12-僕の進化論
さて、キシ君とのシンオウ珍道記は先週で終わったわけだが、実は帰りの電車でもう一ネタあったので書きたいと思う。
実は帰りの電車内で僕とキシ君は昨今のバトル事情について熱く語り合ったのである。最も、キシ君といえば最新バトル事情そのものであり、僕はといえば一昔前の人間ではあるのだが。
褒めたり褒められたりが続く内に、不意にキシ君が「モモナリさんは、ガブリアスをパーティに入れないんですか?」と弾みで言って、しまったという風に顔をしかめた。
僕達の間には「他人のスタイルに口出ししない」と言う暗黙の了解がある。主な理由は二つあって、一つは「大きなお世話だこのやろう」と言うもの、もう一つは「そんなこと言ってそいつが強くなったらどうしてくれるんだこのやろう」と言うものである。ちなみに僕はあまり気にしない、そんなこと言われても出来ないものは出来ないし、必要ないと思うものは必要ないからである。
ちなみに現在ガブリアスと言うポケモンは僕達リーグトレーナーの中でも過半数がパーティもしくはサブパーティに入れており、僕みたいに入れていないトレーナーのほうが少数派だったりする。
「ああ、ドラゴンポケモンにはどうも抵抗があってね」
笑って返した僕に安心したのか、キシ君はもう少し続ける。
「気持ちはわかりますが、モモナリさんは砂嵐戦術の第一人者ですし、他のトレーナーが持て余し気味のガブリアスの特性を使いこなせる数少ないトレーナーだと思うのですが…」
ガブリアスの特性は砂嵐状態で真価を発揮する砂隠れと言うものだが、それ以上にガブリアスの持つポテンシャルが凄まじく、特に砂嵐状態を使用するわけでもないトレーナーでも、ガブリアスをパーティに入れている。僕はノー天気ゴルダックのお陰で特に砂隠れの影響を受けなかったが、とりあえず出してみたという考えなしのガブリアスに足元を救われた砂嵐使いは数多い。
キシ君はそう言う噛み合いをものすごく気にするトレーナーで、彼がパーティのメンツをガブリアスからカイリューに入れ替えて大躍進したのは記憶に新しい。
「見せ合いでもガブリアスが入れば大分相手を縛れますよ」
彼の言うことは最もで、僕のパーティや得意な戦術から考えると、むしろ何故ガブリアスを入れていないのかと疑問に思う人は多い。ファンや関係者もその例に漏れず、僕は『頑なにガブリアスを使わないトレーナー』の急先鋒として見られている。別にその立場で得をしたり損をしたことがあるわけではないが。
「うーん、たしかにそのとおりだと思うけど、やっぱりこう、必要に迫られてというのはどうにも気が引けるなあ」
「そういうものですか。最近は結構ベテランの方もシナジーを気にしますよ」
「僕はホラ、ロマンチストだからさ。結構出会いとかを大事にするんだよ」
おちゃらけて聞こえるかもしれないがこれは本当のことで、僕は出会いであったり思い出であったりというものを結構気にする。そうしないと、自分の代わりに戦っているポケモンに何か妙な感情が芽生えるような気がしてならないからだ。最も、必ずしもそうなるとは限らないし、若手のトレーナーでもポケモンと素晴らしい関係を築いていることは知っている。
しかし、それだけで強くなれるわけではないから(理想と現実の間だ)必要に迫られて育成したポケモンが居ないわけでもない。なので、これ以上そう言う負担を増やしたくないという気持ちもある。
「それなら、いい出会いがあれば?」
「そりゃまあ、ねえ」
僕は苦笑いで誤魔化した。