ポケモン不思議のダンジョン〜夜明けの世界〜








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第四章 シェイミの里
36話 頂上の異変

「…………あれ?……」
 チームクロッカスとミーナは、ペースを遅らせながらも九合目へと到達した。やっと終わりが見えたねぇ、とカイトがミーナに話しかけるが、彼女は訝し気な表情を浮かべながら九合目と思われる開けた空間を見渡している。
 ミーナの様子がまた先ほどとは変わっていることに気が付き、彼女がしているようにアカネも九合目を見渡した。視覚的には特に問題ない風景だが、集中すると鼻をツンと突くような不快な臭いが漂っていることに気が付く。カイトは臭いに気が付いていないのか、眉間に皺を寄せる二匹を見て「似てるなぁ……」とぼやいていた。
「ミーナ……ここ、なんか変な臭いするけど。いつもこんな感じなの?」
「に、臭い?……言われてみれば、確かに。
 それに、なんだか空気が淀んでいるというか……前来た時はこんな感じではなかったように思うのですが。
 大したことが無い……とは思うのですが、気になりますね」
 臭いと言われ、やっとカイトも不快な臭いが漂っていることに気が付いた様子だった。気が付いたら少し嫌なのか、顔をしかめるようなしぐさをする。
 妙な臭いの正体や、淀んだ空気の原因も気になる。何となく今までとは違う気がする、という勘でしかない為、はっきり可笑しいと言い切ることも出来ない。ミーナは困ったように眉間に皺を寄せていたが、「とにかく慎重に進もう」とカイトが提案したのを皮切りに三匹は「頂上への道のり」を歩もうと進み始める。
 ミーナは九合目の中心で少し足を止め、「メッセージを残しておきましょうか」と、アカネとカイトに提案した。アカネは頷くと、其処らに落ちている小石を拾い上げ、「クロッカス 頂へ向かいます」と書き残した。メッセージを残すと、三匹は頂上へと続くダンジョンに足を踏み入れた。
 一方、少し遅れてやってきたシャロット達もまた九合目の変化に気が付いたものの、アカネ達のメッセージを発見しひとまず先に進むことに決めた。同時刻にフロンティアのポケモン達も山頂へと進み始め、各ポケモン達が皆「空の頂」へと近づいてきていた。

 九合目から「空の頂」まで、大した距離はない。しかし、アカネ達はダンジョンに入って数分経った頃からその異常に気が付いていた。ポケモン達を見かけることが全く無いのだ。ミーナがいるからと遠慮しているわけでもなく、まるで追い払われてしまったかのようにポケモン達が姿を消してしまっている。あまりにも静かで、風が吹いて木々が揺れる音、アカネ達の小さな足音以外には物音が聞こえない。
「……ミーナ。臭いがどんどん強くなってるわ」
 階段を超えるごとに独特な鼻を突く刺激臭が強くなっている。それは微々たる変化ではなく、かなり急激に臭気を増していた。最早自然に沸いて出たものとは思えず、頂上に何か問題があるのかもしれないとミーナは懸念した。臭気が強まり、またこのダンジョンに入ってからというものポケモン達が全く現れない。流石に一度も遭遇していないのは可笑しい。
「そろそろ到着なのですが……」
 幾つか階段を通過し、暫く上り坂を歩いているとミーナがそう呟いた。道もかなり開けてきたので、アカネもカイトもそろそろだとは思っていたが、踏み出すたびに酷い臭いが鼻を突き、やがて視界さえも何かガスのような物で靄がかかるようになってきた。
「…………!!!これ、は……」
 ミーナが驚いたように立ち止まる。何故突然立ち止まったのか分からなかったが、数メートル先は切り立った崖になっている。酷い臭いや視界の悪さで気が付かなかったが、もう既に頂上へ到着していたのだ。
 その時、三匹の視界の隅で岩のようなものがドロリと地面を這うように動いた。
「集まって!」
 アカネはカイトやミーナと背中を合わせるように立つと、周囲を見渡す。相変わらず視界が酷いが、岩のようなものがデロデロと各所で動いているのが確認できる。影しか確認できなかったが、おそらく岩ではない。ポケモンだった。
 足元の草がカサカサと揺れて、アカネ達の存在と正体の分からないポケモン達が移動していることを伝えている。
「おぉい!!」
 更にガサガサと勢いよく草を踏みしめるような音が複数聞こえ、音の方向に視線を向けると「フロンティア」の三匹が息を弾ませながらクロッカスに向かって走っていた。当然三匹とも何が何だか分からないという様子で、周囲の酷い臭気や妙な靄に困惑していた。
「気を付けろ!何かいる!」
 カイトが走ってくるフロンティア一行にそう叫ぶと、フロンティアの三匹はピクリと体を揺らして瞬時に背中を合わせた。ナゴは頭の大きな顎を前に突き出し、グールやベックも迎え撃つ姿勢をとっている。どうやら動き回るポケモン達に気が付いたようだ。
「こいつらは一体なんだ!?どうなっている!」
「…………!!ベトベター……ベトベター達ですね!?」
 ミーナはその正体に気が付き、ポケモン達の種族名を叫んだ。言われてみれば、とアカネとカイトも目を凝らす。粘性のどろりとした体と、地面を這うような動き。おそらく、ベトベターがこの「空の頂」に密集しているのだ。
 近づいてくるポケモン達はクロッカスとフロンティアを取り囲み、追い出さんとばかりにじりじりと近づいてきている。
「ここで何をしているんですか!?ここはあなた達の住処ではないでしょう。
 早くお家に帰りなさいな!」
 ミーナが迫ってくるベトベター達にそう叫ぶが、一匹は「やだやだ〜」と駄々をこね、もう一匹はミーナが嘘をついているとでも言うかのように「ウソウソ〜〜」と繰り返す。しまいには「綺麗なやつは追っ払ってやる」とまで言い出す始末で、何故だか話が全く通じそうにない。マスキッパ達はきちんとミーナの話を聞いてくれたが、このベトベター達はここが自分たちの縄張りである、と譲りたくないようだった。
 ミーナも諦めたかのようにため息をつく。
「……これはちょっと、目を覚ましていただかないといけませんね……」
「なるほどねぇ。私達は準備ばっちり!!クロッカスも、協力お願いできる!?」
 ナゴがにんまりと笑みを浮かべながらアカネ達を見遣った。
「勿論!」
「大丈夫よ」
「手間をかけてしまって、すいません」
 ミーナが謝ることじゃない。フロンティアのリーダー・グールがそう言うと、数秒置いて一斉に動き始めた。
「俺達はこっちのポケモン達を!!そっちをお願いできるか!?」
「任せて」
 フロンティアとクロッカスが距離を置いて戦闘を開始した。動きを見ると、大体フロンティアが相手をしているのがベトベター三匹、アカネとカイトが相手をすることになるのがベトベター四匹ということだ。
「大丈夫だよね、アカネ」
「了解」
 カイトは自分の尻尾を差し出した。アカネは尻尾を掴むと、カイトは思い切り空へ尻尾を振り上げる。アカネは宙に飛び上がると、頬袋に電気を集中させ全身に電気をいきわたらせるように放電した。複数の電撃が鋭く靄を切り裂き、曇った視界を一瞬明るく照らす。
 ベトベター達の位置や姿勢を確認したカイトが両腕を振り上げ「ドラゴンクロー」を一匹にぶつけた。カイトがベトベターから離れると、素早くミーナが「エナジーボール」を繰り出しベトベターを攻撃する。アカネは地面に着地すると、次は尻尾を地面に突き立てばねの様にして再び宙に飛び上がると、空中で姿勢を整え「アイアンテール」をベトベターの脳天に突き刺す。
 ベトベター達はあまり強くない。耐久力もあまり無いようで、アカネのアイアンテールをモロに喰らったベトベターは一発目で目を回していた。カイトは続けざまにノロノロと動くベトベターのマッドショットを姿勢を低くして回避すると、低姿勢のままベトベターに突っ込み「メタルクロー」を鋭くベトベターの顔面付近に打ち込んだ。
 ミーナはタイプが苦手なだけに苦戦していたが、アカネとカイトが攻撃をしたあとに追い打ちをかけるように「自然の恵み」や「マジカルリーフ」を使ってベトベターを攻撃する。アカネが「十万ボルト」で最後のベトベターを倒した時、バトルは終わったかのように思った。アカネとカイトは一息つき、ミーナも安心したように体の力を抜く。
 フロンティアのポケモン達もグールが「気合パンチ」を撃ち込んで最後のベトベターを撃破していたが、ベトベターを全て倒し終えてもナゴが落ち着かない様子で両腕を擦っていた。
「どうしたんだ?ナゴ」
「…………いや、なんかね。
 私が鋼タイプだからかな?なんかまだ変な感じして…………」
 心配そうに話しかけるベックにナゴがそう告げた瞬間、何かベトベターよりも大きな気配がアカネ達の向こう側で蠢いた。
「ミーナ!!」
 大きな影が勢いよく空から落ちてくることに気が付き、アカネはミーナを抱きかかえてその場から飛び退いた。アカネとミーナがいた場所に、二匹の倍はある謎の塊が落ちてきて地面を焦がす。
「これは……」
 ふつふつと煙を上げているのは、巨大な毒液の塊だった。奥に何かいる。カイトが奥へ向かって走ろうとした瞬間、次は大きな泥の塊が複数落下してくる。
「アカネ伏せて!!」
 アカネはカイトがそう叫ぶと同時にミーナを自分の胸の下に入れて四つん這いに屈みこむ。カイトは咄嗟に「火炎放射」を使って泥の塊を狙い撃った。火炎放射と衝突した泥の塊は急激な炎の勢いに押しのけられ、アカネとミーナからかなり離れた場所まで吹き飛ばされる。
「……あっ……!」
 しまった、と言わんばかりにカイトは声を漏らした。アカネも、背中を焦がすような熱に「炎技を使った」とアカネは瞬時に気が付いたがもう遅い。アカネの胸の下でひっくり返り、アカネの肩越しに彼女の背中の上を通り抜けていく大きな炎の柱をモロに見てしまったミーナは、顔を真っ青にして震えながら体を丸くしていた。息が荒く、目を大きく開けて焦点が定まっていない。
 思わぬ失態にカイトも困惑の表情を浮かべた。アカネは仰向けになって丸くなるミーナを再び抱えて立ち上がり、彼に叫ぶ。
「いいから、カイトは奥のポケモンを!!」
「俺達も行くぞ」
 フロンティアのポケモン達も奥に潜むポケモンの元へ向かうカイトの後を追って走り始める。

  複数の技がぶつかり合う音が響き渡った。


「あいつか……!!」
 ベトベター達と戦っている間全くと言っていいほど動いていなかったため、存在に気が付くのが大幅に遅れてしまった。殺意を隠してひそんでいたポケモンを、カイトは容赦なく「切り裂く」で切り付け、さらに技を転じて「メタルクロー」でその傷をえぐるように再び切りつける。
 ベトベター達の親玉であろう。巨大なベトベトンは呻き声を上げながら「アジットボム」を素早く、しかも無差別に繰り出していく。ナゴが飛んでくる技を大きな頭の顎を使って容赦なく叩き落してくれるため、カイト達はかなり至近距離から攻撃することが出来る。 
 ベックが「痺れ粉」をベトベトンに浴びせ、体が痺れているところをグールが「気合パンチ」で殴りつけて吹き飛ばす。完全に体制を崩し、地面にどろりと溶けたところをカイトが「竜の息吹」をベトベトンの頭上から浴びせた。
 猛攻を受け攻撃も殆どナゴに撃ち落とされてしまう所為で抵抗することが出来ず、あえなくベトベターは小さく呻き声を上げて戦闘不能になった。
「……はぁ、疲れたぜ。にしてもこいつデカいよな……ナゴ、どうだ?まだ何かいるか?」
「うん、もう大丈夫だと思う」
「にしても、アンタ強いなぁ」
 フロンティアのグールがカイトにそう言って子供を褒めるかのようにポンポンと頭をなでる。まぁ、小柄だからそうしたくなるのも分かるけど、とカイトが微妙な表情を浮かべると、続けてグールが尋ねた。
「そういや、お前あんなに至近距離で炎技使わないんだな?どうした?」
「……ううん、色々とあってね。とりあえず、ベトベター達が起きたら帰って貰わないと、ね」



■筆者メッセージ
作者「シャロットさぁ、最近チェスターと付き合ってるじゃん。具体的にどんなことしてんの?」
レイセニウス「あぁ〜?質問するまでもないんじゃね?そりゃもうあんなこ」
セオ「本編で出番ないから欲求不満なんだね……しかも彼女できないもんね……」
作者「マジ黙って欲しい」
レイ「えぇ」
シャロット「うーん、基本的にいつもカフェで会います。水晶の洞窟のあたりまで行って軽く探険したり、この前カレーっていうの食べに行きました。美味しかったですよ」
作者「カレーってワードはちょっとまずいと思います」
シャロット「美味しかったですよ」
作者「そういうことじゃないです」
ミシャル ( 2020/04/03(金) 19:21 )