16-お月見山のオグラさん
先日、ハナダシティをぶらぶらしていた時のことである。ちなみに何故ハナダシティをぶらぶらしていたかというと、ハナダシティが僕の地元だからである。ハナダシティはタマムシ―セキチク間のサイクリングロードにも負けず劣らないサイクリングの町である、なんてったってカントージョウトにまたがる大手サイクリングショップの本店があるわけだ。自転車に対する理解も深い。
僕はワタルさんから貰ったタマゴを専用の三輪車に乗せて、るんるんとサイクリングに勤しんでたのである。商売というのは素晴らしい物で、僕のような中年トレーナーのために、タマゴの孵化用自転車は電動式のものも選べるようになっており、しかもそこそこの安さでレンタルまでしてくれるのだから、これを利用しない手はない。
しかし電動と言っても結局はこがなければ前に進まない、さんざん漕いだ後に疲れた僕が一息ついていると。
「モモナリさん!」
と、遠くの方から声をかけられたのである。
見れば、なんだかデカいリュックと機能性抜群であろうポケット満載のジャケットを来た男が小走りにこちらに向かってくるわけである。声をかけられた手前彼に手を振りながら「あれー? 僕に登山なんてアクティブな趣味を持った友人居たかな?」と思っていたわけである。
さて、その男は僕の側にまできて「お久しぶりです」と几帳面に頭を下げたわけだが、本当に申し訳ないのだが僕はこの時点でまだ彼が誰なのかわからなかったのである。
ここで彼の特徴を書いておく、無精髭、はまあ登山してたわけだから仕方がないとして、日に焼けた肌、筋肉質な腕、いかにも健康ですと言わんばかりの笑顔。うーん、わからん。
「あのー、失礼ですが。どなたでしょうか?」
僕だって馬鹿じゃないから失礼なことはわかってる、わかってはいるが、本当に身に覚えがないのだからしょうがないじゃないか。声はちょっと聞いたことがあるような気もするのだが…。
その男は笑って「ははは、僕ですよ、オグラです」と言ったものだから、僕はますます混乱したわけだ。
オグラ君と言えば、シバさんに負けてトミノさんの酒の肴にされた事をいつか書いたと思うが、彼は全然こんなタイプじゃなかった。むしろ細身で、色は白く、学者然とした風貌だった。そんな彼が失意のものに居たから僕は面白くてエッセイにしたのだからそこは間違いない。
兄弟か何かかな?と思った、そういえば兄弟がいるようないないような話をしていたような気がしないでもない。しかし久しぶりですと言われるほどの仲ではないような。
「オグラ君と言うと、あの来年Bリーグに昇格する?」
「ええ、ありがとうございます」
「んー? 今年シバさんに負けた?」
「ええ、その節はお世話に」
そこまで質問して、僕はようやく現実を飲み込み「ああ、昇格おめでとう」と右手を差し出したわけだ。
「お月見山に?」
お月見山とはニビシティとハナダシティの境にあるう岩山である。はるか昔に隕石が落下し、それ以来ピッピと言う珍しいポケモンが繁殖するようになったのが有名である。
「ええ、二週間ほど。ピッピ達の満月の踊りをどうしても見たくて」
僕は話半分にしか聞いたことがないのだが、ピッピというポケモンは満月の夜になると踊るらしい。
「モモナリさん知ってましたか? ピッピ達はつきのいしがのパワーをある程度理解していて、まるで神様のように祀ってるんですよ。いやーいいもの見ました」
興奮しながら喋るオグラ君にあの頃の姿はない。
「いやしかし、オグラ君はずいぶんと変わったねえ」
そう言うと、彼は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑って「モモナリさん、飲みに行きましょうよ」と言った。
「ん? 君はまだ飲めないんじゃ」
「おつきみやまで誕生日を迎えました、山男さんたちと祝い酒もしましたよ。いやー、お酒があんなに美味しいとは思いませんでしたよー」
この後僕達は僕の行きつけの店に行ったのだが、そこで興味深い話が聞けたので次週に続ける。