モモナリですから、ノーてんきに行きましょう。

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ノーてんきに行きましょう
コラム モモナリという男 其の四 ――殿堂入りトレーナー ワタル――
 モモナリと言う『トレーナー』について書くならば、まずはシゲルとレッドに私が負けた事から書かねばならない。
 当時ポケモンリーグは四天王とチャンピオンの強さをよりアピールするために、四天王とチャンピオンを勝ち抜けばそのまま殿堂入りトレーナーになることができると言う興行を開催していた。発案者はキクコである。
 挑戦者はカントージムバッジをコンプリートしている事と、チャンピオンロードを自力で抜けることが条件だったが、それでも私達が負けることはなかった。当然である、私だって四天王を勝ち抜いた後にチャンピオンと戦って勝てるかと言われれば絶対ではないと答えるだろう。
 シゲルがバッジをコンプリートし、チャンピオンロードを抜けたことを知った時には気を引き締めた。彼はこれまでのあらゆる挑戦者に比べて異端だった。現代に続くトレーナーの基本は彼が作ったと言っても過言ではないだろう。
 結論から言うと私達はシゲルに敗北した。続くレッドは私を含め六人抜きで殿堂入りトレーナーとなった。
 当時チャンピオンであった私の二つの敗北はセンセーショナルに広がった。私個人はこの敗北で多くのものを失ったがポケモンリーグ全体としては非常に有意義だった。多くの少年少女がレッドやシゲルに憧れ『ワタル程度になら勝てる』と奮起したのである。

 私はチャンピオンの権威を取り戻すために奮起した、どんな挑戦者が現れようと、ジョウトリーグとの併合があろうと、私はチャンピオンであり続けた。そうすることでしかシゲルやレッド、カントーリーグトレーナーの強さを示すことが出来なかったのである。
 勝ち続けなければならない日々を二年ほど過ごした頃、モモナリと言う少年がとんでもないスピードでバッジをコンプリートしたと聞いた。レッドよりわずかに遅いが、シゲルより速い。最も一週間どうこうの誤差で強さに差が出るわけではない、重要なのはその二人にせまるようなトレーナーが現れたということだった。
 初めて彼の試合を見た時私は衝撃を受けた。この才能をドラゴン使いの一族に欲しいとすら思った。
 モモナリのバトルの才能の中で私が最も価値があると思う物は、ポケモンに対する観察眼である。彼はポケモンの細かな挙動から敏感に彼らの感情や本音などを読み取ることができる。我々ドラゴン使いの一族はドラゴンポケモンと心かわすことを良しとし、最終的な目標ともしている。彼はその能力を少年の頃から会得していたのだ。

 次は彼かと私は覚悟した。同時に、この勝ち続けなければならない日々から開放されるかも知れないとも思った。
 しかし、モモナリには悪い意味で欲が無かった。各地の強豪トレーナーのもとに赴き通り魔的に野良バトルを仕掛けるほどの野心と自信はあったが、何が何でも勝たなければならないという必死さは無い。我々トレーナーにとって敗北はなんとしても避けたいものの一つであるはずだが、彼は特にそれを気にしてはいないようだった。勝負に対して非常に淡白なのである。それでいて中途半端に勝つものだから彼自身もそれを改めるタイミングが無かったのである。
 皮肉なことだが、彼がドラゴン使いの一族の一人として生まれていれば、不世出の天才として名を残したかもしれない。

 ある日、私はフカマルのタマゴをドラゴンの繁殖地で保護した。親のガブリアスは派閥抗争によって死んでいた。長年繁殖地のボスを張っていた強いドラゴンだったが、野生の世界は何が起こるかわからない。
 どうせ繁殖地で生まれても長くは持たない命である、私が今から新しく育てる気力はないし、ドラゴン使いの一族に任せるのもなにか違う、また別の誰かに託そうと思った。
 その時私の脳裏にモモナリが浮かんだのである。彼ならポケモンの知識が豊富であるからタマゴを孵化させることもできるだろうし、何より私自身がドラゴンポケモンを操る彼の姿を見てみたかったからだ。
 何年も勝ち続けるという義務を全うしたのである、このくらいのワガママ許してもらってもいいだろう。

来来坊(風) ( 2015/07/29(水) 22:30 )