Interval
キサギの森にて  〜???side〜
降り注ぐ大粒の雨の中を、俺は駆け抜けている。
今夜は月星の明かりは雲に封じられ、下界までは届かない。だから嵐の中で時折閃く稲妻が唯一の光源となる。
だが、迷うことはない。稲光が消えても、この森――『キサギの森』はあの世界とは比べものにならないくらい明るい。
何より…この森に隠されたものを、俺はよく知っていた。そしてそこに至る道も。



やがて、俺の前に探していたものが姿を現す。
輝く文様に囲まれ宙に浮き、神々しく(あお)く光るそれを、瞬きも忘れて見入ってしまった。

「初めてみるが、これがそうなのか…ついに見つけたぞ!時間(とき)の歯車を!」

思わず呟きをもらしていた。いや、本来なら側にいるはずの相棒に向けた言葉だったのかもしれない。
荘重な雰囲気をもつそれを意を決して掴み、そこから引き剥がした。
文様が消え、風景がみるまに灰色と化していく。あれほど激しかった雨音も風も途絶え、全てのものが動きを止め始めた。
生命の息吹に満ちていた森が、俺の見慣れた空虚な世界へと変わっていく。
これが…時が止まるということ。



心苦しかった。一時的なものとはいえ、世界が光を失っていくさまをみるのは。
だが――俺にはやらなければならないことがあった。

「まずは・・・一つ目!」

鞄に時間(とき)の歯車を納め、かわりに白い腕環を取り出す。
滑らかな曲線で構成されたこの装身具は俺のものではない。
出立前に相棒から預かったままの、そしてその力の安全な行使のためにどうしても必要なアイテムだった。
ぐずぐずしてはいられない。一刻も早く再会し、これを渡さなければ。

「待っていろ…必ず辿り着いてみせるからな」

一度だけ強く握り締め、袋へ丁寧にしまいなおす。踵を返して、俺は次の目的地へと駆け出した。



世界を闇から救うために。



そして――約束を果たすために。



神戸ルイ ( 2012/08/03(金) 20:05 )