2-美人とギャップは大体合う
僕達ポケモンリーグトレーナーについて、例えばこの雑誌の読者さんの多くは「ポケモンに対する愛情」に対する疑問を持っているだろう。多くの雑誌や有識者が僕達に対する苦言を呈していることも勿論知っている。
確かに僕たちはポケモンを傷つけ、屈服させることを生業としている。それを否定することは出来ない、しかし、だからといってポケモンに対する愛情が無いかと言われれば、少なくとも僕自身はそんなことはないと断言できる。
僕と一番付き合いの長いパートナーであるゴルダックとは子供の頃からの付き合いだし、彼は戦いが好きだ。
たとえどんなに力強く、タフで、強力なポケモンが居たとしても、そのポケモンが戦いに対して消極的であれば、ポケモンリーグトレーナーにはなれないだろうし、恐らくジムバッジを獲得することも不可能だろう。
僕達は自分とパートナーのポケモンが勝ち名乗りを上げることを無常の喜びとしている。最も強いトレーナーであるチャンピオンを目指しているのもそれの延長線上である。負ければ辛く、苦しい。しかし勝てばそれ以上の喜びがある。パートナーとともにそれを目指すことが愛情ではないと言われればもうどうしようもない。
現代最強トレーナーとの呼び声高いシンオウリーグチャンピオン、シロナも「強くなる為に必要なのは、ずっとポケモンを好きでいる事」と語っている。
私はそのとおりだと思う。
言うな、と釘を差されたいたがもう随分と昔の話だし、今では随分と有名な話なので勝手に時効と判断して、カンナさんについて書こうと思う。
カンナさんと言えば、殿堂入りトレーナーの一人であり、カントー・ジョウトリーグに置いて長く四天王として活躍し、伝説のトレーナー『レッド』を苦しめたトレーナーの一人として歴史に記憶されている。『レッド』の活躍を機にポケモントレーナーを目指した僕のような少年からは、彼女は恐怖の対象であった。
僕がまだ若手のリーグトレーナーだった頃、エキシビションマッチのためにナナシマにカンナさんを含む何人かのトレーナーで行ったことがある。
都会的な美貌とは裏腹に、カンナさんはナナシマの一つヨツノシマの出身で、彼女はナナシマでは「ヨツのカンナちゃん」だった。歓声にはにかむ彼女は僕達にとって新鮮だった。その頃にはもう四天王では無く、Aリーグ中下位のトレーナーだったが、僕達では歯が立たなかったことを記憶している。
エキシビションが終わった後、僕はこっそりとカンナさんの後をつけた。別に彼女の私生活に興味が有るわけじゃなくて、彼女の強さの秘密を少しでも知れたら、という気持ちがあった。
彼女はヨツノシマのいてだきの洞窟に入った。僕も同じく入ったが、そこで彼女にバレてしまった。彼女はなし崩し的に僕を許し、二人で洞窟の最奥部に向かった。
そこは世界でも珍しい、ラプラスの繁殖地だった。そこで子供のラプラスを撫でる彼女の目の優しいことと言ったら。彼女に対する僕の見解が百八十度変わり、同時に彼女の強さの秘密も理解できたわけだ。
今、ヨツノシマのいてだきの洞窟は特別保護区に指定され、簡単には入れない。密猟者の関係から、今では現役を引退されたカンナさんと、彼女を慕うトレーナーの多くが見張っている。恐らくもう二度と経験できないだろう。