ポケモン不思議のダンジョン〜夜明けの世界〜








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第五章 紺碧の王子
45話 マナフィ誕生
 『閉ざされた海』からサメハダ岩に帰還して一晩が経ち、二匹は早朝から肘をついて美しく青い卵を眺めていた。まだギルドのポケモンも起きていない頃で、おそらくこんな時間にギルドに押し掛けたらペリーに嫌味を言われるに違いない。軽く外出の支度をしただけで、あとは二匹してうつ伏せになり卵の目線に合わせてじっと眺める。
 昨日カイトが言った通り、タマゴは藁のベッドを作り綿で包み込むようにして寝かせている。不思議なことに、この卵は光を放っていた。まだ夜が明けきっていない程の時刻で、周囲は少し薄暗い。ふんわりと青い光を放っている卵が美しくて、アカネはぼうっとしながらその卵を眺めていた。
「卵って、ある程度ポケモンの姿が反映されるわよね。やっぱりこのポケモンもこんな見た目ってことかしら」
「うーん、特徴がない卵もあれば本当にポケモン特徴をとらえた柄の卵もあるんだよね。あんまり詳しくないけど……あっ」
「今動いた……?」
 動いたということは、つまり卵そのものを動かせるほどに成熟しているということだ。ということは、もう孵化が近い。
 二匹は驚いた表情で顔を見合わせた。カイトは卵をどうするかは何となく知っているものの、どのように孵化寸前のものを見分けるだとかは全く分からなかった。アカネは最早論外で、卵をどうすればいいのかすらもよくわかっていなかった。
 一応海から持って来た卵である。しかも、今までに見た事のない神秘的な姿の卵。ありえないが、万が一ホエルコやカイオーガでも生まれようものならサメハダ岩は一瞬にして滅茶苦茶になるに違いない。
 青い卵は動く。コロコロと転がり出しそうに激しく動き始め、今にも殻を破って出てきそうだった。ベッドから転がり落ちそうになる卵をアカネが手を伸ばして支えると、続けて鈍く光を放っていた卵は激しく輝き始める。青い光と黄色い光に包まれ、目がチカチカするほどの眩しい輝きを放ちながら卵そのものが温度を増していった。
「えっあ……カイト!?これ、生まれる!?もしかして生まれるの!?」
 さすがのアカネも激しく動揺し、タマゴを体から離しつつも両手で抱えながら忙しなく足踏みをしてカイトに叫んだ。
「あっ……え……」
 カイトは思考停止してアカネが抱えている卵を見つめた。徐々に球体が形を変えている様子を、ただぽかんと眺めているしかなかった。
 アカネの手に収まっていた卵はその数倍の大きさに膨れ上がって全く違った形へと変貌し、自分自身の意思で身体を捻ってアカネの手から抜け出し、ぽとんと地面に落ちた。
 激しい光はやがて収まり、その光の発生していた場所に居たのは水色の小さなポケモンだった。
 つやつやした綺麗な青色の体に二つに別れた頭の房。大きな目は黄色い縁で覆われていて、手がしっかりとしていて足が短い。きょとんとした顔でアカネの足元にぺたんと座り込み、アカネやカイトの顔を凝視している。
 おどろいたまま固まっているアカネとカイトの顔が面白かったのが、二匹の顔を交互に見たあと、『キャキャッ』と声を上げてにっこりと笑みを浮かべた。生まれたポケモンが声を上げたことでやっと我に返った二匹は、また静かにお互いを見遣って再びポケモンに視線を戻した。
「……え、っと。初めて見るポケモンだなぁ……
 君はなんてポケモンなの?」
「ポーケ?」
「まだ生まれたばかりだから言ってる事分かんないんじゃない……?」
「あ、そ、そっか。えーっと……」
「エットー?へ……キャッキャッ!」
 困惑のあまりどうするべきかわからない二匹は、大笑いするポケモンの赤子を目の前に本当に何もすることが出来ない。
 気が付けば夜は完全に開けて周囲はとても明るくなっていた。まだよちよちとしか動けないポケモンの赤子をカイトはひょいと抱き上げる。
「ふぇ……ぶぇぇぇぇ!!!」
「え」
「も、もしかしてアカネの方がいいとか……?フワフワがいいとか……」
「まさかこの子抱っこしてギルドまで行くの……?」
 孵化したからにはとにかくペリーのところまで行って情報を求めなければならない。手っ取り早くこのポケモンを連れて行きたかったのだが、カイトが抱き上げると泣き叫ぶわ暴れるわでどうにもならない。へんに力を籠めると赤子を潰してしまいそうで怖かったカイトは、そろそろとアカネにポケモンを渡した。アカネよりも二回りほど小さなそのポケモンは、抱えるような感じになりながらもどうにかアカネの腕の中に納まった。カイトの手から離れる時も暴れる為、アカネは軽く腹を蹴られて小さな声で呻く。アカネの手に渡ったポケモンの赤子はグズ、と鼻を鳴らすと暴れるのを辞めて声も落ち着いてきた。
「ぐず、ぶ……ンンッ……」
「泣き止んだ……」
「ずっと抱っこ……きつくない……?」
 アカネより小さいとは言っても、そもそもアカネが小柄なのでこの赤子の足が地面に付かないように歩くので精一杯である。例えるならばピチュー程度の大きさなので連れて歩くには四足歩行の方が楽ではあるのだが、背中に乗せるなんて不安定で怖すぎるし、とぼやいた。
「…………この子を抱っこしたアカネを僕が抱っこして歩くのはどう?」
 カイトは自身でも力があることを自負している為、二匹抱えて歩く程度は朝飯前なのだが、状況が状況の為におずおずと提案する。
「はぁ!?何でそうなんの!?」
「ぐじゅ……ぶぇぇ……」
「やばっ……シーーッ」
「ァッ……」
 大きな音を立てたら泣く。多分変に大きく揺れるようなことがあっても泣く。前例がなくても分かる。とにかく慎重にと、アカネはカイトにフォローされつつサメハダ岩から抜け出してトレジャータウンへと向かって行く。
 いつもはあっという間に感じるトレジャータウンの一本道が、今日はやたら長く感じた。途中でやはりアカネの腰と腕に限界が来て立ち止まってしまうということが何度も起こり、結局謎のポケモンを抱きかかえているアカネを抱きかかえるカイトがトレジャータウンを抜けていくという奇妙な光景が朝の道行くポケモン達に目撃され、ヒソヒソされ冷やかされつつようやくギルドへとたどりついたのだった。



「私は何を見せられているのかと思ったぞ」
 目の下をひくひくと痙攣させながら、ペリーは大きなため息を零す。アカネと謎の小さなポケモンを抱えて現れたカイトがギルドの門を叩いたのを見て眩暈がした。一体彼らは何をやらかしたのかと思いながら彼らの前へ飛んで降り立つペリーの姿を見た瞬間、妙に疲れた様子の二匹が珍しく目を輝かせ縋る様に走ってくるのを目にして、間違いなく面倒なことだと直感した。
「まぁ、そういうことで……この子はどういうポケモンなのか聞きたくてさ」
「色々と言いたいことはあるが、お前達の話を総合するにこの子は『マナフィ』という種族のポケモンだ。
 とても珍しいポケモンでな、世界に数匹しかいない。私も見るのは初めてだが……冷たい海の底で生まれて数千キロを旅すると言われている。どんなポケモンかはまだ知られていないが、とにかく謎に包まれたポケモンだな。見た所危険はなさそうだが……」
 パチパチと瞬きをしながら、不思議そうな眼差しで自分を見つめてくるポケモン『マナフィ』に、ペリーはあやすようにチチチと喉の奥を鳴らした。
「親がいなくなってしまった卵を救出してそのまま孵化した前例は実はかなり多いんだ。カイト。おまえの救助隊のご両親もおそらく経験があるだろう。
 まだ孵化まで時間がかかりそうならばトレジャータウンの育て屋「アリーナ」に預ければいいのだが、既に孵化して……しかもまだ物心もついてないようだからな。お前達を親と思い込んでいるだろうな」
「そういえば、アカネが抱っこしてないと泣いて暴れてどうにも……」
「ならばとにかく、今のところアカネはマナフィから離れないようにするんだな。きっと、本来生活する場所も違うし、生まれたてのポケモンはまだ弱い。特にマナフィは希少なポケモンだ。私も色々考えてはみるが…………」
「ぶっぅ……ふぇ……ふぇあわぁぁんーーー!!!」
「え、え?」 
 下手に動いていないし、大きな声を出してもいないのにマナフィは再び大声を上げて泣き始めた。暴れてはいないが、とにかく何か理由があって泣いているのは間違いなさそうだ。アカネはあたふたとして体を軽くゆすってみたり擦ってやったりするものの、どうにも泣き止む様子はない。そろそろ暴れ出すのではないかと思う程の勢いで号泣している。
「ブッ……クク……腹が減っただけだと思うぞ」
「ま、マナフィ?……この子は何を食べればいいの?普通の木の実とかじゃダメよね……?てかなんで今笑った?」
「ン、コホン。わ、私にもよくわからないが、一般的には柔らかくした『青いグミ』をあげたり……あと、水タイプだからな。普通の水より海水をのませた方がいいだろう」
「青いグミ……そういえばフラーがくれたグミのセットの中に少し入ってたよね。帰りに倉庫に寄ろうか」
「ぶえぇぇーーーー!!!」
「わ、分かった、わかったから、帰りましょ、うん」
 助けてくれと言わんばかりにアカネはカイトにググっと体を寄せた。とにかく一刻も早く食べさせなければ泣きすぎて失神するのではないかと思う程に激しい泣きっぷりだった。ペリーは全く動揺を見せずクスクスと笑いながらその様子を眺めていたが、ふと真顔になってカイトの方に声をかける。
「ここではなんだ、後ろからコソコソ見ているやつもいて落ち着かないし、生まれたばかりなのにあまり周囲にじろじろ見られるのも良くない。私もついて行かせてもらう。もう少し話すこともあるからな」
 ギルドの入り口から姉弟子兄弟子達がじっとアカネとカイトの様子をうかがっている。ギルドにまた世話になるのならいずれ話すことにはなるであろうとは思ったが、とにかく今は目の前の事をどうにかしなければならない。
 カイトは軽くうなずくと、先ほどの様にアカネとマナフィを抱えてギルド下の階段をゆっくりと降りて行った。奇妙な体制で歩き続けるアカネとカイト、そしてギャン泣きしている謎のポケモン。それにゆっくりとついて行くペリーは、「目立ちすぎだろ……」とぼやいた。



ミシャル ( 2020/09/29(火) 23:59 )