ポケダン伝〜時と闇を繋ぐ光〜 - 第二章 プクリンのギルド
task5 人間
ユピテルとの対面を済ませ、エリス達は親方部屋と同じ階にある『弟子の部屋』に案内されていた。

「これからオマエ達には住み込みで働いてもらう。明日から忙しいぞ。早起きしなきゃならんし、規則も厳しい。明日の朝礼でオマエ達の紹介をするから、朝は身支度を整えて親方部屋の前に整列しておきな♪」

歩きながらジュノが早口で説明する。上記の台詞を20秒足らずで言い切ってしまったといえば、その速さの程がわかるだろうか。

「ここがオマエ達の部屋だ」

廊下の突き当たりのドアを開ける。
『弟子の部屋』は藁にシーツをかけただけのベッドが2つと、姿見が置かれているというシンプルなものだった。

「それじゃ、今日は夜更かししないで早く寝るんだよ♪」

一通り注意を済ませると、ジュノは部屋を出ていった。
足音が廊下へ遠のいたのを確認して、エリスとテナーは肩の力を抜く。

「ふぁぁ。とりあえずギルドに入れたみたいでよかったね!」

ベッドへ倒れこむエリスに、テナーは冷たく言い放つ。

「何が『よかったね!』よ、散々はしゃぎ回っといて。私が横でどれだけ恥ずかしい思いしたと思ってるの?」

「テナー…怒ってる?」

「別に?」

そうはいうものの、テナーの語気は荒い。

「いい?まずギルドの親方や先輩方にはきちんと敬語を使って。それから、むやみにはしゃぐのは禁止。分かった?」

「…はーい」

さながら、母親と幼児の会話である。

「全く、子供みたいに…」

「子どもだよ。何歳かは忘れたけど多分大人ではないと思う」

「そういうこと言いたいんじゃなくて…ああもう!なんでこんなのとチーム組んじゃったのかしら!」

「まだ組んで5分もたってないのにもう後悔?しかも『組んで』って言ったのはテナーだからね」

「ここまで常識がないとは思わなかったもの。それに…」

「それに?」

「…なんでもない!」

『一緒でなければダンジョンを突破できなかったから』とは口が裂けてもいえないらしい。

「何よぉ!…まあいいけどさ。それより、聞きたいことがあるんだけど」

エリスが不意に真面目な顔になった。

「テナーは、私のことをどう思ってるの?」

「…急になによ」

「いや、一緒に探検隊やっていくから聞いておきたいと思ってさ。遠慮はしないで」

「そうね…」

しばしの沈黙のうち、テナーが口にしたのは、

「厄介な天然キャラ…ってところかしら」

「…なんか凄い罵倒されてる気がするんだけど」

「『遠慮はいらない』んでしょ?」

「確かにそういったけど…というか聞き方間違えたね」

エリスは精神的に少なからず凹んだようだ。

「私が聞きたいのはこういうこと。――テナーは私のこと人間だって信じてるの?ていうかこの辺に人間っていないの?」

テナーはすぐにはそれに答えず、かわりに先ほどユピテルから受け取った『不思議な地図』をエリスの前に広げた。

「何これ?」

「これは私達のいる『グラド大陸』とその周辺の地図よ。このギルドは…ここね」

言いながら指し示したのは大陸の左下。ギルドの建物の絵が描かれていた。

「『グラド大陸』ね。それで?」

「人間が生息しているのは大陸の中央の山脈、ちょうどこの辺りよ」

次に指し示したのは、ギルドからかなり離れた地点だった。もっとも、その一帯が雲の絵に覆われていて詳しいことは分からないが。

「なら、そこに行けばいいってこと?」

「無理よ。ここは特別危険区域に指定されているから専門家しか出入りできないわ」

「危険?なんで?」

「人間がポケモンを襲うからに決まってるでしょう?」

「人間が?」

「あなたの考えている人間がどういうものだか知らないけど、私達の常識では人間は理性を失い、一動物に成り下がってるの。500年ほど前にね」

「嘘…でも!」

食い下がろうとするエリスに、テナーは地図を畳みながら続けた。

「現在この区域で確認、管理されている人間の個体数は50。厳重に監視されてるから脱走は不可能。現に今まで1個体も行方不明になったことはない…分かったでしょう?私の言いたいこと」

「そんな…」

「取りあえず、今日はもう寝て、考えるのは明日以降にしたほうがいいと思うわ。記憶は今焦っても戻らないと思うし」

さっさと扉寄りのベッドに潜ってしまった。

「寝れないよ、こんな話聞いた後で!ねぇテナー!」

エリスが布団の膨らみに声をかけたが、もう返事はなかった。

「ちょっとぉ…」

おもわずぺたりとその場に座り込んでしまう。頭の中をしめるのはただ一つ…

――訳がわかんないよ…それじゃ、私は何者なの?


■筆者メッセージ
今回はかなり短いですね。
あ、次はまたいつもの分量になると思いますよ。
神戸ルイ ( 2012/07/14(土) 17:33 )