第二章
EPISODE4:ヘルガー 〜part2〜
―3―

「…………………………それでは、ヘルガーさん。“悪”だからと言ってニューラが泥棒ではないと、そのことを他の警察の方に伝えてくださいね」
「ええ。もちろん」
「では、私は失礼しますね。お父様と今後のことを話し合わなければいけませんから」
 サーナイトは席を立った。
「あ、最後にもう一つだけ、よろしいですか?」
 私は本来聞くつもりでなかったことを、口にした。
「聞き込みをしている時に耳にしたのですが、あなたは事件の数日前に“するどいツメ”を購入されていますよね。あれはずいぶんと高価なものではないですか? どこからその費用を出したのですか?」
「それは事件と関係あるのですか?」
「いいえ。でも、ニューラには関係あるでしょう?」
 ニューラという単語を聞いて、サーナイトは顔をそむけて黙りこんだ。“するどいツメ”はニューラが進化するためには必要などうぐだが、サーナイトにはおよそ関係のないものだ。それに加え、“するどいツメ”はとても高価なものだ。サーナイトがそれをニューラに贈るつもりで買ったことは明白だったし、だから私はそれほどの仲ならば、とサーナイトがニューラを逃がしたのではないかという推論を立てたのだ。
「それに、事件と時期的にとても近かったのでね。“するどいツメ”は今どこに?」
「……ニューラに渡しました。彼は進化してみたいといつも口にしていましたから」
「それだけであんなに高い品物を買えますか?」
 一度嫌な質問をした以上、最後まで突っ込む。嫌われるのが私の、刑事の役目と言ってもいい。“悪”を、買って出ようじゃないか。どうせ最初から、私の居場所など用意されてはいない。警察の中にも、外の世界(シャバ)にも。
 私はサーナイトの答えを待つ。
「ええ」
 はっきりとした答えだった。
「私、以前から貯めていたお小遣いがありまして。でも、それは貯めているというより使っていないだけのもので、使い途が見当たらなかったのです。ニューラが私にくれた者はお金で買えるものではありませんでしたから、私はそれに報いたかったんです」
 私は黙って頭を下げ、今度こそサーナイトに別れを告げた。

―4―

 私はヒサメ警察署へと戻った。
 今日の捜査の結果、ニューラを逃がしたのはサーナイトだとわかった。本来ならそれだけでもう逮捕していいはずなのだ。否、逮捕するべきなのだ。だが私はそうしなかった。職務怠慢と言われても仕方がない。
 サーナイトのしたことは確かに掟に反しているだろう。つかまっている者を留置場から逃がすのは大きな罪だ。しかし、ニューラが無実の罪だったら? 警察が間違っていて、サーナイトが正しかったら? サーナイトのしたことは罪というよりはむしろ、正義があるのではないか。そう思ってしまったのだ。こういう場合にどうすればいいのか、それを教えてくれる掟はないし、その判断は結局、警察に任される。今なら、この事実を知っているのは私だけだ。私の判断でサーナイトを捕まえることも、捕まえないこともできる。それに、サーナイトの様子からして、今逮捕しなくとも逃げたりはしないだろう、と思ったのだ。……言い訳じみた理由だが。
 ともかく、上司のムーランド警部に報告しなければならない。例の部屋にニューラの匂いがなかったこと、代わりに土の匂い、獣の匂いがしたことを。

「土の匂いはよくわからんが……獣の匂いか。あそこは大きな屋敷だから、ポケモンの出入りは激しいだろう。もしかしたらニューラの仲間のものかもしれないしな」
 まだその考えに囚われているのか。ニューラの匂いはなかった。あの屋敷のあの部屋に、ニューラは立ち入っていない。私の鼻にかけて断言できる。
「ニューラに仲間がいたという情報はあるんですか? ニューラはこの町でほとんど全く知り合いもなかったということはもう調べでわかったんじゃないですか? そんなポケモンがようやく得た居場所を捨てると思いますか!?」
「仲間は金で雇えばいいし、金に目が眩んだのかもしれんだろう。なんせ“悪”属性だしな」
またそれだ。捜査に余計な感情をさしはさまないのが当たり前なのに、この上司はニューラがやったと決めてかかっている。そんな捜査方針が、私は嫌だった。
「それを言うなら私だって“悪”です。“悪”だというだけでは理由になりません」
「ああ、すまなかった。だが、そんなに言うんならほかに実行犯の目星はついているんだろうな? ニューラに変に肩入れして否定しているんじゃないのかね?」
「い……いえ、目星はついています」
「誰だ?」
 まだ私にはそんな心当たりはまだなかった。ムーランド警部の指摘はピンポイントに私の痛いところを突いていた。しかし、ありませんでは済まされない。どう答えようか。
 唐突に、一つの名前が浮かんだ。それは私の好んでいる論理によるものではなく、むしろ私が日頃頼ることを避けている刑事のカンとでも呼ばれるべきものだった。
「ポッタイシです」
「はぁ!? あの坊ちゃんがそんなことをするわけがなかろう? 金には全く困らない身分じゃないか」
「金色の板です」
 私の口は勝手に動いていた。突発的な考えが奔流のようにあふれていた。思いつきで証拠もないポケモンを泥棒だと決めてしまうなんて、刑事にあるまじき行いだ。しかし、私には妙な確信めいたものがあった。ニューラがやったのではないとするなら、これ以外に答えはありえない。
「金色の板が犯行の目的だったのです。お金も盗んだのはそれに気付かれないためのカムフラージュだったのです。犯行のあった当日、ポッタイシはなぜか大した用もなく屋敷を訪れていました。事件発覚後警察の到着まで指揮を執っていたのも彼だそうです」
「ううむ……それはやはり、こじつけではないか? 筋が通る部分もあるとは思うが、それは……ううむ」
「一度、話だけでも直接聞きたいのですが」
「そうだな、まだ彼にしっかりと事情を聴いたことは無かったな。……おい、そこの君、ひとっ走り行って頼んできてくれないか」
 ムーランド警部は近くのブルーに声をかけた。

 それからしばらくして、ブルーが持ち帰ってきた知らせは、ポッタイシが出奔したというものだった。

―5―

 ずん。
 という音とともに僕の体は壁に叩きつけられた。僕の体からみしみしという音が聞こえる。
「貴様いったいなんということをしてくれた! どうしてこんな恥知らずな真似を!」
「僕はただ、お金を貧しいポケモンに配ろうと……」
「ふざけたことをぬかすな! そんなことをして何が得られる! お前が手を汚すような必要はないだろう!」
「では誰がやるのですか! そう言って誰も動かないから、世界を変えられないのでしょう!」
「たわけ! 何が世界だ! いいか、力だ。力が大切なのだ。そんな理想なんぞいくら持っていようが絵空事にすぎん。絵に描いた木の実で腹が膨れるか。儂はな、絵に描いた木の実を食えるようにする仕事をしとるんだ。それには大きな力がいる。儂がどれだけ時間をかけて力を蓄えたと思っているんだ。お前はそれを一瞬で台なしにするようなことをしでかしたのだ。お前にそういう力があるか。ないだろう。わかったらもう二度とこんな真似をするな。儂に任せておけ。世界とは言わんがこの町くらいは思い通りに動かしてやる。いいな!」
 僕は納得できなかった。できるはずもなかった。サーナイトを失った僕にはもう、この理想しか残されていなかった。
「どうした、ミーチャ。不満か」
「僕は……僕は……」
 僕はうつむく。自分の体はぶるぶると震えているのが見えた。表しようのない気持ちに喉が塞がってしまったようで、うまく言葉にならない。

――“ひのこ”!
――“つるのムチ”!
 父上の背後から、二つの技が繰り出された。顔を上げる。そこには、いつの間にか現れたハヤシガメとモウカザルがいた。どこから話を聞いていたかはわからないが、彼らはそれぞれ、力強く叫んだ。
「行きましょう、ボス!」
「旦那、おいらたちはどこまでもついていくよ!」
 彼らの繰り出した技が、僕の気持ちを代弁してくれたような気がした。
「なんだ、貴様らは……」
 呻いたエンペルトを、モウカザルが“マッハパンチ”で黙らせた。
「モウカザル、ハヤシガメ……行こう! 僕らの理想を実現するために!」
 僕は父上だったエンペルトを見下ろして言った。
「僕はもうあなたの指図は受けません。ソーニャと仲良くできるような、みんながみんな平等な、そんな世界を僕は作ります」
 僕は、その時から、今ある世界に背を向けた。

―6―

 突如失踪したポッタイシについて、署内は一時騒然としたが、結局警察幹部の中で会議となった。会議室から、疲れた様子のムーランドが出てくる。私はため込んだ思考をこらえきれず、ムーランドに詰め寄った。
「警部! どう考えてもおかしいですよ!」
「ああ、おかしいな」
 ムーランドは首を振った。だが、その仕草はどこか諦めのようなものを纏っていた。
「さっきの会議の途中に、連絡が入った。この事件についての追及はこれ以上しないことに決定された」
 開いた口が塞がらなかった。どのくらいの衝撃かというと、うっかり炎の塊を吐き出すところだった。
「どうやらお前の推測は当たっていたらしいな、ヘルガー。新町長からのお達しだ。知っているとは思うが、我々警察の運営資金は寄付金だ。前町長からの寄付がストップしたということは、これからはエンペルトの寄付が中心になるだろう。そのエンペルトが『息子は家を出て行った、事件には無関係だから息子に関する調査は断る』と通告してきた。こちらとしてはもう動けない」
「じゃあ、あの事件はいったい……」
「世間的には、ニューラがやったことになる……実際に手を下したのはお前が想像した通り、ポッタイシだろうが。息子が泥棒だなんて世間に知れたら、エンペルトは長年かけて築き上げた今の地位も名誉も政治力も、全部失う。だから息子を勘当してけじめをつけた。どうせこんなところだろう。……唯一の救いは無実だったニューラが自由の身だということか。言わんでもわかるだろうが、このことは他言無用だ」
 ムーランドは苦い木の実をかみつぶしたような顔でそういった。ムーランドも私と同じくらい、この結果を悔しく思っている。それが伝わってくるだけに、私はそれ以上追及できなかった。
 サーナイトにはせめて、知らせるべきだ。私は走り出す。
 だが、本当にそうするべきか? ニューラが無実だとわかっているにもかかわらず罪をかぶせ続けるという残酷な事実を伝えるのが良いことなのか? 泥棒だと勘違いされていると思っていた方が、サーナイトにとってはまだ救いがあるのではないか? しかも、サーナイトの友達のポッタイシが本当の実行犯だったことなど、伝えることはできるのか?
「ニューラの、“悪”ポケモンの無実を晴らすって約束したんだがなあ――」
 私は足を止め、降り出した雨をぼんやりと眺めていた。“炎”属性も併せ持つ私に、この地方の雨はずいぶんと冷たかった。

―6―

 なんだか捨て鉢な気分だった。あろうことか警察の方を挑発するなんて私らしくもない。私らしくないと言えば、この前ポッタイシを叩いてしまった時もそうだ。あれからポッタイシには会っていないし、謝ることすらもできていない。あの時混乱していたことも手伝って――いえ、これは言い訳になってしまうかしら。あの時感情に任せて大切なお友達に対して激昂してしまったことを、私は反省している。
それにしても今日は酷い。お小遣いを貯めて買ったなんて、平然と嘘を吐いたりして。あまりにも大胆すぎてヘルガー刑事には気づかれなかったらしい。確かに、私はお小遣いを貯めていた。それ自体は嘘ではない。しかし、いくら私のおうちが裕福だからと言って、“するどいツメ”の定価である、数十万ポケものお金を用意できるわけがない。
 でも、私は“するどいツメ”をお店から盗んできたわけではない。定価には全く足りなかったが、貯めていたお小遣いの全額を“するどいツメ”のために支払った。私は“するどいツメ”を安く売ってほしいと、店主に頼んだのだ。もちろん、通常の値段の数十分の一の値段で売ってくれるわけがない。私は特別な手段を使ったのだ――“テレパシー”を。
 私には普通のサーナイトにはない、特殊な力がある。その力に気付いたのはいつのことだっただろうか。確か、ずっと昔、私がまだラルトスだった頃のことだったと思う。あるポケモン――種族はなんだったか、もう忘れてしまった――が、私に顔を合わせるたびにいつも嫌味を言うということがあった。また別のポケモンは私の陰口を広めていた。その頃の私はまだ南の街からこのヒサメタウンに来たばかりのよそ者だった。父はこの街に溶け込もうと必死に努力していて、それを一部の古株が疎ましく思っていたらしい、なんてことを私が知るのはそれからずいぶんと後のことだったが。
 ともかく、当時私はいろいろと嫌がらせを受けていた。嫌味や陰口を言われたことは真っ先に思い出すものだけれど、それらは嫌がらせのうちの一つにすぎなかった。ある日、嫌味に耐えきれなくなった私は、どうか私の目の届かないところに行ってほしい、と強く思った。すると、散々ねちねちと私に付きまとっていたそのポケモンがどこかへ行ってしまったのだ。それ自体はおかしなことではないだろう。私がそう思ったのと、そのポケモンが嫌味を言うのに飽きてふらりと去ったタイミングが偶然一致しただけかもしれない。けれど、そんな偶然は何度も続くわけがない。
 気が付いた時には、私の周囲に私に対して嫌がらせをするポケモンはいなくなっていた。お父様は私が皆に受け入れられたのかと喜んでいたけれど、それは全く違った。「目の届かないところに行ってほしい」と願ったあのポケモンはその後一切私の前に現れなくなったし、偶然出会った時はすぐさまUターンした。「私のことを言わないで欲しい」と思ったポケモンは私の名前すら口にできなくなった。結局のところ、私が受け入れられなかったことには違いなかったのだ。
 そして、私はその能力を使わないことにした。恐ろしかったのだ。そんなことができてしまう自分が。他のポケモンを自分の思うように、いや、思った以上にまで変えてしまう力なんて。もしも私が彼に大怪我でもしてしまえとか、あるいは、死んでほしいと願っていたら? それから、私は何かを強く願うことをやめた。
 だけど、今頃になって私はあの力を使うことに決めた。それはニューラと出会ったあの日からだった。私は能力を使いこなす訓練をした。申し訳ないけれどお屋敷で働いているポケモンたちを相手に能力を使う練習をした。当たり障りのない範囲で、できるだけ願いの範囲を限定して、直接口に出して言えばそうしてもらえるようなことを願った。例えば、「そこの窓の表面を一度だけ拭いてほしい」というように。それをテレパシーで頼んだポケモンは、お屋敷中の窓を拭くことも、いつまでも永久に窓を磨き続けることもなかった。
 私は訓練を続け、“テレパシー”を使いこなせるようになったと思った。そんな時、ふとのぞいたカクレオンのお店に“するどいツメ”が置いてあったのだ。しかし、それには法外な値がついていた。こんな値段のものを一体誰が買えるというのだろう。これで商売が成立しているのかと疑うほどだった。
 もちろん、初めは正当に、お金を出して買うつもりでいた。私も、こんなふうに力を使うのは良くないと思っていた。私はカクレオンさんになんとか値切ってもらえないかと交渉した。だが、やはりダメだった。カクレオンだって「お金」というものの力を使っているじゃないか。そう囁く声が私の中にあった。
ニューラの喜ぶ顔を想像した。私に見せてくれた笑顔を。私が買わなければ、彼はこのまま一生進化できないかもしれない。
 ニューラの悲しむ顔を想像した。お父様が門番に雇う前に見たようなニューラの顔はもう見たくない。
 そして私はあの日、カクレオンに“テレパシー”を使ったのだ。

―7―

「お父様。少し、散歩に行ってきます」
「ん……ああ」
 私はお父様の生返事を背中で聞きながら部屋を出た。お父様はあれからめっきり衰えてしまった。お気に入りの椅子に座り込んだまま一日中動かないでいることも多い。母を亡くした後の父は仕事のために生きているようなところがあった。それは母のいない穴を埋めるように。その仕事の成果をすべて失ったのだから、あの脱力振りもよくわかる。でも、いつまでもそうしているわけにもいくまい。 私はこのうちを手放したら、父とともに南の方の故郷へ帰ろうと思っている。父も、もうゆっくりしていい頃だろう。

 外は雨が降りだしていた。私はサイコパワーを使って雨が当たらないように自分の体を覆い、雨粒をよける。
 ニューラがいつもいた門に手をかける。門柱もほんのわずかな間にすっかり古びてしまった。ニューラはここでいつも楽しそうに私に笑いかけてくれた。いずれこの門もよそのポケモンの手に渡ってしまう。仕方のないことだ、と割り切ろうとしてもやはり辛い。
 あの時、私はニューラに――いや、彼はもう私が彼に贈った“するどいツメ”で進化しているかもしれない――、ついていけばよかったのだろうか。そうしていたら、この胸にぽっかりと穴が空くことは無かったのではないか。
 いや、それはできなかった。私はかぶりを振る。私にはお父様がいる。お父様を見捨てるなんてことはできやしない。私はこうするよりほかなかったのだ。それなのに、この喪失感はなんだろうか。

 ニューラはこの町は灰色だと言っていたことがある。今なら、私にもその言葉の意味が分かるような気がした。道行くポケモンたちにも、お父様にも色がない。みんなみんな濁った灰色に沈んでいる。それとも、私にだけそう見えているのか。私は逃げるように歩き続ける。灰色に押しつぶされないように。
 ニューラが私を助けてくれた、あの思い出の狭い路地へと入っていく。誰もいない、薄汚れた狭い路地。
 ニューラはここに好きでいたわけではないだろう。ニューラがどうしてこの路地にいたのかも、今ならわかる。ニューラはほとんどお金を持っていなかったのだ。そして、きっとこのあたりにしか家を借りられなかったのに違いない。ただ“悪”属性だというだけのことで雇ってくれるところもない。それはニューラ自身のせいではない。ニューラが生まれた時から彼は“悪”属性だったのだ。そして“悪”属性がみんな悪いポケモンだなんてことはない。ニューラ自身が、それを無知だった私に示してくれた。
 それなのに私はのんきで、ポッタイシとお金持ちと貧乏なポケモンの話なんてしていた。ニューラは私やポッタイシと比べて圧倒的に貧乏で、そんな生活しか知らなかったはずなのだ。私はなんという恵まれたところから見下ろすような話をしていたのだろう。ニューラの浮かべていた悲しい表情の意味もわかろうというものだ。
 私は町を歩く。この町をニューラとともに歩いたことを思い出す。目を閉じて、手を伸ばす。ニューラがにぎりかえしてくれるような気がして、一瞬心が軽くなるような、光が差したような気がする。けれども私の手は虚空を掴むばかりだった。サイコパワーでも防ぐことのできない雨が私の頬をとめどなく濡らす。
 ニューラに会いたいと、願うことはできない。強く願ったら、もしかしたらニューラに届いてしまうかもしれない。でも、ニューラがこの町に戻ってきたら、彼はきっと捕まってしまうだろう。そうしたら、また離れ離れだ。

 私は体を覆っていたサイコパワーを解除する。まだ降り続いている雨が、直接体に当たる。それでもいいと思った。どこまでもずぶぬれになってしまえばいい。すべてを灰色に染めて。私は彼のいなくなった街角に、ひたすら佇んでいた。彼の顔を、声を、仕草を思い返しながら。
 やさしい雨が、サーナイトの体を濡らしていた。

To be continued…


■筆者メッセージ
拍手メッセージありがとうございます。励みになります
レギュラス ( 2013/08/24(土) 15:58 )