ポケモン不思議のダンジョン〜夜明けの世界〜








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第四章 シェイミの里
29話 目指せ空の頂
「初めまして」
 モコモコとした若々しい新緑を纏った、小さくてつぶらな瞳を持つポケモン。
 可愛いのがもう一匹現れた。
「この子がミーナです。ほら、挨拶を」
「初めまして、ミーナです。この度は世界を救ってくださってありがとう」
 唐突に世界を救ったことについて礼を言われ、アカネとカイトは少し顔を見合わせて苦笑いした。『時限の塔』から帰還した頃にはよく言われていたものだが、最近はあまり口に出して言われたことは無い。アリガトウ、と言われるより、すごいすごい、強いんだなぁと持ち上げられた方が近頃は多いだろう。
 ミーナはハンナよりも少し体が小さく、ハンナよりも目が覚めるような新緑のモコモコとした体毛を付けていた。しかし、顔の横についている美しい花は一部が焼け焦げたように焼き切れている。ハンナのものと比べると、右側に付いている花が半分ほど足りない。可愛らしい顔に見合わず、他のシェイミたちよりも目つきが鋭かった。敵意は感じないのだが、顔つきだけ見ると怒っているようだ。
 カイトはちらりとアカネを見た。本来の真ん丸としたピカチュウの瞳はキュッと涼し気に吊り上がっている。ハンナと全く同じような顔つきをしているのである。こういうのはもう、本当に個体差があって無意識にやっているのだろうな、と改めて思った。
「はじめまして、僕はカイトです」
 この四匹の中では一番体が大きいカイトは軽く膝を折ってミーナに自己紹介をした。しかしそれが気になったのか、怒りながら困っているような顔で「気を使わないでください」と言われる。カイトはごめんよ、と少し申し訳なさそうに言って態勢を戻した。一方のアカネは、物をはっきりと言う子だな、とアカネは少し感心したようだった。
 見た目も声もハンナよりかなり幼く、おそらくアルストロメリアの方でバトル練習をしてあげたポッチャマたちとそう年齢は変わらないだろう。
「アカネ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。ハンナさん、私は大丈夫ですから、一匹でご案内できます」
「ええ、そのつもりよ。ミーナもご存知だと思うので、くれぐれも戦闘のお邪魔はしないように……極力、ポケモンと遭遇しない道を選ぶのが一番ですが。
 学べることも多いと思います。では、クロッカスの皆さん、この子をよろしくお願いいたしますね」
 小さな体を精一杯に折り曲げて、ハンナは頭を下げた。よろしくお願いされる側なのは私なのに、と言いたげな顔をハンナに向けるミーナは、数秒遅れてクロッカスの二匹に頭を下げた。
「不束者ですが、よろしくおねがいします」
 まるで嫁入り前みたいだな、と思いながら、カイトもアカネも頭を下げた。

「では、私はこれからご案内する方とお話してきますので、失礼しますね」
 にこりと微笑み、ハンナはその場を離れた。可愛らしくトテトテと歩いていくハンナを見送るつもりでその姿を見ていると、ハンナが歩いていく先には見知った顔が数名、こちらを様子をうかがっていた。
「あ」
 ハンナが自分に近づきすぎる前に、向こう側に居るシャロットが走ってハンナのところまでやってくる。アカネやカイトとも距離が近かった為、二匹はシャロットの元に近づいていく。ミーナはチョコチョコと後ろをついてきていた。
「アカネさん達も着いてたんですね」
「……ってことは、ハンナが案内するのはシャロットって事ね」
 アカネがそう言うと、シャロットは軽く頷いた。アカネの後ろに座るミーナが、シャロットを覗き見て軽く会釈をした。シャロットの後ろにはチェスターとセオがゆっくりとこちらに向かってくるのが見える。
「うーん、もし出発前に合流出来たらご一緒したかったんですけど、ちょっと数が多いですね」
 アカネとカイト、その後ろにいるミーナを見て、シャロットは少し困ったような顔をした。その言葉を聞いたハンナが頷く。
「そうですね。あまり一緒に行動するポケモンが多くなると、細い道などで身動きがとりにくいので、三匹から四匹が最適です。一緒に行けないという訳ではないですが……」
 ハンナはそう言いつつも、あまり同行してほしくはなかった。自分が一緒に付くことになってしまうと、ミーナの練習にもならない。かといって自分が降りてミーナにこの数のポケモンを預けても、体つきなどから明らかに戦闘慣れしていなさそうなポケモン(セオ)が一匹いる為、満足に案内できるかどうかもわからない。自分が全員案内してしまってはそれこそ意味がない。
 アカネはちらとハンナの困ったような表情を見ると、シャロットの顔に向き直って言った。
「まぁ、進むうちに会うこともあるだろうし、とりあえずは別々に行動しましょう」
「そうですね。チェスターも強いし、あたしだって負けてませんから」
 にこにことしながらそう言うと、シャロットはハンナに声をかけてチェスター達の元まで戻っていった。チェスターはかなり戦闘慣れしているし、過去にアカネ達が打ち負かしたことがあるとは言えど決して弱いわけではない。『エレキ平原』を統べる一族の一匹であり、一応頂点に立っていると言ってもいいのだ。その弟のセオは、正直残念な実力であると聞いてはいるが、一応知識はある。
 シャロットも、探検家としての名声の波に乗ることが出来なかっただけで戦闘の実力は高い。
「いや待って、僕は?」
「セオは……ねぇ?」
「はぁ〜?」
 またセオとシャロットが揉めているのを、チェスターが間に入って宥めている。安定の関係性だな、と眺めていると、後ろで座っていたミーナがトテトテと前に出てきた、アカネとカイトに言った。
「それでは、わたしは入り口付近で待機していますから、ご準備が出来たらお呼びください」
 心なしかさっきよりもムッとしているようだ。ミーナは小さな歩幅で歩いていくと、頂へ向かう為の入口へ行ってアカネとカイトを待つように座り込んだ。彼女は小さな探険隊キッドを腹部に付けているのか、既に準備はできているようだ。
 再び里を見渡した。外部から来たポケモンがちらほらと見られる。シャロットたちはもう出発したのか、先程いた場所からは移動していた。入り口まではかなり近いので、この短時間で移動していても可笑しくはない。
「あっ」
 カイトは軽く声を上げた。頂へ向かう入り口付近で、三匹のポケモンが楽しそうに談笑している。見たことが無い三匹だったが、アカネもその中の一匹に視線が向かった。
「クチートね」
 クチートとゴーリキーとキノガッサ。体格差の大きい三匹のポケモンが円状になって話しているのを見て、何となくアルストロメリアのクチート、セイラの事を思い出した。元気にしているだろうか、と思うと同時に、セイラがくれたあの宝玉の事を思い出す。
 思い出したからって何をするわけでもなかったが、アカネとカイトの視線に一番最初に気が付いたのはゴーリキーだった。
 大きな体を揺らしながら、アカネとカイトを見下ろしたゴーリキーはにこやかに声をかけてくる。
「おまえたち、チームクロッカスだろ?」
「え?あ、そうだけれど……」
「やっぱりな。クロッカスが参加するかもしれねぇってナゴが言ってたから。
 俺はプロジェクトP・フロンティアのリーダー・グールだ。困ったことがあったら言ってくれよ。
 なぁ、ナゴ、ベック」
 クチートが「ナゴだよ〜〜」と可愛らしく手を振りながらこちらを見ている。落ち着いた様子でにっこりと微笑み、キノガッサが同じく手を振ってくる。
 どうやら、この企画を先導しているポケモン達のようである。よろしく、と言うようにアカネとカイトは頭を下げた。
 じろじろと見たことを申し訳ないと思いつつ、アカネとカイトは落ち着いてきたところでミーナの元へ向かった。非常に標高が高い山だ、ということは事前に知っていた為、バッグの中にもそれなりに道具が入っていた。
「準備は整いましたか?」
 むすっとした顔でミーナは問うと、「じゃあ、行きましょう」と言って、アカネとカイトを導くかのように先陣を切って歩き始めた。
 確かに、慣れた様子ではないな、と思いながら二匹はミーナの後ろをついて歩いた。 

 先に空の頂を目指したポケモン達はどこへ行ったのか。アカネとカイトはミーナの後ろを歩きながら周囲を見渡した。襲ってくるポケモンが少ないことに驚くが、それは決してこのダンジョンのポケモンが穏やかな気性だからだというわけではないのだという。
 ミーナは歩きながら淡々と話をした。
 『空の頂』一合目から出発地点に近ければ近い程、シェイミとこの周囲にいるポケモン達は密接に結びついているらしい。ダンジョンのポケモンといえど、シェイミと一緒に連れ歩いている限り大した事では敵とみなさない。皆知らぬ存ぜぬな姿勢でこの先へ進んで行くことを許してくれる。
 頂へ昇る過程に存在するポケモン達との関係性は、大昔から祖先たちが築いてきた遺産なのだという。声をかけてくる者もいないが、皆道を切り開いてくれるのだ。
「今は安心して歩いていられますが、頂上に近くなればなるほどそのような配慮をするポケモンは減ってきます。出来る限りポケモンが少ない道を進みますが、必ず遭遇はするでしょう」
「構わないわ。よろしくね」
 ミーナは感情の起伏の乗らない声で「はい」とだけ答えた。そんな彼女が、出会った時のアカネとそっくりでついつい重ねてしまう。現在のアカネは、ミーナの様子をまるで小さな子供を見る様な、仕方がないような目をして微かに微笑みを浮かべているものの、過去の彼女もそうだったのだとつい揶揄いたくなってしまう。
 そんな時、むすっとした顔で拗ねるのか、忘れたような様子で首を傾げるのか分からない。
 そんな風にアカネのことを思い返すと愛おしくて仕方がない。

「そろそろ一合目に到着です」
 襲い掛かってくるポケモンがいないとこんなにもペースが速いのだろうか。アカネとカイトは拍子抜けしたように広場を見渡した。一合目までの不思議のダンジョンを抜けた所には、三匹よりも先に出発したであろうポケモン達が休憩をしていた。休憩するほどのペースでもないのでは……とアカネは思ったが、カイトはそんな彼女の頭をポンポンと叩いた。バッグに手を突っ込みオレンの実を取り出すと、パカリと二つに割ってアカネに手渡した。
「登山って感じでいいよね、こういうの」
「まぁ、たしかに……ホントに休暇で来てるって感じよね」
 休暇で来ているのに結局ダンジョンかぁ、と二匹で苦笑いしていると、そんな二匹の様子を見て「チッ」と軽く舌打ちをする者がいた。
 カイトは様子をうかがうように顔を上げ、アカネはキッとその方向を睨みつけた。ガルーラ像に寄りかかり、たった一匹で登山をしているのであろうニューラがアカネとカイトを見て鬱陶しそうに軽く睨んでいた。全くといっていいほど見覚えのないポケモンだったが、探検バッグを持っている限りどう見てもダンジョンのポケモンという訳でもなさそうだ。
「チッ……」
 当てつけのようにもう一度舌打ちをして、ニューラはニヤリと笑うと二匹に近づいてくる。アカネとカイトは一瞬目を合わせると、軽く身構えるようにニューラに向き直った。
「チーム・クロッカスか。噂には聞いてたが、なんだ。全然戦ったような様子はないじゃねぇか。
 探検隊というからには、この頂上の伝説の秘宝が目当てなわけだ。お生憎様、宝は俺が全て頂く。妙なことは考えないでくれよ?」
「…………てか、あんた誰よ」
「ハァ?いいか、俺はな……」
「やめてください」
 ミーナがアカネとニューラの間にすっぽりと体を滑り込ませた。小さいながら鋭い目つきで睨んでくるミーナに、ニューラは一旦体を退ける。
「他の参加者の方に対して挑発的な態度をとるのであれば、あなたには参加を辞退していただきます。どうしますか?」
「ッ……この野郎……」
「私に暴力を働けば、今後の参加権は無いと思ってください」
「…………チッ……」
 舌打ちをし、ニューラはドスドスと苛立った様子で足を地面に叩きつけながら二合への道を歩いて行った。
「ミーナ、ありがとう」
「悪かったわね、巻き込んで……」
「いいえ。仕事の一つです。あれしきで怯えていてはガイドは務まりませんから……では、行きましょうか」
 アカネとカイトがオレンの実を食べ終えたのを確認すると、ミーナはそう言って身を翻した。

■筆者メッセージ
作者「アカネの何が好きなの?」
カイト「え?作者アカネ好きじゃないの?」
作者「いんやぁ好きだけど……顔は確かに可愛いのかもしれないけど、性格がなんというか」
カイト「は?」
作者「え、あ、ごめんなさい……
   いや、性格が悪い訳やないねん……いい子やねん、けど他人に興味なさすぎん????」
カイト「そうでもないよ。他人に距離感を持つだけでちゃんと気にしてるよ。ねぇアカネ?」
作者「いたの!?」
アカネ「見て、バタフリーよ。そういえば最近見たアニメが面白かったんだけど、バタフリーみたいな人がいたわ」
作者「ねぇ、会話全部聞いてたはずなのに一つも興味無さそうなんだけど」
カイト「作者の発する音は一つも興味ないってこの前いってたよ」
作者「そっか〜〜〜〜〜〜〜〜音レベルか〜〜〜〜〜」
ミシャル ( 2020/02/06(木) 23:09 )