第十八話
ロズレイドをボールを戻し、自らの判断の遅さに悔いる。すまない。
残るポケモンは一体、俺はすぐにボールをエレキブルの背後に向かって投げる。エレキブルはまだ体勢を立て直せていない、ギガインパクトは高威力だが攻撃後の体勢が非常に悪い。削り切れはしないだろうが、一撃与えるくらいに隙はある。
「水の波動!」
ボールから飛び出したシャワーズはエレキブルから距離をとり、四肢で地面に踏ん張る。青い肌が光を反射しきらきらと光っていた。
「死角から来るぞ、放電」
エレキブルは悪い体勢のまま両手でそれぞれ尻尾の先端を握る。
シャワーズは口を開け、水流を繰り出す、隙の少ない中威力技で正面から撃つことが出来れば相手の混乱を誘うことが出来るが今回は無理だろう。
水流がエレキブルに当たる直前に放電が開始される、シャワーズは攻撃範囲の外だったのでこれと言った被害も無く、水流は振り向きざまのエレキブルの背中と左半身にに直撃。
「真後ろだ、振り向きざまに雷パンチ」
大きく後ろに下がりながら右腕を振りかざす。リーフストームのときと同じでダメージは受けてないように見え、技の速度も先ほどまでに比べて格段に早い。
この時、俺の中で可能性の一つに過ぎなかったある仮定が確証となった。。
エレキブルの特性は電気エンジン、電気タイプの技を受けてもダメージを受けず、自らの俊敏性をあげることが出来る。突然変異種とはいえ恐らくこのエレキブルも同じ特性だろう。
エレキブルがリーフストームと水の波動を受けたとき、葉っぱや水は電気の壁を突き抜けた後にエレキブルに当たっていた。
もしやエレキブルは相手の技を帯電させることによって無理やり電気タイプの技に変えているのではないだろうか。もちろん、普通のポケモン同士での対戦では起こりえないことだ。だが相手は突然変異種、常識は通用しない。
「下がりながらすなかけ」
シャワーズが尾びれで地面の砂をかきあげながら身を引いて拳から身を守る。
砂はエレキブルの顔あたりにかかり、少しだけたじろいだ。
黒い瞳で俺をちらりと確認し、指示を仰ぐ。ぴんと張った耳で指示を聞き漏らすまいとする。長い付き合いだがこいつとならどんな強敵が相手でも何とかなるような気がする。
これからはアンカーとアンカーの対決。
デンジのエレキブルか、俺のシャワーズか。
「勝ちたいのか、負けたいのか、さっぱり分からない」
チマリはうーんと唸りながら悪態をつく。
競技場ではシャワーズとエレキブルがにらみ合っている。だが相性とサイズの関係でどうしてもエレキブルのほうが押しているように感じられる。
ロバートはチマリの方に少しだけ視線を向かわせ「何故かね?」と聞いた。
「シャワーズをアンカーに据えるなんてどうかしてる、いや、そもそも持ち手に水タイプを組み込むことが間違っている。相手が電気タイプのエキスパートなのは分かりきっていることなのにわざわざ弱点で迎え撃つなんて」
電気タイプにポケモンに対して水タイプのポケモンは圧倒的に不利、ましてやデンジは電気タイプのエキスパートでもある。チマリはデンジと挑戦者のバトルを多く見てきたが、アンカーに水タイプと言う選択をしたものは数少なかった。ほとんどのトレーナーが地面タイプや草タイプを中心にしたメンバーだった。
不満と、疑問の表情を浮かべるチマリに対して、ロバートはまるで疑問を感じていない、涼しげな表情で答える。
「もし、ポケモンバトルと言うものがじゃんけんの様なゲームであったら、そういう考え方もある。だが彼らのバトルとはそんなものではないのだ。事実、私は電気タイプに対して圧倒的に有利な地面タイプのポケモンを使用し、敗れている」
チマリはロバートがアンカーに据えていたハガネールのことを言っていることにすぐ気が付いた。
ロバートのハガネールは、デンジのサンダースを倒したものの、レントラーの多彩な噛み付き攻撃に敗北した。
「もちろん、タイプの相性はバトルにおける絶対的な基本で、スクールで真っ先に覚えなくてはならないものの一つだろう。だが、時としてはそれよりも真っ先に優先せざるを得ない事もある。分からないのも無理は無い、君は私よりも遥かに才能のあるトレーナーだろうが、トレーナーとしての経験は私のほうが二倍以上ある、月日が立たねば分からないこともある」
エレキブルが小さな電撃を放つ、牽制的な意味もあるであろうそれをシャワーズはひらりとかわし、先ほどと同じ距離をとった。
チマリはロバートが何を言っているのかが分からないと言った風に首を振った。
「それは何?」
ロバートは視線をキリトのシャワーズに移した、水色の肌には艶と張りがあり、尾びれは優雅でもありまた力強くも見えた。
「信頼関係だよ、ポケモンとトレーナーの信頼が強ければ強いほどより強固な力となる、そしてそれはタイプの相性すら覆しかねない。キリト君は水の都ルネの出身だ。シャワーズとは長い付き合いなのだろう。デンジ君にしてもそうだ、私がハガネールを使ってくることは知っていただろうにあえて電気タイプのポケモンで迎えうった」
ロバートの説明に口をつむぐチマリに、ロバートはさらに続けた。
「最も、私が使ったハガネールだって、私が最も信頼する手持ちだったがね」