task16 真
テナーとユピテルは『果て見の丘』にある石碑の前で、海を見ながら並んで座っている。
ユピテルの手にはセカイイチ、テナーの手にはモモンの実。傍から見れば、仲良くピクニックでもしているように見えるかもしれない。
だが、テナーにしてみれば今はそんな穏やかな状況ではなかった。
「相当な決断だったみたいだね。お母さんにも黙って家を出たそうじゃないか」
「母に会ったんですか?」
テナーの声は意表をつかれたためか、甲高かった。
「うん。キミ達がお尋ね者逮捕の依頼を初めてやった頃だね。ウォーデンと一緒に行ったんだ」
「それ、私がギルド入りして三日目ですよね?なぜそこまで早く?」
「最初にキミ達が『ルミエール』っていうチーム名にしたときから、変わったコだなぁとは思ってたんだ。先史――つまり人間の時代の言葉、それも異国語の一つで意味は『光』。調査員のプロならとにかく、テナーみたいな若いコがこんなことを知ってるのは珍しいからね」
「親方様こそ、よくご存知ですね。先史の言葉に精通する探検者もそう多くないと思いますけど」
「そんなでもないよ。昔、キアロによく聞かされてただけからね…懐かしいな」
ユピテルの目が遠くを見つめる。それは、テナーがチーム名を告げたときと同じ、懐かしさに浸っている眼だった。
「でも、それだけで気付いたんですか?」
「もちろんそれだけじゃない。決定的だったのは最初のご飯のときかな。ふふっ、あそこまですごい記憶力の持ち主は、ボクの知り合いにもそう多くないよ。…親譲りかな?」
「やっぱりあのときですか…少しムキになりすぎましたね。『親譲り』っていう言葉は嫌いですけど」
「だからでしょ?秘密にしてたのは」
こくり、と首の動きだけでテナーはそれに応えた。
「でも確証はなかったから、子供関係に詳しいウォーデンに訊いてみたんだ。そしたら大当たり。捜索願いもでてたみたいだよ?ダンジョン関係の依頼じゃなかったからこっちまでは情報がこなかったみたい」
「…」
「あぁ、一応テナーのお母さんはボクが説得したから心配しないで。まぁゆくゆくはきちんと直接親子で話し合ったほうがいいとは思うけど」
「…すいません。ご迷惑をおかけして」
「いいのいいの。そういうのがボクの仕事だし。弟子が覚悟と想いをもって臨んでいるなら、親方はそれを全力で支えないとね♪」
「親方様は…このことを皆に伝えるつもりですか?」
「ううん。ボクはテナーが心置きなく修行できるようにしたかっただけだからね。ギルドの皆には、テナーが自分で話せるようになったら伝えればいい。…でもさ、不安だったんじゃない?ずっと秘密を抱えたままで」
「辛さを耐えるのには慣れてますから」
間髪いれず、表情すら変化させずにテナーはいった。ユピテルは哀しそうに微笑む。
「…強いね。ねぇ、もう一つだけ質問していい?聞き飽きた質問だとは思うけどさ、ユニオンには興味ないの?」
「というよりは、探検者なら自力で未知の場所へ踏み込めますから。ユニオンにはいい思い出がないのは確かですけど、私にとってはギルドのほうが好きなんです」
「そっか…さてと。それじゃそろそろ親子水入らずで話す?ボクがいて邪魔なら退散するよ」
「結構です。私はここの様子をみにきただけですから。親方様はゆっくり父と話してて下さい」
鞄を肩にかけながら、テナーは立ち上がった。
「じゃあ、そうさせてもらおうかな…あ、一ついい忘れてた」
「何ですか?」
「テナーの秘密に気づいたもうひとつの理由。…似合ってるよ。キアロの鞄」
その言葉の意味を知って、テナーは頬を緩めた。一礼してから、丘を駆け降りる。ユピテルは見送りながらつぶやいた。
「君に似てるよなぁ…比べられるのは彼女にとって嫌だろうけど。そう思わない?キアロ」