ポケモン不思議のダンジョン〜夜明けの世界〜








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第四章 シェイミの里
33話 八合目
 六合目に到着すると、何時の間にかゴンドラでやってきたのだろうか。フロンティアのポケモン達や他の参加者たちが集い、六合目にて休憩を取っているようだった。
 相変わらずハンナ率いるシャロット達のグループは見当たらないが、ミーナによると残るところ半分以下に差し掛かっていた。彼女の話では、この先は雪山が続いているらしい。しかし、寒さもこれといって問題があるほどのものでは無い為、凍傷対策としてチーゴの実を持って行く以外には特に対策は必要なし、とのことだった。ミーナは寒さに弱いという事だったが、背中を覆うモコモコの緑色があるから特に装備は必要ないという。
「俺達もこれから本格的に登り始めるから、途中で会ったらよろしくな」
 寒さ対策に、とマフラーを身に纏うフロンティアのベックがそう言う。この先は雪山になっているため、それに伴い基地も作れなくなるらしい。この先はゴンドラの使用も出来ない為、これまで以上に安全に気を付けてほしい、とのフロンティアからの伝達だった。
 基地は六合目まで。その先は自力で、ということで、ミーナの体に一層力が入っているように見受けられた。この先は予想外の事態が起きても、これまで以上にままならない場合が有る、という事だろう。
「ハンナさんは、まだ来ていませんか?」
「ん?あー、ハンナはまだ見てないけど、さっき連絡が入って少し遅れてるって。どうも連れのポケモンが落とし穴にハマってそのまま迷子になったらしいよ」
「セオかしら」
 セオだということは一切聞いていないが、何となくそう思ってアカネはポロリと口を零した。迷子になったポケモンとやらは既に見つかってはいるが、他のポケモン達よりペースはゆっくりだという。こんなイレギュラーもあるから大変だな、と思い、アカネとカイトは苦笑いを浮かべた。
「…………そうですか」
 ミーナは少し表情に影を落としながらそう呟くと、フロンティアのポケモン達にお礼を述べてそのまま見送った。六合目までの道のりで最初の段階では多少トラブルは起こったものの、それより先は順調である。三匹は隅に座り込み、オレンの実を三つに割るとチョモチョモと食べ始めた。
「確か、空の頂は十合目だったわね」
「はい。正しくは九合目を抜けた所です。おそらく雪は降っていないと思いますが、雪が積もっているかと思いますので足を取られないように気を付けてください」
 一番背丈が低いミーナが足を取られそうではあるが、ミーナは雪の中を歩くのは慣れているという。昔からシェイミの中で「雪の上の上手い歩き方」というのがあるらしく、上手く歩けば殆ど沈むことも無く、芝生を歩くように進めるというのだ。
 三匹はオレンの実を腹の中に入れると、七合目までのダンジョンを進み始めた。足の裏が凍りそうなほどに冷たいという意外は、これと言って厳しいものは感じられない。「吹雪の山」を突破した二匹としては、これくらいの寒さか、とホッと息をつきたくなるような感触だった。
 落ち着いた雪山という印象を与える静かな景色と、冷たい空気。冷気を吸い込んでも喉の奥がカサつくような感覚は無く、ある程度の湿度はあるように感じたが、多少空気が薄い。
 ミーナ曰く、ここから徐々に疲れやすくなってくるポケモンが出てくる、という先輩談があるという。気温の急激な変化や、空気が薄く酸欠気味になるポケモンがいるという。ただ、それも極端な例であり、元々体が頑丈ではないポケモンがそうなりやすいということだ。 
 カイトはアカネに視線を送った。アカネは少し困ったような顔でカイトに視線を送り返すと、「大丈夫だ」と言わんばかりに小さく鼻から息を吐いた。その様子に何か思うことがあったのか、ミーナはアカネの顔を見上げた。
「失礼ですが、山に入った頃からカイトさんはアカネさんの様子を気にしていらっしゃるように思います。もしかして、アカネさんは体があまり強くない、ということは……」
「私は大丈夫よ。今のところ疲れは出てないし」
「……ちょっと体調が悪い時期があったんだ。でも、最近は大丈夫だよ」
「そうですか。一時期の体調不良くらいでしたら……ただ、おかしかったらすぐに行ってくださいね」
 ミーナはまた少し不安そうな顔をしたが、それをカバーするのも仕事の内だと思ったのか、再びきりっとした顔つきに戻って先導をつづけた。
 雪山に入ってから氷属性のポケモンが出現するのではないか、と考えていたが、意外にも氷属性を持つポケモンが殆ど出現しない。水属性を持つポケモンや、皮膚が分厚く寒い場所でも過ごしやすいポケモンばかりが出現する。
「このくらいの寒さは、意外と水属性のポケモンの方が過ごしやすいのかもね」
「確かに、物足りない位なのかしら」
 そもそも、ポケモンが襲ってくる頻度自体がそこまで変わらない。この道も大して敵と遭遇することも無くダンジョンを進み続ける。
 二匹の目の前を歩くミーナは、歩き方は先ほどまで変わったように感じられないものの、アカネやカイトの足は軽く雪に食い込んでいるような状態だが、ミーナは殆ど沈まずに歩いている。
 軽く浮かぶ足跡を見て、大したものだなぁと言わんばかりに彼女の小さな背中を見つめていると、ミーナが「あ」と声を上げる。
「七合目が見えてきました。少し休みましょう」
 七合目に到着すると、真っ先に目に入ったのがフロンティアのポケモン達だった。
「流石、お早いですね」とミーナが呟くが、アカネとカイトは目をしかめた。フロンティアのポケモン達はアカネ達に気が付くことはなく、七合目の隅の方に集まって何かを話し合っていた。
 ただ話しているだけのようには見えず、三匹は訝し気な様子でフロンティアのポケモン達の方へと近づいて行った。
「!!その方は」
 三匹のポケモンの隙間から見えたものに、ミーナは思わず声を上げた。その声でやっとアカネ達の存在に気が付いたのか、フロンティアの三匹が振り向く。
「あぁ、丁度いい所に」
「これ、どういうことなの?」
 フロンティアがそっと体を避けた先には、倒れ込んで息苦しそうなニューラが横たわっていた。各所でトラブルを起こしていたポケモンである。彼の体は傷だらけで、顔色が酷く悪い。彼に近づくと、腐ったような匂いが微かに漂っていることに気が付いた。
「ちょっと見せてください……。
 これは酷いですね。おそらく毒に侵されています。モモンの実は与えましたか?」
「食べさせようとしたんだけど、意識が無くて」
「こいつ、持ってたバッグもどっかやっちまってるし、とにかくこのままだとまずいな」
「八合目まで助けを呼びに行きます。そこに救助のエキスパートがいるので、そこまで移動すれば安全でしょう」
「なら、私達は八合目まで向かいましょう。……その前に」
 アカネはニューラに近づき、ニューラの体の一番深い傷口に触れた。カイトは一瞬止めようとしたが、既にニューラの傷が治癒しかけていることに気が付いて思いとどまる。ミーナやフロンティアのポケモン達は一体何をしているのか疑問に思い、その様子を凝視していた。
 ニューラの傷はうっすらとだが残っているが、主な出血は抑えられていた。
「何をしたのですか?」
 ミーナは訝し気な視線でアカネを見た。アカネのうっすら青みを帯びた瞳には気が付いていない様子だったが、アカネは「回復技みたいなもの」と質問をかわした。
「でもそこまで深い傷でもないと思うわ。あまり深いとそもそも効果無いし……。
ただ、毒が消えたかまでは分からない。八合目に急ぎましょう」
「ミーナ、また走ろうか」
 カイトはそう言ってミーナに手を差し出す。先ほどの言葉が少し響いていたのか、ミーナは躊躇う様子を見せつつも素直にカイトの腕に抱えられた。
「私の背中に乗ってもいいのよ」
「アカネがやってみたいだけじゃない?それ……」
「い、いくら私が小さいからと言え、アカネさんも小柄なんですから腰痛めますよ……て、違う。
 申し訳ありませんが、お願いします」
 三匹はすぐに八合目へ出発した。ミーナは出来る限り状況を見ながら敵が少ない方向を判断して指示し、アカネ達は全力で駆け抜ける。
 雪で時折足が深く沈み込むが、構っていられなかった。
 ダンジョン内の階段を幾つか踏み越えた頃、ミーナが「あっ!」と大きな声を上げ、叫んだ。
「あれです!八合目です!」
 薄暗く、雪の白色と木々の緑、焦げたような木々の色の中に橙色の光が灯っている。今までの場所とはかなり違う雰囲気を持つその場所は、洞窟の中に松明が灯されているようで、まるで誰か住んでいるようだった。
 アカネ達は急いで洞窟の中に滑り込むと、洞窟の中でゆっくりと休んでいる一匹のデンリュウが目に入った。カイトが少し腕の力を緩めると、ミーナがカイトの腕から飛び出してデンリュウに声をかける。
「テイルさん!」
「ん……あぁ、麓のシェイミ。ミーナじゃないか」
 本を読んでいたのか、パサリとノート状のものを畳んでデンリュウはこちらに目を向ける。小柄な体に焦げた花を見て、一目でミーナだと認識したようだ。
「ひさしぶりだなぁ!元気だったか?」
「はい、ご無沙汰しています……ではなく、すいません!急いでいまして」
「ん?何か用か?」
「七合目で遭難です!」
「あぁ、またかぁ。さっきも連絡があってポケモンを助けたんだよなぁ」
 ホレ、とデンリュウが指さした先には、ベッドで寝転がって毛布の中ですやすや眠っている一匹のコリンク。やっぱりあいつか、とアカネとカイトは目を細めた。
「ハンナと会うのも久しぶりだったが……ま、いいや。行ってくるよ、オマエラはちょっと待っててくれ!できれば、そいつ見ててくれると助かる」
「ハイ!」
 デンリュウのテイルは足元に転がっていた探検バッグを引っ掴むと、瞬く間に洞窟を出ていき姿を彼方へと暗ませた。アカネとカイトが唖然とそれを見ていると、「テイルさんはとても優秀な方なので、十分もしないうちに帰ってくると思いますよ」と言う。

「……それはいいとして」
 アカネはセオの方へ忍び寄り、ツンツンと頭をつついた。セオはポカポカとした洞窟の中の空気と程よい肌寒さ、毛布のフワフワと藁のベッドの柔らかさが気持ちいいのか、もぞもぞ動きもにょもにょと口を動かしてまた夢の世界へと旅立った。
「確か罠を踏んだんだっけ」
「流石セオだ」
 眠る姿が妙にあどけなくて、自然と二匹はため息を零す。ミーナはちらりとセオの顔を見て、「ハンナさんと同行したポケモンですね」と口に出した。
「ハンナさんがこんなミスをするなんて」
 同行者の負傷はガイドの責任だ、と言わんばかりにミーナは眉間に皺を寄せた。彼女らにとってはそうなのだろうけれど、とアカネは口を開く。
「いや、多分セオが言う事聞かずにフラフラしたんだと思うわよ」
「その可能性が高いね」
「ご友人にここまで言われるこの方って……」
「色々やらかしてるからね」
 カイトは困ったような顔で笑った。アカネは融通の利かない子供を見る様な目つきでむにゃむにゃと夢の世界にいるセオを軽く睨んでいる。
 しかし、アカネとカイトから彼に対する敵意は感じない。憎み切れない相手なのだろう、とミーナは思ってセオを正面からじっと見詰めた。とにかく、多少癖の強いお客様、というところだろう。
「セオがここにいるということは、シャロットたちは先に行ってるのかな」
「いいえ、セオさんが一時的にフロアから外れてしまったとすれば、別々で行動していると思います。テイルさんが救出してここまで連れてきたんだと思いますよ。ハンナさんたちは通常のルートをたどってるかと」
 へぇ、と納得してアカネがセオから視線を逸らし、少し先にある洞窟の出入り口に目を向けた時、七合目の方向から複数の影がこちらに向かってくるのが遠目に確認できた。
「到着したみたいね」




■筆者メッセージ
作者「君ら、自分が性転換したらどうなるか想像したことはあるかい?」
カイト「いきなりなんなんだ」
アカネ「一時的にとはいえ性転換は嫌だから、話だけでお願い」
作者「実は、最初の設定ではアカネはカイトだったしカイトはアカネだったんですよね」
カイト「何を言っているかわからない」
作者「主人公がヒトカゲ雌、ピカ雄が主人公で、名前も決まってたんだけどね」
カイト「ひぇ」
アカネ「ちなみに、どういう性格だったわけ?」
作者「ヒトカゲは普通に女の子らしい性格だったし、ピカは少し荒々しい性格だった気がするうろ覚え」
アカネ「私は荒々しくないわ」
カイト「どうして本編ではこうなったのか……」
作者「パートナーは闇なんか抱えてなかったのにね」
カイト「僕が闇抱えてるみたいなこと言うのはやめてほしい」
作者「うわ」
ミシャル ( 2020/03/18(水) 21:26 )