第七話 炭鉱にて
ポニータに見送られ、アクアとマロンの2人は、ポニータによると洞窟、正確には炭鉱と言われるところに入っていった。ここはもう使われていない炭鉱のはずだが、ちゃんとランタンが灯っていて明るい。何故だろう。もう使われていないなら資源が無駄になるだけなのに……とアクアが思い悩んでいる隙に、突然岩影からごつごつとした岩のようなポケモンが飛び出してきた。
「うわっ!」
アクアは相当驚いたのかこの世とは思えないほど大きな声を出した。その声が炭鉱の中をこだまする。だがそのポケモンは堂々とこっちに向かってくる。その威圧感でアクアは後退りした。
「そいつは野生のイシツブテよ! 攻撃してくるわ!」
この岩のようなポケモンはイシツブテと言うらしい。マロンは威圧感に負けず正々堂々イシツブテと勝負するつもりだ。アクアもマロンに負けてられないなと思い、身構えた。
「それじゃあ行くよ! かみつく!」
マロンは後ろの大顎でイシツブテに力強く噛みついた。しかしあくタイプのかみつくは岩タイプのイシツブテに効果は薄い。なのでイシツブテのHPは半分も減らなかった。
「うっ、強い…」
「ぼくも行くよ! たいあたり!」
アクアは全速力で走り、ものすごい勢いでイシツブテのふところに突進した。しかしたいあたりもタイプ相性が悪いので少ししかダメージを与えられない。
でも二人が体力を削ったおかげでイシツブテはもうHPはギリギリで、マロンのかみつくで倒れそうだ。イシツブテは2人に攻撃しようとしたが、マロンはそれをかわし、かみつくを繰り出した。
「これで最後だ! かみつく!」
そして、マロンはイシツブテにトドメを差した。そしてイシツブテはよろけて、気絶した。
「これで明日の朝ぐらいまでは起きないわ。さあ、先へ急ぐよ!」
アクア達は先を急いだ。アクア達はイシツブテのような野生のポケモンと何回か戦い、だいぶん奥に進んだ。
「分かれ道が無いなんて不思議ね」
「うん。そろそろ一番奥に着くといいけど」
そんな話をしながら曲がり角を曲がろうとすると、
「うわぁぁ! 誰か、誰か助けて!」
と、おそらく小さな男の子の声が聞こえてきた。二人は顔を見合せ、
「たぶんポニータの友達だわ!」
「うん。きっとそうだ。様子を見よう。」
と言い、2人は声が聞こえた方の様子を見ることにした。
「お前あの豪邸に住んでるんだろ?」
突然低い男の声が鳴り響いた。ポニータの友達はきっとお金持ちの子供なんだ。
「そうだけど、ぼくは何も持ってない!」
ポニータの友達が今にも泣きそうなほど震えた声で答えた。その現場を聞いているだけというのは胸が痛む。でも今突入すると3人ともどうなるか分からない。誘拐犯の隙をつくんだ。
「うるさい! 豪邸の金庫を開ける番号を教えてくれ! さもなくば……」
低い声の主は、豪邸に入って、金庫を開けるつもりだ。でも金庫番号をあの子が教えなければ、あの子はどうなるか分からない! でも、今誘拐犯を刺激してもあの子は……
「そこまでだ!お前は……ラグラージだな?その子を離せ!」
耐えきれなくなったのか、マロンが誘拐犯にとっさに噛みついた。
「マロン!」
アクアは一瞬止めようとしたが、思いが変わった。あの子は僕たちを待っているんだ。僕たちの助けを! それに待っていてもあの子はどうなるか分からないし、あの子は心細いだろう。だから、早くいこう!
「フンッ。邪魔が入ったな。」
マロンは噛みつくも、誘拐犯のラグラージにすぐに振り落とされてしまう。
「お姉ちゃん……」
誘拐されていたコリンクの子供は安心と怖さからか目に涙を浮かべている。
「僕も行くよ!」
アクアはマロン1人ではまずいとすぐに参戦した。
「二人に増えたか。しかし、こんな奴らなんてすぐに倒せるわ。」
ラグラージはそう言い、突進してきたアクアを大きな手ではね飛ばした。アクアは勢いよく岩壁にぶつかった。
「うっ、強い……」
ラグラージは二人より遥かに強かった。
「諦めないで! 2人なら勝てる!」
マロンはそう言いまたラグラージに噛みついた。わずかだが着実にダメージを与えている。
「無駄だ! 波乗り!」
ラグラージは大きな波を呼び出し、マロンに向けて発射した。それを見てアクアは全速力で走り、マロンを庇った。
「アクア!」
マロンが焦るのも同然だ。マロンのかみつくも軽々とはねのける力を持つラグラージの波乗りを受ければ、みずタイプのシャワーズのタイプ相性で半減だとしても大ダメージだ。アクアの体に波が打ち付け、マロンを避けて波は引いた。しかし、
「波乗りが効かない……だと?」
とラグラージが戸惑っている。マロンも強く瞑っていた目を開く。そこには、傷一つ付いてない、むしろこれまでの傷が癒えているようなアクアがいた。
「そうだよ。僕はちょすいだからみずタイプの技は回復するんだ!」
ちょすいとは、みずタイプの技を受けると回復する特性だ。アクアは、これで技のダメージを回復に変えていたのだ。
「うぐっ、じゃあこれはどうだ!」
ラグラージはやけくそに地面タイプの技、マッドショットを繰り出した。これはマロンにタイプ抜群だ。しかしマロンはこれを軽々とかわし、ラグラージが技を打っていている隙に力一杯かみつくを繰り出した。これにはラグラージは狼狽える。
「クソッ、もうHPが半分だ……」
「行けッ! たいあたり!」
アクアは狼狽えるラグラージにたいあたりを喰らわせた。
「もう一撃で終わりだ!」
マロンはそう言い、ラグラージにかみつく。
「グッ、こんな奴らに負けるとは……」
そう言ってラグラージはバタンと大きな音を立てて倒れた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう……」
ラグラージに誘拐されていたコリンクの子供が泣きそうな顔をしながら2人にお礼を言った。
「もう大丈夫だよ。さあ、ここから出よう。」
マロンはコリンクに優しく声を掛け、アクアとマロンとコリンクの3人で炭鉱を脱出した。