不自然な日常
六時限目、数学の授業。眠い目を擦りながら必死に食らいつく。
私はポケモンバトルが得意ではないので、普段の授業で成績を稼ぐしかないのです。
だから、寝ないように踏ん張る、そんないつもの一コマ。
思えば、あの事件からはまだ一ヶ月しか経っていません。なのに私は、不思議な事に日常を実感しています。
それでも、記憶にはあの事件がしっかりとこびりついています。私の友達が無惨にも殺された、あの事件が。
それはきっと、皆も一緒だと私は思っています。だからこそ、皆は必死にあの事件を忘れようと、日常を演じているのではないでしょうか。
この不自然な「日常」は皆の演技の結晶なのではないのでしょうか。
そう思うのは、私にもそんな節があるからです。
一ヶ月前に死んだ、マサハル君は、とてもいい子でした。
学級委員の名の元に課せられる沢山の雑用も卒なくこなして、私の分の仕事もよく手伝ってくれる、優しい子でした。
スポーツも誰よりもできて、とても格好よかったのも覚えています。
相棒だったピカチュウはピチューの頃から大事に育てていました。相当、懐いていたと思います。
…人間関係も、ポケモンとの仲も良好だったはず。それなのに、どうして彼が殺されてしまったのか、私は納得できません。
――チャイムの音が鳴り響く。六時限目も終わり。
結局、マサハル君の事件のことばっかり考えてしまって、授業には全く集中出来ませんでした。
そのまま勝手に落ち込みながら、帰る為の支度をしていると、サクラちゃんがいつもの様に私の席に近づいてきました。
「ミサト、一緒に帰ろ!」そう言ってくれたので、私は得意ではない笑顔を頑張って作って頷きました。これもまた、日常です。
帰り道も、私はあの事件のことを無言のまま、ずっと考えていました。
そうしていたらサクラちゃんが口を開き「マサハル君の事件、犯人、捕まったのかな…」と。
サクラちゃんも、一番気丈に振舞っていたのに、本当はあの事件のことは一切忘れていなかったのでしょう。やはり私の思った通り、日常を演じていました。
そんなサクラちゃんの言葉を聞いた私は「捕まってると、いいね」なんて適当なことを無愛想に言ってその場を流しました。この話はしたくなかったのです。
サクラちゃんもこの話が重いからか、はたまた無愛想な私の姿を見たからか、これに続く言葉はもう言いませんでした。
それからは二人とも、隣に並んでいるのにずっと無口で、気まずい、滞った空気の中、少し早歩きで家へと帰っていきました。
そして私はそのまま夕食を食べ、風呂に入り、自室のベッドの上に座りました。
寝っ転がって、おもむろに携帯の画面を見るとメールが一件。サクラちゃんからでした。
『今日は急にあんな話しちゃってゴメン m(>__<)m 』
律儀にも謝罪まで。サクラちゃんには悪いことをしてしまいました。とりあえず私からも謝らないといけません。
『いいえ、悪いのは私。ごめんね。』
これでよし。後は、今日のことは全部忘れて、もう寝ることにします
――本当は、今日だけじゃなくて全ての記憶を消してしまいたいのだけれど。