。
ラティアスの体からは、どす黒いオーラが出ている。
「フフフ……久しぶりね……」
「ち……やっぱりか」
お互いは認識しあっていた。
「封印されて約1000年……どうやってあなたの体を頂こうか……ずっと考えてた……」
「相変わらず……か。邪神・クロウ!」
そう。相手の正体は邪神だった。
なぜ、ディンが知っているかというと、話は1000年前に戻る――――
「クハハハハ!怯えろ!苦しめ!」
1000年前……当時のクロウは、誰にも乗り移らずに、村や広場などを破壊し回っていた。
もちろん、その村や広場にいる、優秀そうなポケモンを連れ去りながら。
「さて……どいつが一番優秀か……」
クロウは、ある場所にポケモンを集め、誰の体を使って動き回るか考えていた。
クロウが連れてきたポケモン達は、ただ単に怯えていた。
「我の目的は、時間を支配し、空間を闇に染めること……」
などの独り言を言うと、一匹のブースターが反抗的な目をしだす。
クロウは、その目を見逃さなかった。
「ふん……いい面をするな……」
ブースターは、冷や汗を垂らしながら一歩後退する。
「決めた、お前の体を使おう」
ブースターは頬を触れられビクッとする。
…クロウがブースターの中に入ろうとする時だった。
「まちな」
ブースターの中に入る直前、後ろから声がした。
振り向くと、一匹のピカチュウ…ディンが睨みながら立っていた。
「…なんだ?テメェは」
「俺はディン、お前を倒しに来た」
そう言いながら近づくディン。やる気満々だ。
「ふん……お前みたいなピカチュウに倒す宣言されるとは……な!!」
クロウが殺人的な勢いのあるパンチを繰り出す。
しかし、ディンは後ろに跳び、三回転してかわした。
「……なぜ、ここがわかった」
クロウの攻撃をかわし、フッと笑うディンに問うクロウ。
「……お前はどす黒いオーラを出しっぱなんだよ!それを辿れば簡単だ」
「チ……」
クロウは軽く舌打ちをする。すると、クロウの背中から、悪魔みたいな翼が生えた。
「いいだろう……そんなに死にたいなら殺してくれる」
「……ふん」
クロウは超高速で降下し、ディンに攻撃を仕掛ける…が、既にディンはその場にいなかった。
「こっちだ」
声がすると同時に、一直線の電撃がクロウの肩を貫いた。
「ぐ……」
クロウは振り向くと、背中に白い翼を生やしたディンがいた。右手の人差し指をクロウに向け…
「俺は電撃をコントロールできる。それでこれができるんだ」
ディンはまたもや、一直線の電撃を人差し指から放つ。しかも、さっきより速い。
「『雷線』!」
「ふん」
クロウはディンの雷線を軽くかわし、そのままディンにパンチを繰り出す。
ディンはそれを止め、パンチを繰り出すが、クロウは止める。
それが高速で繰り返されるため、強い風が吹き、葉が数枚舞った。
強風をうけているブースター達は必死にこらえる。
「く……なんだ……あのバトルは……」
常識を超えるようなバトルに、ブースターは唖然としている。
…まぁ、少なくとも、あのピカチュウは敵ではないと思っている。
「………」
激しい攻防が止まり、二人は睨みつけて浮いている。
「……秘技」
ディンは、両腕を左右に広げる。すると、両手に電撃が集まる。
「双電……ライトニング!」
ディンの両手には、二本の電撃の剣が現れた。
「……なるほど」
クロウの右手に、黒い穴が現れる。それに右手を入れ、黒い刀を一本取り出す。
「くく……」
「……おもしれぇ」
二人が動くと、一瞬でガキィ!という強い音が響いた。
クロウが刀を振ると、ディンが一本の剣で止め、もう一本の剣で攻撃すると、クロウは足で受け流す。
たまに、ディンは二本で止めたり、かわしたりする。
「剣技……大地送電!」
ディンが剣を振ると、凄い勢いで、電撃が大地を砕いて走る。
クロウは刀で止めるが、勢いには勝てず、そのまま壁に激突する。
すると、ディンがクロウの額に手を当てて…
「我、汝を封印す。この玉に、魂を捧げん!」
ディンの手から凄まじい光が放ち、クロウは黒い玉と化した。
「……あの時はしてやられたわ……。でも、今度こそ、その体頂くわ」
「そうはいくかよ」
自信満々に言うディンだが、心では不安でいっぱいだった。
(ち……参ったな……。過去のような力は今はない……)
そう。ディンは、封印する力、翼を生やす力やバトル能力は現在、ほとんど失っているのだ。
それでは、ディンの勝てる可能性は極端に低い。
だが、ラティアスを救うためにもやるしかないと、ディンは思っている。
そして、ディンから先に動き出してバトルが始まった。
一方、STARS基地では………
「………」
「もういいでしょ?お姉ちゃん」
夜になり、シン達が基地に戻ると、フィンが倒れてるフィルの背中をグリグリと踏みつけている。
「……はぁい……」
あのでかいハイテンションなフィルも、とうとう諦め、情けない声で返事する。
ちょうどサン達が基地に戻ってきた。
「フィン……あんた、何回バトルしたわけ?」
「えっと……わかんない。
お姉ちゃんたら……倒しても倒してもしつこく起き上がるから…
…で、もう起きあがらないようにグリグリと踏みつけていたわけ」
あのフィンがここまでやるとは思わず、全員唖然としている。
フィルは、何回もフィンに負けたショックで、STARS基地を出て行った。
「あ〜あ、なんか可哀想だな」
「そんなことないよ。明日には、うるさいお姉ちゃんに戻ってるから」
不満そうな表情でいうフィン。シン達は、あの姉が嫌いなんだなと感づいた。
「……ディンは?」
「あいつならラティオスの依頼を受けて遺跡へ行ったが」
「ふぅん……ディンなら大丈夫だね」
全員、ディンなら簡単にこなして帰って来るだろうと、思っていた。
「はたしてそうかしらぁ〜?」
「うわぁぁぁぁ!?」「きゃあ!?」
いきなり全員の背後から、懐中電灯の光を顔に当てて、怖い顔をしたエーフィが現れた。
「だ……だ……誰!」
「引っかかった♪引っかかった♪ 私、リリアよ」
「リリア!?」
なんと、エーフィの正体はリリアだった。前はイーブイだったため、全員は混乱する。
「進化したの。ちょっと嫌な進化だったけど」
「ふ、ふ〜ん……で、後ろにいるのは?」
リリアの後ろには、カラカラがいた。見たところ雄である。
「この子はジャンよ。そんな事より、ディンが危ないわよ」
「え!?」「な!?」
突如、フィン達は走り出す。リリア達もあとを追って走り出す。
「ここみたいね」
「こんなとこに遺跡があったんだ……」
リリアの案内で、ディンが入っていった遺跡に辿り着いたフィン達。
知らない遺跡を見て、ポカンとする。
「先輩!今行きますよ!」
「ふぁ?先輩?」
ジャンの先輩という言葉に、首を傾げるフィン達。
「ああ、ジャンは、ディンが私達の大陸に来たとき、バトルの特訓をしてもらってたの」
「ふ〜ん……でもさ、その場合、師匠とか先生って言わない?」
「だよねぇ……」
う〜ん……と、全員が唸る中、いつの間にか、ジャンの姿がなかった。
「狽「つの間に!?」
ジャンがいつの間にか中に入っていったため、慌てて追いかけるフィン達だった。
その頃、ディンは……
「がはっ!?」
クロウの激しい攻撃を受け続けるディン。遂には、壁まで飛ばされ、ズルズルと座り込む。
「はぁ……はぁ……」
「フフフ……もう終わりかしら?」
「く……」
ラティアスの体で不適な笑いをするクロウ。ディンも、まだ諦めておらず、また立ち上がる。
「あなたは、確かに1000年前よりは強くなってる。でも、それはほんの少しだけ」
「………」
クロウの言葉を聞き、拳を強く握りしめる。
確かに、強くはなってはいるが、失った能力がある。
それは、封印だった。つまり、クロウは倒すしか方法はない。
「そういえば、私の能力を言ってなかったわね。
私の能力は、乗り移った相手のバトル能力に私のバトル能力を加えるの。
つまり、強い体に入れば私は無敵ってわけ…理解できたかしら?」
「それで……俺の体を……」
「そうよ」
ニヤッとするクロウ。しかし、まだ続きがあった。
「強い体なら……俺より強い奴がいるかもしれねぇだろ……?」
「……確かにね。でも、あなたの潜在能力は私にとって危険。
だから、あなたの体を支配しようってわけ。
…まぁ、あなたの体さえ手に入れば、ほとんど敵無しでしょうけどね」
今度は、クスクスと笑う。その笑いを見るディンは、フッと笑う。
「実は俺にもな……似たような能力があんだよ……」
「何を今更……」
「……変身。モデル……リリア!」
ディンは、リリア(イーブイ ※進化していることを知らない)に変身、クロウの後ろをとる。
「狽ネに!?」
「シャドーボール!」
「ぐあ!?」
ディンの放ったシャドーボールが、クロウに直撃する。技も、変身前よりかなりでかい。
「な……何……このパワー……」
「私の能力の一つ……変身能力よ。
相手の誰かに変身し、その相手のバトル能力を私のバトル能力に加えるの」
「………」
クロウは、悔しそうな表情をする。しかし、それでも諦めないクロウ。
「……ますます気に入ったわ。必ず手に入れるわ」
「やってみなさい」
再び、激しいバトルが始まった。その頃、フィン達やリリア達は……
「はぁ……はぁ……ここね」
「うん……ディンの気配がするわ。でも……」
「でも?」
リリアの言葉に、フリーズが首を傾げる。
「ディンの気配が……物凄く小さい……」
「急ぐっきゃねぇな」
「先輩……」
ジャンが扉を開ける。奥には、ピカチュウのディンがいた。
「ディン……?」
フィンがディンに近づく。すると、ディンの足下にはラティアスが倒れているのが見えた。
「……クックック……ハーッハッハッハ!」
「!?」
「ついに手に入れたぞ!この力を!!」
明らかに様子のおかしいディンに、リリアはサイコキネシスを使い、動きを封じ込める。
「あんた誰!ディンの姿で何をしているの!ディンはどこ!」
「……俺か?俺は、邪神・クロウ……
1000年前、ディンに封印されていた者だ。そして、ディンの体に乗り移った!」
「邪神・クロウ!?」
フリーズが驚いた表情で叫んだ。
「知ってるの?」
サンがフリーズに問う。フリーズは、冷や汗を垂らしながら頷く。
「邪神・クロウ……1000年前に実際に存在してたヤツよ。
古い書物によると……一匹のピカチュウが封印したって書いてあったけど…
…それがディンだったなんて……知らなかった…」
顔を下にうつむかせながらも、チラッとクロウを見る。
ディンの体をしたクロウは、まだ怪しい笑いをしている。
「さて、そろそろ行くか……」
クロウは、ゆっくりと扉に向かって歩き出す。そこに、シンとリリアが立ちふさがる。
「待ちな、通す訳にはいかねぇな」
「もう一度聞くけど、ディンの体で何する気?」
リリアの質問に、クロウは怪しく笑う。
「クックック……俺の目的か?それは……時を支配し、空間を闇に染めることだ!」