第六話
「シザークロス」
虫タイプのポケモン、テッカニンが俺のサンダースの目の前に迫る、まだ回避の指示を出すには早い、もっと、もっとひきつけなければ。
「砂かけ、高速移動」
「回避しなさい」
テッカニンがサンダースを捕らえようとしていたその瞬間に指示を出す、サンダースは前足で砂をテッカニンの目の前にかき上げ、テッカニンがそれを避けている隙に距離をとった。
「電気ショック!」
「む、バトンタッチ」
サンダースの体から電撃が放たれる。威力は小さいが隙のない技だ。ロバートの指示は一瞬遅く、テッカニンは電撃がヒットしてからボールに戻った。
「君のポケモンもデンジのポケモンも、指示が出されるギリギリまで攻撃を避けない、強い信頼関係があるのでしょうな。それに技の威力も素晴らしい、小技ながらやられる所でした」
「弱点を突いたまでです、早く次のポケモンを出さないとサンダースの技の威力がさらに上がってしまいますよ」
ロバートが話しているその時にもサンダースは体に電気をためている。サンダースをはじめとする電気タイプと対戦する際には無駄が許されない、一秒のロスがそのまま技の威力に直結するからだ。
「心配ない、サンダースにはそのまま退席して頂く、デンジを倒した私の切り札でね」
ロバートが腰からボールを取り出す、彼の切り札の情報は無い、間違いなく強力なのはわかっている、何しろあのデンジを倒したポケモンなのだ。
それに厄介なのは先ほどのバトンタッチ、バトンタッチは自らの能力変化を後続に引き継がせるものだ。テッカニンは飛び続けているだけで自らの素早さを引き上げる特性を持っている、そしておそらく今から出てくるポケモンは重量級、力強くタフだが鈍足さがネックとなっているポケモンだろう、そのポケモンが鈍足さという弱点をテッカニンの特性とバトンタッチの特性で回避する、手堅く強力なコンボだ。
ロバートがボールを投げる、出てきたのはいくつもの鋼の塊が連なっているポケモン、ハガネール。ハガネールのタイプは鋼と地面、電気タイプとの相性は最悪。だが乗り越えなければならない、デンジを超えるのであれば。
「アイアンヘッド」
ボールから出てきた勢いそのままにハガネールの巨大な頭がサンダースに向かって来る、やはりそれは今まで見てきたハガネールよりも数段早かった。
チマリの小さな疑問を、地響きが消し去った。建物が壊れるほどのものではないが日常生活ではあまりお目にかかれないものだ。そのあとにポケモンの唸り声、その唸り声には聞き覚えがあった。今朝、デンジを倒したトレーナーの切り札、ハガネールのそれだ、鳴き声からだいぶ追い詰められているのが分かる、しかもデンジさんと戦っている時以上にだ。誰が、誰がここまで追い詰めているのだろう。
「デンジさん、デンジさんだ!」
チマリはベットから立ち上がった。デンジの敗北は何かの間違いで、今、仕切り直しをしている。そしてデンジがあのトレーナーを圧倒しているとチマリは確信した。
チマリは持っていたキリトのジャケットを床に放り投げると、バトルをしているであろう場所へ向かった。
場所はすぐに分かる、デンジが作ったナギサ名物の陸橋に上って、ぱっと見渡してハガネールの頭が見える場所へ行けばいいのだ。近くにある民宿、戦いはそこで行われている。
鳴き声から感じるにハガネールは大分弱っている。今にも力尽きそうだ。
チマリはさすがデンジさんだと呟いた。たった一度見ただけなのに完全に相手を凌駕している、どのようなバトルが行われているのか、早く見に行かなければ。
チマリがその場に到着したとき、ハガネールが大きな音を立てて崩れ落ちた。ちょうど勝負がついたのだ。ロバートがハガネールをボールに戻し悔しがっている。
「やった! 勝った」
チマリは思わず声に出して喜んだ、
キリトがその声に気づいてチマリのほうを見る。土煙でお互いに姿は分からないがキリトは声の主がチマリであると分かった。 少しして土煙が晴れると、チマリからもキリトの姿が確認できるようになった。
チマリはまさに、きょとん、とした顔で言った、
「あれ、なんで? キリトが居るの?」