モモナリですから、ノーてんきに行きましょう。

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ノーてんきに行きましょう
モモナリマナブのおてんき質問室 あとがき 元リーグトレーナー・クロサワ
 妙な時代になった。
 クシノが成功しようが、キリューが未だにババア一門のトップだろうが、私が解説者としてそれなりに食えるようになろうが、タマキがシルフトーナメントベスト4になろうが。そんなものは十分に予想できる範囲内だろう。
 だが、モモナリという男がこうも社会に受け入れられることを、一体誰が予想しただろうか。あの男に近ければ近いほど信じられないはずだ。社会というものを腕力でねじ伏せようとする奴の姿を、私達はあまりにも見すぎている。
 そもそも、あの男が言われるがままに文章を書き続けている事自体が、長年付き合いのある私からすれば異常事態だ。考えるよりも先に手が出る、手が出てから考える、そんなトレーナーとして理想のような本質を持つ男だ。私はかつて「お前は考えが特殊すぎるからもっと喋れ」と助言したことがあるが、ここまでやれとは言っていないし、出来るとも思っていなかった。私の鑑定眼がもとより大したものではなかったのか、それともモモナリという男が驚くほどに変化したのか、もしくは時代が変わったのか、勝負感の衰えた老兵にはわからん。
 とにかく、妙な時代になった。
 散々世話をしてきたモモナリが本を出し、私がそのあとがきを依頼される。しかもその本は、モモナリが素人からの質問に答えるものだという、頭が痛い。素人がモモナリに意見を仰いで何の意味があるというのか。
 最初は、私とモモナリについての思い出を書いてくれと言われたのだが、私はそれはあまりにもつまらないと思った。たとえ文章上とはいえ、そんな弟分におべっかを使う様な真似ができるものか。
 モンスターボールをちらつかせながら担当者にそう言うと、ならば質問に答えてくれという。モモナリに来た質問の内、プライベートなものを含めて答えづらいものがあったという。まあ、思い出話よりかは奴に反抗できるだろうとそれを飲んだ。許せ、モモナリ。



Q モモナリさんって本当にバトルにしか興味がなさそうに見えますが、名誉欲や異性への関心はないんでしょうか?

 モモナリの女関係は非常に多い質問だったと聞いている。リーグトレーナーの色恋沙汰なんざに興味を持つ理由が私にはわからん。だがまあ、奴についてなら答えても問題ないだろう。
 私の知る限り、あの男に女への興味はあまりない。たまたま戦いたいと思ったトレーナーがそれなりの見た目だったことはいくらでもあるだろうが、関係がその先に進んだという話は聞いたことがない。戦いを稼業にしているからか、リーグトレーナーに惚れる女は多いが、残念ながらあいつに興味を持たれようと思ったら最低でもバッジが八つ必要だろう。
 悪い虫が付かぬようにとそういう店に連れ込んだこともあるが、終始つまらなさそうだった。馬鹿みたいな服を着た女よりも元リーグトレーナーであったらしい用心棒の方に興味を示したものだから私が恥をかいたくらいだ。
 そう言えば、一度だけ奴の取り巻きからそういう話を聞いたことがないこともないが、いつの間にか立ち消えたな。
 だがまあ、自分の欲求に嘘はつかない男だし、やりたいことをやり続けてきた男だ、女に惚れれば勝手にくっつくだろう。
 名誉欲は女への興味に比べたらある方だろう、チャンピオンやシルフトーナメントなどのタイトルにはそれなりに興味があった。まあ、それなりにしか興味がない事自体が、我々とはあまりにも逸脱していたが。



Q モモナリさんの才能論はリーグトレーナーにとって共通認識ですか?

 モモナリの才能論に関しては本編にて散々書かれているだろうから今更説明はしないが、私に言わせればモモナリの才能論はヌルい。他のリーグトレーナーも半分くらいはその様な認識だろう。
 モモナリは才能についてかなりハッキリものを言ってリーグトレーナーにもなれぬ雑魚どもからとやかく言われるが、何万人もいるトレーナーの中から一番を決めようという機構の中で、才能など関係ないというものが居たとしたらそいつこそが気狂いだ。学問や努力に力を入れて結果を出したトレーナーはいるだろうが、それすらも才能という基盤があってのものだ。最後に差が出るのは才能である。私とモモナリの才能論の一部は同じだ。
 奴がヌルいのは才能がないトレーナーへの扱いだ。やつは才能がない人間に対して優しすぎる。
 世のご機嫌を伺う他のリーグトレーナーがなんというかはわからないが、私は才能がない(弱い)人間はリーグから消えていなくなってしまえばいいと思っている(これが編集の検閲を通さぬ文章であったらもっと過激な表現をしただろう)私が彼らに抱いていた感情は怒りだ、才能もないくせにこの神聖な機構に居座ろうとする、厚顔無恥な愚か者だ。そんな愚か者と対戦しなければならない才能あるリーグトレーナーの時間を無駄にしている。
 だから私は通用しないと感じたら自ら身を引いた、本当ならばチャンピオンになれなかったあのときに引退するべきだったとすら思うが、そこでそう決断できなかったことが私の弱さだろう。
 モモナリは私の逆だ、あいつは才能のないトレーナーを慈愛の目で眺めている、奴が才能のない人間に引退を勧めるのは優しいからだ。「こんなところにいては危険だよ。さあ、ドアを開けてあげるからお帰りな」と、本気で思っている。そして「弱いのにあんなに頑張っているなんてかわいそうだ」と憐れむ、私達なんかよりもよっぽどたちが悪い。
 そもそも「強さよりも料理が作れることのほうが価値がある」と平然と言えることが私には信じられない。それこそ、強いことだけが我々の価値ではないのか、私達は強いことだけで今の地位を得ているのではないのか。私の中では強いということは旨い料理を作ることの上位互換だ。私が旨い料理を食えるのはひとえに私が強いからだ、強かったからだ。そうとしか思えない。
 私には余裕がなく、奴には余裕があるのだろう。私を含む中途半端な才能を持ってしまった他のリーグトレーナーはこうは思えないだろから。



Q モモナリ選手は本人の口ぶりや他の関係者たちから才能があると言われていますが、それならば何故チャンピオンになれないのですか?(質問投稿時はまだ〇〇期シルフトーナメント前)

 くだらない質問だ。この質問が許されるのは十四才まで、もし質問者がそれ以上の年齢であるのならば今すぐ息をするのを止めたほうがいい。空気の無駄だ。
 モモナリがポケモンリーグのチャンピオンになっていないのは確かだが、それはひとえにに他のリーグトレーナーが素晴らしいからだ。それこそ、理不尽なまでの才能を、努力と学問、戦略で抑え込むという技術がリーグトレーナーたちにあるからに他ならない。言われないとそんなこともわからないのか?
 最も、いつまで立っても結果を出さぬモモナリにも責任はある。この私ですらチャンピオン決定戦に駒を進めることはできたのだ、奴がその気になれば私より上に立つことはできるだろうに、私も歯痒い思いをしている。



Q モモナリさんへの第一印象と今の印象は大きく異なるものですか?あまり変わっていませんか?

 世間は随分とモモナリを見る目を変えたようだが、私からすればそれほど変わっていないように思える。
 奴と初めて会った時、私はとんでもないやつが現れたと思った。そして、今でもとんでもないやつが現れていると思っている。
 ただ、色々指導してやったおかげで物事の分別というものは弁えたようだ。一心不乱に、粗悪なフードを食い散らかしながら食事をしていたポチエナが、グラエナに進化してそれなりに高級なフードをおとなしく食うような感じにはなっている。
 だが、人の本質はそう簡単に変えられるものではない。情報筋から奴のガラルでの立ち回りを聞いたが、そりゃあ愉快なものだった。やりたいことをやりたいときにやりたいようにやる。強い人間はそうでなければ。
 だが、奴から見た私の印象は変わっているだろう。
 モモナリと初めて会った時、奴はキラキラした目で私との対戦を求めてきた。私がめんどくさがって凄んでも引かなかった、むしろ、私が凄んだことでより戦いが近くに来ているとよりを目を輝かせていた。対戦そのものでなんとか対面は保ったが、私はその才能に驚いたのだ。
 だが、今私がモモナリと顔を合わせても、奴が私と手合わせを求めることはない。モモナリの中で私はもうフードではないのだろう。今の私に力がないことは認めるが、それでも、突きつけられる現実は心にくるものがあった。



 質問は以上だ。まだまだモモナリ本人についての質問はあったようだが、あまり答えすぎると奴を喰ってしまう。あとはクシノを筆頭とした奴の取り巻きに聞けばいい。
 とにかく、妙な時代になったものだ。
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■筆者メッセージ
 以上でおまけを含めて質問コーナーは一区切りです。
 アンケートでクロサワが一番人気だったのは驚きました、僕の中ですでに役割を終えたキャラだったので。久しぶりに彼の感覚で書いてみましたがみなさんが期待していたものが書けていたかどうかは少し不安です。
来来坊(風) ( 2021/03/26(金) 17:48 )