第五章 初めての冒険
task19 調査
「涼し〜い!大き〜い!」

「あんまり近寄らないほうがいいわよ。予想以上に流れが急だから」

それぞれ、『秘密の滝』についたエリスとテナーの第一声だ。どっちがどっちか、いうまでもないだろう。
『秘密の滝』はギルドとトゲトゲ山のほぼ中間に位置している。割と大きめということと、滝に向かってせり出した岩に乗れば落ちてくる水を直接触れられること以外は何の変哲もない滝に見えた。

「実際に触れたほうがいいじゃん。調査なんだし」

「調査ねぇ…そうは言っても、一体どこから調べるべきかしら。『秘密がありそう』じゃ分かりづらいわよ、全く…というか場所、あってるわよね?」

テナーはぶつぶつと呟きながら鞄から不思議な地図を出して広げた。
一方、エリスは水を受けようと手を伸ばす。流れに触れた途端、水圧で弾き飛ばされた。

「うぁ!」

「近寄るなって言ったでしょ?」

「滝の威力を調査しただけ!けっこうな勢いだよ!」

「わざわざ当たりに行かなくても、見れば分かるわよ、それくらい。あなたも多少は策を練ったら?」

「これが私なりの策の練り方だよ」

「屁理屈いわないで!いいから座って黙ってて!」

「ちぇ…座ったらいいんでしょ!座ったら!」

従順に聞くだけというのも癪だったので、滝の水音に負けないような声量で返してから座った。

――っ!?

唐突に視界が歪む。両手をついて、ぐらぐらする身体を辛うじて支えた。この感覚は、初めてではない。

――また…あの眩暈だ…

キドナの一件以来だ、とエリスが思い起こしたのと同時に、耳から入る全ての音が消えた。



変わって、先ほどまで見えていたものとほぼ同じ風景が目の前に現れた。
違うのは辺りが薄暗くしんと静まりかえっていることと、滝の前にたつ耳の長い影の存在だけ。
影はおもむろに数歩下がると、滝に向かって猛進した。
刹那、風景はエリスの知らないものに切り替わる。
やはり薄暗いどこかの洞窟の前に、あの影が無音で躍り出た。
キョロキョロと辺りを伺った後、耳の長い影が洞窟に消えたところで、視界が白に染まり聴覚が蘇った。



「どう?何か思い付いた?」

「…確かに、座って正解だったね。分かったよ。突破方法」

「いや、早すぎるでしょ…一応聞くけど。何?」

「突っ込む」

「は?」

「だいたい…この辺からかな」

エリスは先ほど見えた映像で影が立っていた辺りまで下がると、走る体勢をとった。

「ちょっと、何を始めるの!?」

「言った通りだよ。ここから助走つけて飛び込むの」

「…自殺でもする気?」

「しないよ!この滝の裏にある洞窟に行くの!」

「滝の裏の洞窟?見てきたように言わないでくれる?」

「だってみたんだもん、影がここに飛び込むところを、あの眩暈で!」

「眩暈って…トゲトゲ山のときのあれ?」

明らかに、テナーの態度が変わる。

「そうそう、それみたいなやつ」

「…もっと詳しく説明して。眩暈が始まる前後のことも含めて」

エリスはできる限り詳しく、滝に触れたところから影が洞窟に消えたところまで説明した。

「なるほど。何者かは分からないのよね?」

「まあね…シルエットしか分からなかったから」

エリスは自信なさげだ。

「いいわ。それともう一つ」

テナーはエリスをじっと見つめる。彼女にしては珍しく、責めるのでも疑うのでもない目付きだった。

「エリス。自分の観たものを…あなた自身は信じてるの?」

「うん。それは間違いない」

今度は即答だった。それを確認したのか、テナーはエリスに背を向けて話し始めた。

「はっきり言わせてもらうなら、そこから飛び込むのは絶望的よ。滝に打たれて潰されるのがオチね」

「テナーは…信じてくれないの?」

「助走距離が短すぎるのよ」

そう言いながら、テナーはエリスより更に後ろに下がる。

「そう…ここからならまだしも(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ね。何ぼやっと突っ立ってるの?飛び込むんでしょ?」

「っ!本当にいいの?」

「単なる思い付きとかなら、絶対こんなことしないけど…私はあなたの『眩暈の予知夢』には一目置いているの」

「テナー…」

「ただし、行くなら全力でよ。中途半端な勢いで突っ込んだらどのみち大怪我ものだから」

「分かってるって。テナーこそ途中で、やっぱりやめるとか言わないでよ」

「私を臆病者扱いしないことね。用意はいい?」

「OK!いくよ、3・2・1!」

「「いっけぇぇぇぇっ!」」

青と黄、二色の光が滝に飛び込んでいった。




「痛たた…」

「大丈夫?けがは?」

「してない、と思う…それより」

二匹は顔を上げる。水音は後ろから、そして目の前には洞窟。

「またも予知夢が的中ってとこね」

「うん。まさに眩暈でみた通り」

起き上がり、鞄を持ち直す。少し濡れていたが、中身は大丈夫のようだ。

「で、どうするの、探検チーム・ルミエールのリーダーさん?」

「決まってるでしょう?」

探検隊が、新たなダンジョンを見つけたときにすることはただ一つ――

「秘密の滝…いえ、『滝壺の洞窟』の調査を始めるわよ」

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神戸ルイ ( 2013/07/17(水) 02:07 )