ポケモン不思議のダンジョン〜夜明けの世界〜








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第四章 シェイミの里
27話 シェイミの里復興企画
 アルストロメリアから帰省し数週間たった頃だった。この数週間、仕事は抑えつつ穏やかな探検隊生活を送っていた二匹は、はっきり言うと体が多少鈍っていた。簡単なダンジョンでの依頼を一日一、二件に抑えてサメハダの岩に帰り、各々好きな事をして過ごす。最近は専らアカネは読書をしているし、カイトは道具を磨いたり岩場の空洞内のメンテナンスに凝っていた。
 そろそろペースを戻そう、と思いつつもずるずるとそのような状態を引きずっていた二匹は、ある日パッチールの地下カフェを訪れる際、いつも地下入り口付近に刺さっている看板とは別に、もう一つ立札が新しく建てられていることに気付いた。様子を伺うと、顔見知りの探検隊達が皆その立札を見ては不思議そうな顔つきで地下カフェへと降りていく。がやがやと地上に居ても聞こえる程のポケモン達の声が響いていた。
「なんか様子が違うわね」
「えっと……『探検隊の皆様に嬉しいお知らせがあります!地下カフェにてお待ちください』って。時間帯は丁度今頃みたいだね」
「ふーん。嬉しいお知らせね……」
「シャロットやセオが大喜びで食いつきそうだね。ね、僕達も入ってみようよ」
 まぁいいけど、とぼやきながらアカネとカイトは慣れた感覚で地下カフェへの階段を下りた。予想通りがやがやとワクワクで心を躍らせる探検隊達で溢れている。その中にはチーム「かまいたち」や、先日のバリヤードも混ざっていた。
 そして、背の低い二匹は話を聞くために戦闘の方へと向かって行く。案の定、そこには予想通りのポケモン達が目を輝かせながら佇んでいた。
「何だろうね、チェスター」
「さぁ……っていうか、そもそも俺は探検隊じゃないんだけど……」
「面白そうな事だったら付き合ってね!」
「え?も、もちろん、えへへへへへ……」
「うげぇ」
 ロコンとルクシオ、そしてコリンクが空っぽの壇上を見つめながらそんな話をしていた。シャロットの言葉にデレデレとしてとろけた表情を見せるチェスターを、コリンクのセオはキモチワルイものを見る様な目で見ている。アカネとカイトは顔を見合わせ、その背中に近づくとトン、とアカネがシャロットの背中を叩いた。
「ひゃッ」
「あ、ごめん」
 驚いたシャロットが体を震わせ後ろを勢いよく振り向く。振り向いた拍子に彼女の長い尻尾が勢いよくチェスターの顔に叩きつけられ、パシンという小気味良い音が響いた。あうっ、と衝撃と共に痛がるような声が微かに聞こえる。
 暫くそのように駄弁っていると、このカフェのオーナーであるパッチールのエルフが壇上に登ってコホン、と咳ばらいを一つ零した。それを合図にして、カフェに集まったポケモン達は皆しんと静まり返る。
「えぇ〜〜、皆さん。お忙しい中お集まりいただき、本当にありがとうございます!
 本日、探検隊の皆様には嬉しいお知らせがあります!
 皆さんは、『空の頂』という山をご存知でしょうか」
「僕知ってるよ」
 セオが間髪入れず声を上げる。またあなたは……と言いたげな表情でシャロットは彼をじっとりと見つめたが、セオはプイと彼女から顔を背け、『空の頂』に関する知識を話し始める。
「ここから東の方角にある凄く高い山の事だよね。なんでもその高さは天へも届く程の高さ、だとか。
 だけど、険しい山脈に囲まれている所為で、『空の頂』に到達するまでのルートが開拓されてないんだ」
「は〜〜い。その通りです〜。お若いのに良くご存知ですねぇ」
 えっへん、と言いたげに胸を反らすセオにじっと冷たい視線を向け、はぁと大きくため息を漏らす。シャロットのそんな溜息は、幸運にもエルフの得意げな声にかき消された。相変わらずの二匹だ、とその背中を見ながら思いつつ、アカネとカイトは『空の頂』という初めて聞く場所に興味を持っていた。
 引き続き話を聞くところによると、今までポケモン達が未踏の地としていた『空の頂』が、この度エルフの参加している『プロジェクトP』によって空の頂への道が開拓されたという事だった。
 今まで誰も知らない、ミステリアスな山。それだけの要素でポケモン達は色めき立った。「更に!今回、この『空の頂』へのルート開拓に加え、プロジェクトには『シェイミの里』に協力を仰ぐこととなりました!」
「シェイミの里!?」
「あのシェイミの里か?」
 ポケモン達がさらに騒がしくなる。シェイミの里、というと確かにどこかで聞き覚えがあった。聞き覚えはあるのだが、直接的なかかわりを思い出すことは出来ず、アカネとカイトは首を傾げる。そこで、他のポケモン達と同様の反応を見せたのはシャロットたちの三匹だった。
「シェイミの里って……」
 シャロットが驚いた表情でつぶやく。再び、エルフの咳払いが響いた。
「皆さんもご存知の通り、『シェイミの里』は数年前に大きな事件が起こった場所であります。当時の被害については、皆さん紙面やそれぞれの連絡網で知っての通りでしょう。 『空の頂』へ通じるルートは、現在シェイミの里の外れにございます。残念なことに、シェイミの里についての情報はあの事件とセットで伝えられてきたことが大半だとは思いますが、本来シェイミたちは山の案内者だったのです。事件によって山道が崩されてしまい、今までどうにもままならなかったようですが、手前らとの共同企画により、この度復興したのでございます。
 皆さま、あの山は今まで殆ど誰も足を踏み入れておらず、殆ど探検もされておりません。もうしかすれば、新たな出会い。そして、お宝がざっくざく!!噂では、何にも代えがたいお宝が眠っているのだとか……!
 皆さま、夢とロマンを手前らと共に追い求めませんか!?」
 ドッと、それはそれはうるさいほどの沢山の歓声響き渡る。 
 エルフってこんなによくしゃべるんだなぁ、と今更にしてアカネ達は意外に思いつつも、少し困惑したような様子を見せるシャロットを心配する。チェスターは真っ先に変化に気が付いたのか、シャロットの顔の傍に鼻を寄せて「どうした?」と尋ねた。
 他のポケモン達はそれぞれエルフに詰め寄り、『シェイミの里』の所在地を尋ねていた。詳しくは、現地にいる『プロジェクトP』という団体にて説明があるらしい。アカネもカイトもそれなりに興味があったが、シャロットの様子がおかしいことが気になって、ひとまず彼女の傍で話を聞くことにした。
「シェイミの里って、前にあたしが隠れてたシェルターを襲ったポケモンが起こした事件だって聞きました……」
「……そういえば」
 『シェイミの里』という言葉には聞き覚えがある。『シェイミの里襲撃事件』……そんな言葉がふわりと頭の中に浮かんできた。シャロットにとってはショッキングな出来事を起こした犯人と同一のポケモンが起こした凄惨な事件だっただろうか。
 シャロットは、今でこそ小さく若いロコンではあるが、アカネが人間だった未来の世界では『星の調査団』のリーダーだったポケモンである。そんな彼女の身の上が関係しているのか、何度も『星の停止』を存続させようとしているポケモン達に命を狙われた経験がある。
 シャロットを匿っていたシェルターを襲撃し、大火事にした挙句その場にいた三匹のポケモンを重症にするという事件も同様だ。シャロットは『もらい火』という特性もあり難を逃れたが、彼女を敵から守ったコジョンドのノギクや、警備をしていたポケモン二匹は暴行を受け、その上大火傷を負っている。
 そんな事件を起こしたポケモンが関係した場所。流石の探検好きなシャロットも、あまり関わりを持ちたくはないのではないかと懸念した。別に、この場に居たポケモン全員が参加しなければならないわけでもない。思い出してしまうような出来事ではあるが、辞退すればいいだけの話なのだ。
 しかし、シャロットはぼんやりとした顔で呟いた。
「あたし、その場所のポケモン達が今どうしてるのか、気になるんです」
「大丈夫なの?」
「大丈夫です。もしあたしたちがそこに行くことで、少しでも復興の助けになるなら、行きたいです。
 それに、山登りも興味あるし」
 そう言ってシャロットは笑う。アカネとカイトは安心したように顔を見合わせた。チェスターも「そうか」と言いながらうんうんと頷いている。いまいち話を聞いているのかいないのか分からないセオはいつの間にか消えていて、エルフに『シェイミの里』の場所を地図に書き込んでもらっているところだった。
「アカネ、僕達も行こうか」
「そうね。丁度体も訛ってるところだったし、ガイドがいるっていうことは結構融通も利きそう」
 ギルドに所属していた時は、こんなに自由にどこに何をしに行くというのは決めることができなかった。ペリーに報告する必要もない。しかし思い返せば以前フラーに、暇なときはどこどこの海がどうのこうので行ってみてほしい、みたいな話を聞いた。山に行った後に海に行くのもなかなか贅沢ではなかろうか……などと思ってはいないが、そこそこに興味はある。
「じゃあ、僕達も場所を聞いてから行くよ。ちょっと今住んでるところを簡単に閉めていくから、少し遅れるけど」
「はい!じゃあ、あたしたちは先に行ってます。今から大丈夫?チェスター」
「俺はいつでもオッケーさ……!!」
 とんでもなく嬉しそうな、しかしどことなくキメた顔つきでシャロットの言葉に頷く。名前を呼ばれてさえいないセオはいつの間にか戻ってきていて、恨めしそうに(というか相変らずキモチワルイものをみるような顔つきで)そんな二匹を見つめていた。多分彼も山登りするのだろう。

 後で『シェイミの里』で会う約束をし、アカネとカイトはシャロット達と別れた。

ミシャル ( 2020/02/01(土) 17:35 )