32-完敗
頭が痛い、胸焼けもする、何度か吐いたのだろうか、喉も痛い。
僕はよく呑むが、悪酔いはしない。記憶もしっかりしている方だし、特に自分にダメージの残る良い方はしない方だと思っていた。ところがこのザマである。
原因ははっきりしている、昨日のBリーグの対クロセ戦である。
お互いに三勝無敗で迎えたこの試合は、僕の今後を占う重要な試合だった。僕はそれなりに気合を入れて望み、そして負けた。
負けのエピソードに事欠かない僕である。ただ負けるだけじゃへこたれないし、ダメージもない。僕がこんなにも、目覚めを布団以外の場所で迎えるほどのダメージを受けた理由は、僕にとっては久々の『完敗』だったからである。
僕はこれまで数多く負けてきたが、まったく理解の出来ない負けというのは記憶に無い。あの時ああすればよかった、あの時ああすればよかったと思い返し反省する。それが僕の負けた時の行動である。
負けを納得し、反省することはポケモントレーナーとして当然のことだと僕は思う。バトルというのは僕達人間だけのものではない、僕達の代わりに傷みを負い、戦うパートナーがいるからこそなのである。
負けてもいい、勝者がいれば敗者がいる世界である。しかし、また次の時に同じように負けるのは許されない。負けを次に活かすことは僕達人間の義務である。
しかし、クロセ君との試合は何度思い返してもその反省点が浮かばない。負けた張本人である僕自身が、なぜ負けたのか理解が出来ないのだ。リーグトレーナーである僕がこう書くのは何よりも恥ずかしいことだが、書いて僕自身の気持ちを整理しないとどうしようも無いのだ。
つまり、クロセ君のバトルと僕のバトルの間には大きな溝があるということなのだ。俗にいうレベルの違いと言うやつだ。
何をすればこの溝が埋まるのか全くわからない、次またクロセ君と戦うときにどうすればいいのかわからない。
こう書き続けると、朝だというのにまた酒が恋しくなる。それが逃げであるという事は理解している、僕がトレーナーである限りそういうものとは向かい合わなければならない事も覚悟はしていたつもりである。しかし、いざこうなってしまうと、動揺ばかりが先に来てしまって、どうも落ち着くことが出来ない。
少し時間がほしい。