3 ヘタレはやっぱりヘタレでした
「どこにいた!」
ディンがピッチの肩をガクガク揺らす。
ピッチは気分悪そうな表情になっていき、ディンはハッと我に帰る。
「こ……ここから東北東の……森に……」
「と……東北東の森……」
ディンは驚いた表情になり、フィン達は首を傾げる。
ピッチはヒザをついて額に手を当てていた。
「知ってるの?」
「あの森は……昔、俺が修行に使ってた場所だ。
そして、ピッチがあの場所にいた時間を計算すると…
…あいつは今頃、城に戻ってるはずだ」
「…なぜ……わかるの?」
「わかるさ。その時間には俺も城に戻ってた時間だからな……行くぞ」
ディン、フィン、サン、ミミ、シン、フリーズ、リリア、グレード、ヤミー、
ピッチ、レイ、フリーは、城へと向かった。そして、一時間後。12匹は、城へと着いた。
「……また戻ってきたな」
「実力も上がってないのに……大丈夫かな……」
「なあに……今回はこれだけ仲間がいるんだ。大丈夫さ」
「……リリア達やピッチなら大丈夫だと思うけど…
…ヘタレのレイとドジのフリーはすぐやられると思う」
サンの言葉にディンは苦笑いし、レイとフリーはへこんだ。
「落ち込むな。言われたくないなら言われないような戦いをすればいい」
シンの励ましにより、レイとフリーは、一気にやる気になった。
(ほんと、単純なやつらだな…)
「…よし、行くぞ」
城の扉を開け、一気に中に突入して奥に行く。
奥の扉を開けると、闇のディンが王座に座っていた。その横にはコウとクレアもいる。
「よぉ……待ってたぜ?てめぇら……」
「………」
ディン達は、闇のディンを睨む。そして、一気に攻撃体制に入る。
「まて……その前に、てめぇらが俺と戦う資格があるか試してやる」
「試す?」
闇のディンは、力を溜め始めた。その攻撃に備え、ディン達は構えたままだ。
「喰らえ!」
闇のディンは、闇の力を一気に解放した。その力はディン達を襲う。
「く……」
ほとんどの仲間が吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられて、動けなくなった。
唯一吹っ飛ばされてなかったのは、ディンとシンとリリア、ピッチの四匹。
「資格があるのは、てめぇらか……」
「そんな……」
「あたしも……やられるところだった……」
「ふぅ……」
一匹だけ吹っ飛ばされたが、すぐに立ち上がったポケモンがいた。
「さすがに痛いな……」
立ち上がったのはレイだった。飛ばされなかったディン達は、驚いた表情をする。
「あのヘタレが……」
「立った……」
「ふん……少しはやれるみたいだな……」
驚いたのはディンとリリアとピッチだけで、シンはクールでいた。
さすがというか、元犯罪者だけのことはある。
「俺ヘタレだからさ……防御関係は高いんだ」
「へ〜、さすがヘタレ……って、ヘタレって認めてるし!?」
ディンのツッコミが入った。まるで戦いを忘れてるみたいに。
「五匹に増えたか……まぁ、いい。何匹増えようが同じ事だ」
「行くぜ!」
「OK!」
ディン達はバラバラの位置に動いた。レイだけはオロオロしているが。
「十万ボルト!」
「シャドーボール!」
「かみなり!」
「十万ボルト!」
「えと……」
ほぼ同時に技を放った。しかし、簡単にかわされてしまった。
「レイ!なんで攻撃しねぇ!」
「だって〜……」
どう動けばいいのかわからなかったレイは、技を放てずにいた。
「バトル……嫌い……」
「ヘタレだな……」
「ヘタレね……」
「ヘタレが……」
ピッチ以外の三匹に連続で言われ、ズーンとへこむレイ。
「よそ見していていいのか?」
闇のディンは、ため息をしているディンに雷を放った。
もちろん、避けることもできない状態。
「しま……」
「リーフブレード!」
突如、何者かが雷をリーフブレードで軌道を変えた。そのポケモンは……
「戦いの最中によそ見をしているな!ディン」
「お、お前は……ジュプトル……ジュプトルなのか?」
「ああ」
なんと、未来へ帰り、消えたはずのジュプトルだった。
「なんでお前が………未来が変わって消えたんじゃ……」
「いや……俺は未来に戻った後、闇のディアルガと戦ったんだ。
そして闇のディアルガを倒し、時間と空間を分解してこの時代に飛び込んだのだ」
「そうだったのか……」
ディンはホッとした。ジュプトルの表情が戦いの顔になり、闇のディンに振り返る。
「で、あいつは何なんだ?」
「あいつは……俺の闇だ」
「なるほどな。どうりで姿形がディンと同じわけだ」
ディンが冷や汗を垂らして答えると、ジュプトルは納得した。
そして、ジュプトルとディンが闇のディンに近づく。
「ふん……タッグで来るか」
「見せてやるよ……俺達のタッグ戦法……」
ディンとジュプトルは構え、一気に走り出す。
ディンはそのまま走り、ジュプトルは高くジャンプする。
「ボルテッカー!」
ディンのボルテッカーが闇のディンに向かうが、かわされた。
しかし、かわされても壁を使ってどんどん向かっていく。
そして、ディンのボルテッカーが急に止まった。
「リーフブレード!」
ボルテッカーの連続攻撃に気を取られ、ジュプトルの上からの攻撃に気づかずにいた…。
もちろん避けることはできず、リーフブレードをまともに喰らった。
「ち………」
頬を手の甲でこすり、ものすごい形相でディン達を睨む。
「スピードはなかなかだ……。だが、それだけじゃ俺には勝てねぇぞ!」
さらに闇の力が強くなった。ディンとジュプトルは冷や汗を流す。
「二人を援護しなきゃ……」
シン、リリア、ピッチがディン達の所へ向かおうとすると、コウとクレアが立ちふさがった。
「あなた達の相手は私達……」
いかにも感情がないような言葉で言うクレア。
「この……いい加減目を覚ませ!」
シンは、コウに雷を落とす。だが、それはクレアのサイコキネシスで跳ね返される。
「ふん」
雷を受けたことで、シンの体力が回復した。特性のおかげだ。
「なんどやっても無駄だ!」
一方、ディン達は苦戦していた。攻撃してもよけられ、段々と当たる確率が低くなっていく。
「邪魔だ!」
「くっ!」
闇のディンの一撃で、ディンは吹っ飛ばされて壁に激突した。
「ディン!」
ジュプトルが慌てて駆け寄ろうとするが、闇のディンの攻撃をかわすのが精一杯だった。
ディンの意識は段々と遠のいていった。
「ここまで……なのか……」
すでに、ディンには周りの声や音は聞こえていなかった。
目の前は完全の闇。もう終わりなのかと思ったその時、頭に声が響いた。
< ……もう諦めるのか? >
「だ……れだ?」
心にいるディンは、ゆったりと目を開ける。そこには、光の球体があった。
< お前の仲間達は、まだ戦っている……お前は、もう諦めるのか? >
「……俺の力じゃかなわない……」
もはや、絶望モードでいるディンは、戦う意志さえなかった。
< このままじゃ、お前の仲間は死ぬぞ >
その言葉にピクッと反応するディン。
< お前はまだ、真の力を出してはいない >
「真の……力……?ちょ…それはどういうことだ…!?」
< さぁ…解き放て!! >
一方、ジュプトルはもう、体力が限界だった。片膝を床につき、息を切らしている。
そして、いつの間にか目を覚ましていたフィン達も、クレアとコウと戦う。
「ハイドロポンプ!」
「十万ボルト!」
ハイドロポンプと、十万ボルトが合わさり、攻撃力が増した技がコウを襲う。
しかし、身軽なのか、かわされた。
……勝てないのか……と、思ったその時、ディンの体が力強く光った。
「な……なんだ!?この光は!」
「お前を……」
光を発してるディンが、ゆっくり立ち上がる。
「お前を……倒す!」
さらに光が強くなり、光を受けたクレアとコウが気絶する。
「なに……これ……」
「ディン……?」
ディンはゆっくりと、闇のディンに近づく。
そして、見えないパンチで闇のディンを吹っ飛ばした。
「な……!?」
闇のディンは、すぐに体勢を立て直し、手を着いて着地した。
「なんだ?その力は……」
「お前を倒す為に目覚めた力……。お前が闇なら俺は光だ! (…たぶん)」
ディンは叫んだ。その言葉を聞いて、闇のディンはニヤッとする。
「なる程……光の力に目覚めたか……。だが、目覚めて間もない。勝つのは俺だ!」
闇のディンは闇の力を最大まで高めた。ディンも同じく、光の力を高めた。
「行くぞ!」
二人は同時に走り出した。
それぞれの手足には電気がまとっており、殴りと蹴りの激しいバトルになった。
しかし、そのバトルも、ジュプトル達には目で捕らえることはできなかった。
「なんて激しい…」
「見えない……」
二人の攻防戦ははげしい。しかし、もう二人の体力は限界に近かった。
恐らく、普通では使えない技を使っているため、体力の消耗は激しいのだ。
一方、気絶していたコウとクレアが目を覚ました。
それを見たジュプトル達は、再びバトルの構えをする。
「……あれ……俺……」
「ここ……どこ……?」
さっきとは、うって変わり、感情のある瞳になっていた。
それを理解したジュプトルは、構えをしているフィン達を止めた。
「こいつらはもう、操られてはいない。元に戻った」
「え……え……ポケモン!?」
「キャア!私、ポケモンになってる!?」
コウは、目の前のポケモン、つまりジュプトル達に驚き………
………クレアはエーフィになってる自分の姿に驚く。
「落ち着け。今、説明してやる」
コウとクレアは少し落ち着き、ジュプトルの話を聞こうとする。
「……つまり……」
「ディンは元々ポケモンで……」
「ディンの父親が俺達をポケモンにして……」
「今ディンが戦ってるのはディンの心の闇……?」
半信半疑な二人。しかし、目の前は現実しかなかった。
「まさか……ほんとだったなんて……」
「でも、今はディンがなんとかしないと俺達、また死ぬな」
コウはディンを見た。ディン達は、力を最大まで高めたまま動かない。
「何で動かないの?」
「おそらく、タイミングを狙ってるのだろう」
ディン達の力で瓦礫が崩れ、一片が床に落下した。その音と共に、二人が動いた。
ガキィ!という音と共に眩い閃光が放ち…ディンと闇のディンは、それぞれの位置にいた。
二人は攻撃した体制から動かず、まるで気絶しているかのようだった。
そして、ついに、ディンが膝をガクッと落とした。
「ディン!?」
「あれ…闇のディン………?」
闇のディンは、歯を食いしばり、いかにも悔しそうな表情になった。
「くそ……」
そう呟くと、バタッと倒れ、この世から体が消えた。つまり、ディンは勝ったのだ。
「か……ったの?」
「闇のディンは消えた……。恐らくそうだろう」
「やったぁー!!」
フィン達は、喜びと共にディンに駆け寄った。
ディンの体は傷だらけなので、ほとんどが飛びついた事によって、痛みの悲鳴をあげた。
「いってえー!?」
「アハハハ♪」
ディンが悲鳴を上げてるのを見て、周りは笑っている。
「はぁ……終わった〜……」
ゴロンと仰向けに倒れ、破壊された天井から見える空を見るディン。
「ディン……」
話しかけてきたのはコウとクレアだった。なにやら、暗い表情をしている。
「その……俺達……」
「……悪かったな、こんなのに巻き込んで」
コウが何かを言おうとしたとき、ディンが謝ってきた。その言葉に、クレアはハッとする。
「謝るのは私よ………
あの時、ディンが走っていくのを見て、行ってみようなんて言うから……」
クレアはまた沈んだ表情になる。ディンは歩み寄り、肩をポンと叩く。
「お前等は、もう向こうでは死んでいる。こっちの世界に残るしかない。
………あとは、お前等が決めるんだ」
「………」
人間界に戻れないのは悔しいが、まだ生きている。
そう思いながらコウとクレアはお互いの顔を見て頷く。
「さ、帰るか」
城跡を後にし、STARS基地に戻っていった。
一度ゆっくりしながら話をし、リリア一行、ピッチ、レイ、フリーは、自分の家に帰った。
これで、平和になったなと、ディン達は安心していたが、そうではなかった。
………闇のディンとの戦いから半年後………
「う〜ん……」
早朝。ディンが珍しく早起きし、ゆっくりと起き上がった。
その時、コロンと何かが腹の上から床に転がった。
「なんだ?」
転がった物を見てみると………ポケモンの卵だった。
「…………」
ディンは、しばらくポカーンとし、夢だろうと思いながらまた眠った。
そして数時間後。ディン達が一斉に起き上がった。
ディンが再び見てみると、同じ場所に卵があった。
「………」
「……これ、誰の卵?」
サンが気づき、卵を持ち上げて全員に見せる。
もちろん、全員は首を傾げ、ディンは冷や汗をかいている。
「……ディン?まさか、お前が産んだやつか?」
シンの言葉に、ディンがズルッとこけた。
周りは本気にし始め、ヒソヒソと話している。
「ディンが産んだ?」
「ディンてまさか、雌?」
「私達って騙されてたの?」
この言葉が耳に入り、ディンはガクッと肩を落とす。
「俺はれっきとした雄だよ……」
そう言うディンは涙目だった…。
次回、【第4話 ディン…まさかの結婚!?】
ディン「いや、サブタイトル全然違うだろ!それに…俺、結婚はしねぇぞ?」
318「まぁ、頑張ってくれ。」
ディン「ちょ、お前! …逃げたか…。」