7話:バトルの日まで
4匹がトレーニングを行っている時、PBEの男性更衣室に1人の青年が、入ってきた、いや青年というより、30代っぽい顔立ちである
「あれ、リュウイチ、今日休みじゃなかった?」
同じくそこにいた青年が声をかける
「いや、なんかやる事なくて、トレーニングしようかと」
「休めばいいのに」
「いいだろ、アキラ」
「まっ良いけどさ、じゃね♪」
話していた青年は入れ替わるように出ていく
「さてと・・」
青年、いやたぶん30代ぐらいだろうと思われるリュウイチと呼ばれた男は上着を脱ぎはじめる、かなり筋肉質だ、腕が太く盛り上がり、胸も厚い、脚もパンパンである
リュウイチは衣服をすべて脱ぐと、ロッカーに押し込む、そして、リョウとカナ、レンとカイが使用したあの鉛色の全身ボディスーツを取り出す
ジッパーを開け袖を通し足を入れ、最後に頭の部分を装着すると、背中のジッパーの割れ目が自動的に閉まり、ジッパー自体が消失する
「グググ・・」
そしてみるみる形を変える、リュウイチは170cm代だったが、さらに大きくなり、2mを超える、さらに身体の形も完全に人間の形ではなくなる、背中には突起のようなものが生え、腕や脚も人間のそれとは比べ物にならないほど太く、逞しくなる、さらに鋭いツメを生やす、またさらにまず人間には存在しないトゲの生えた尻尾が現れる、最後に色だけまだ鉛色で、シリコンのようだった、皮膚が岩のように硬くなり、薄緑色になる、そう、ポケモン『バンギラス』であった、ただこのバンギラスは背中にまずわからないくらいの小さなボタンがついている
バンギラスは手をバキバキと鳴らし
「バァン・・バァンバッ!」
と鳴くと更衣室を出ていく
ちなみに鳴き声を訳すとこうである
「さあーて、どうすっかな、とりあえず、ドーム内グルっと回ってからにするか」
ちなみにリュウイチは実は21歳である
様々なポケモンの鳴き声が入り乱れている中、この4匹の声もする
「はい!もっと思い切りー!、腕をのばして打つ!!、蹴り打つ時は力み過ぎず流れるように!」
「的をよく見て、置いておくように技を出す!!、ある程度変化を加えて軌道を考えるー!!」
レンとカイがアドバイスをする、2人の声は最初のぎこちなさが消えていた
「はっ!やぁッ!!」
ドッ!ドッ!ドカァ!!
リョウは目の前にあるバッグを叩き
「えいッ!」
ビシュ!
カナは前方の的に向けてはっぱカッターを繰り出す
4匹はドーム内の器具を使える部屋に来ていた
「しかし色々あるんですね、ここ」
カナがカイに言った
ここには、格闘練習用のバッグ、技練習用の的の装置、筋力増強用のポケモン用のベンチブレスなど様々な器具があった
「ああ、新人戦の時は身体に慣れる事が重点だから使用禁止だったけど今回から1年も使って良いと」
カイが説明する
「お、やっとるな」
カイが説明していると背後から声がした
「・・・・・」
カナは絶句してしまう
自分の2倍はある体長に薄緑のゴツゴツした肌、鋭い爪が生えた太い手足、背中は尖った剣のようで、鋭く目つきが悪い眼、大きな口には鋭い牙が生えている。
よろいポケモンバンギラスである
カナはバンギラスを見たことが無いわけではなかったが、それも人間の時の話、今のチコリータの身体では感覚がまったく違う、はっきり言って怖い
「あ、先輩」
カイは普通に対応
「(カイ先輩の先輩ってことは・・シルバーのバンギラス!?)」
カナが推測したこのバンギラスはここのPBEで中堅レベルの階級シルバーに所属するバンギラスである、持ち前の強靭な腕力と身体、豪快に繰り出す技などが見所で勝率は結構高めである、しかしパワーファイターが災いしバトルが流血沙汰レベルに荒くなりがちで、最近は人気低迷しているとカナは記憶している。
「(デ・・・でけっ・・)」
リョウもさすがに驚いている、ヒトカゲの体長は0.6mバンギラスは2.0m、差は3倍以上なのだから
そんな2人の反応を見てバンギラスはちょっと目を細めたあと
「わりぃ、邪魔した、頑張れよ(ああ、また怖がられた・・・)」
とだけ言い器具に向かった
「やっぱあの先輩は怖い?」
その後時間が過ぎもう夕方となっていた
「よし、もう今日は終了、解散!」
という声がドームのあちこちから聞こえる
もちろんこの4匹もである
「と言っても、新人戦の時と同じですかこの後は?」
リョウが質問する
彼ら新人団員は、新人戦の期間中一週間ずっとポケモンでいろと言われていたため、トレーニングが終わった後は、同じくポケモンの先輩や同期と話したり、ポケモンフーズの食事を摂ったりした後寝るというような感じであった
「ああ聞いてないよね、今回からいつ人間に戻ってもオーケーだ、戻りたければ適当な人探してボタン押してもらいなよ」
とカイが答える
「(・・・俺、戻るかな一旦落ち着きたいし)」
「よしっ!今日一日ありがとう!」
「じゃーよろしくー!」
リザードとマグマラシが去ってゆく
「「ありがとうございましたー!」」
ヒトカゲとチコリータも頭を下げる
「リョウ、あの先輩、どう思った?」
ヒトカゲの青い眼を見ながらカナが聞く
「ちょっと面白いとこあるよな、でもやっぱり頼れる感じがしたな」
「戦うのね、あの人達と・・・」
「やるからには勝つつもりでやろうぜ、カナ!」
「もちろん!」
パッ!
ヒトカゲの手とチコリータのつるが合わさった。
その夜・・
「・・・えーと・・」
「リョウ、これも結構役立つぞ、貸してやる」
「ありがとうございますジョウ先輩」
リョウは人間の姿で社員寮の自室でポケモントレーナに人気の本【ポケモンバトル必勝法】シリーズの炎タイプ編を読んでいた
「あー.やっぱりね」
「でもしっかりとアドバイスはしてくれましたよ」
「どこか、外れてるのよねあの2人」
「やっぱり本番が楽しみです」
「だんだんこの仕事にも慣れてきたようね、カナ、私も嬉しいわよ」
「はは・・・♪」
「ま、なんか変な事言ってきたり、やってきたら、私に言いなさい、50万ボルトでしばくから♪」
「ご・・50万?」
「私は50万まで発電可能♪」
カナは同じく自室で・・しかし彼女はチコリータのままで、同室のピカチュウ・・マイと話していた
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「「はー」」
レンとカイは今日を振り返っていた
「なーリザ、相談にいかね?」
「誰に?」
「アミ先輩」
トントン
ドアを叩く音
「はい」
という高い声と共に顔を出したのは紫の毛のバクフーン、午前中に2人を抱き上げたバクフーンである(3話参照)
「「こんばんは」」」
「あら、マグちゃん、リザちゃん」
「いいですか」
「もちろん!入って入って♪」
察しがつくと思うが、このバクフーンも元々人間、彼女は佐月(さつき)アミ、PBE4年目、階級はゴールドである
「なるほどね、自分達のやり方で後輩は大丈夫か・・」
ベッドの上で3匹のポケモンが話す
「どう思います」
スッ・・ギュッ
「はっきり言ってPBEでそんな事は気にするだけ無駄なのよ」
2人を抱き寄せながらアミは言う
「ポケモントレーナだって1人1人性格も違えば、手持ちも違う、どうポケモンを鍛えるかも違うでしょ」
「だから自分が良いと思ったことをやっていけばいいの・・」
「(ああバクフーンの毛皮やっぱ柔らかい)」
「(暖かいな・・)」
「分かりましたそんなに考えるものでも無いんですね」
「俺達プレッシャー感じ過ぎてました」
レンとカイがコメントする
「そういうこと、もう2回目よ、2年の子が相談にきたの」
「「ありがとうございました、じゃ失礼します」」
「待って、久しぶりに寝てかない♪」
アミが呼び止める
彼女はポケモンを抱いて寝るのが大好きである
「じゃ♪」
レンは飛びついた
「ほら♪リザちゃん」
「じゃあ・・・」
「(やっぱり・・マグマラシの姿で大好きなバクフーンと寝れるのは幸せ・・)」
「(落ち着くな・・・・)」
「(今更だけど私、人間に直すと裸で裸の男の子2人抱いて寝てるって事になるのよね、まぁいいんだけど、可愛いから♪)」
ベッドの上でバクフーンの腕に抱かれるマグマラシとリザード
「おやすみ・・頑張ってね・・」
「さてと寝るかな」
本を閉じてベッドに入るリョウ
「頑張れよ、リョウ!俺も応援してるから!」
向かいから同室の青年が声をかける
「ありがとうございます!ジョウ先輩も頑張ってください!」
「さてともう寝ましょう、カナ」
「くー・・・」
「もう寝てる・・随分疲れたのね・・・」
PBEの夜は更けていく・・・