task7 依頼
「オマエ達は初心者だからな。まずはこの仕事からやってもらおう♪」
この階には2つの大きな掲示板があり、様々な紙が貼られている。今3匹がいるのは梯子から見て右にある掲示板の前だ。
「ここには、各地のポケモン達からの依頼が貼られている。最近、悪いポケモンが増えていることは知っているだろう?」
ジュノの問いにテナーが間髪を入れずにこたえる。
「はい。なんでも、時間が狂い始めた影響で、各地に『不思議のダンジョン』が広がっていることとも関係しているんですよね」
――時間が…狂い始めた?って何それ?
エリスにとって知らないことのオンパレードである。
「その通り。そのせいか、ここに寄せられる依頼の数も急激に増えているんだが…オマエ達にはこれがいいかな」
ジュノが手近な一枚を手に取り、テナーがそれを受け取って読み上げた。
「『依頼主‐ロズ=サリバン(バネブー)』、『場所‐湿った岩場』、『分類-探しもの』」
エリスも横からのぞき込むが、読めない。というより記号の羅列にしか見えなかった。
「『ある日、私の大切な真珠が何者かに盗まれてしまいました!真珠は私にとって命。頭の上にないともう落ち着かなくて…。しかし最近、私の真珠が見つかったとの情報が!岩場の奥地に捨てられていたらしいのですが…そこはとても危険な場所らしく、恐ろしくて行けませーーーーーん!という訳で、私のかわりに真珠を取って来てください!』」
テナーはすべてを棒読みしているため、ある意味不気味なことになっている。だが、エリスはそれどころではない。
「落としもの拾ってくるだけじゃん!探検隊なのに!宝探しとかは?」
「お黙り!新入りは下積みが大切なんだよ!それに探検隊は『不思議のダンジョン』関係の依頼なら全て受け入れているんだ。文句を言うんじゃないよ!」
「うぅ…」
とうとう今日4度目のハイパーボイスを食らったエリスを横目にみながら、テナーはあくまで事務的に話を進めようとする。
「見つけたらどうすれば?」
「リーダー用探検隊バッチでギルドに連絡してくれ。このボタンで親方部屋の通信機につながるから、その後は親方様の指示を仰ぐんだよ♪」
「はい」
「『湿った岩場』の位置は地図を見ればすぐに分かる。じゃ、頑張って行っといで♪」
ジュノは階下へと姿を消し、チーム:ルミエールははじめての依頼へと出かけた。
「『電気ショック』!」
エリスの声と共に、ダンジョン内に電光が広がる。
「うん。やっとタイムラグが無くなってきた」
カラナクシを気絶させたのを確認して、エリスは笑みを浮かべた。
この『湿った岩場』にも特性が『呼び水』のカラナクシが生息している。そのため、テナーの水技はほとんど使えない。エリスは比較的相性のよい電気技が使えるが、威力や命中率の点で今少し頼りにならない。
そこで、野性ポケモンはまずテナーの投石で十分体力を減らし、エリスがとどめをさすという作戦で進んでいた。無論、テナーのたてたものである。
「タイムラグがなくなったのは結構だけど、もうそろそろ危ないわよ。はいこれ」
テナーはそう言って技ポイントの回復アイテム、ピーピーマックスを差し出した。
「これも鞄から?」
「まさか。そこで拾ったやつよ」
「拾った!?落ちてるモンなのこれ?大丈夫?」
「不思議のダンジョンの特徴よ。入る度に地形が変化するのは説明したでしょう?それと同じように、道具も入る度に現れるの」
「ふーん、物知りだね。じゃあこれは?」
エリスは、足下にあった丸い金色のコインをつまんで示す。
「…まさかそれも説明いるとか言わないでよ」
「何かの道具?」
「ポケよポケ!お金のことも分からないの?」
「あぁ、これがお金なんだ。拾っとくよ?」
『この世にお金というものがある』、『お金で売買ができる』という常識は頭に入っているが、『ポケイコールお金』というのは分からないらしい。
「全く…とにかく、不思議のダンジョンでは何が起こるか分からないんだからもっと気を引きしめてちょうだい」
「はいはい。わかりましたよリーダー」
「『はい』は一回!」
「…はい」
その後は特に問題なく進み、数十分後には最奥部に到達していた。
「あっ!あれかな?落とし物の真珠って」
エリスが指し示したのは岩場の奥。ピンクの珠が、岩棚に乗っていた。
「間違いないようね。みたところそうそう転がってるものとも思えないし」
「よーし、楽勝楽勝!これ持って早く帰ろう」
「その前にギルドに連絡しないと」
首に巻いたリボンにつけていたバッチを一度外し、裏側についているいくつかのボタンの中から青いものを選んで押すと、
『こちらギルド。チーム名と用件を言ってね』
ユピテルののほほんとした声がバッチから発せられた。
「チーム:ルミエールです。岩場の最奥地点で依頼者の真珠を見つけました」
『OK!お疲れ様。一番奥にいるならバッチは使わなくても脱出できるね。そのまま帰っておいで!』
「了解」
通信を切った後も、まだテナーは何かが釈然としない。
――脱走者が続出する理由が分からないわ。依頼をこなすことの難しさかと思っていたけど違うみたいね…何なのかしら?
「何してるの?早く行こうよ」
エリスの声で我に帰り、テナーはバッチをつけ直して後を追った。
『脱走者続出の理由』はその後すぐに判明した。
ギルドに戻り、拾った真珠を渡すと、依頼者のバネブーはタウリンなどのお礼の品をいくつかと、2000ポケを報酬としてくれた。しかし、
「ギルドへ納める分を差し引いて…オマエ達にはこれくらいだな」
ジュノによって200ポケに減らされた。ポケの価値がよく分かっていないエリスにも、その少なさはよく分かったらしい。
「手取り1割!?ぼったくりだぁ!」
「これはギルドの掟なんだよ!」
不満をいうエリスとそれに応戦するジュノ。朝と同じような状況になったが、
――これで今日怒られるの何回目?少しは学習しなさいよ!歯向かっても無駄だって!
テナーが傍目にみても分かる程の怒りのオーラを発散させているという点で違っていた。
その殺気を自分に向けられたと勘違いしてか、
「と、とりあえずもうすぐ夕食だからしばらくそこで待機しておけ!」
ジュノは早々に立ち去ってしまった。