モンスターボールを砂に埋めた
短編
ヘルガー
 僕が、一本の木を育て続けている理由について


 彼女が死んでしまった時のこと。

 彼女が死んでしまった時、どうして僕は一緒に死んでやることができないんだろうと、本当に後悔したのだ。

 はじめましてと言うべきでしょうか。僕の名前はケイといいます。今日は、僕が人里離れた森の奥で一本の木を育てている理由を、ゆっくりとではありますがお話ししていきたいと思っています。
 僕が住んでいるのは小さな街でした。街と言っても村と街との中間くらいの小規模の街です。けれど、沢山のポケモントレーナー達が訪れるジムもあって、なにも特徴の無い街とは言いません。ボクが通っている高校はそんな街のはずれにあって、街の同年代はだいたい僕と同じ高校に通っています。
 僕の高校では、一般教養と共にポケモンの専門知識も一緒に学ぶことが出来るコースがあります。だから、自分のパートナーを一匹のみ連れ込むことを許可されていました。連れていくことが出来るポケモンは高さ百六十センチを超えない程度の中型のポケモン。だから僕の高校のやつは皆、自分を強く見せたくて中型の自慢のポケモンを学校に連れてきていました。
 僕のパートナーは、普段から女々しい、男らしくないと周りからいじられるのに対して、とてもかっこよくて男らしいポケモンでした。といっても、『彼女』は女の子だったんですけれども。
 僕のパートナーは、黒くて美しい毛並みのヘルガーでした。彼女の顔はいつも険しくて、滅多におだやかな表情をすることはありませんでした。同級生からも、僕はよくいじられるのに対して、彼女が同級生たちの傍を通るたびにとても怖がられていました。
 でも、僕は知っています。小さいデルビルだった時の彼女は、目つきは悪いけどとても人懐っこくて、いつも笑うように口角を上げていました。よくお腹をだしてソファで眠って転がり落ちそうになっていたり、ご飯を食べるときに少し待たせると涎を垂らして本当に悲しそうな顔をするのです。
 彼女がヘルガーになってからはそんなことは無くなりました。特別気性の荒いポケモンでもなくて、ただただ静かに、いつのまにか傍に居て話を聞いてくれているような、不器用な優しさを持つポケモンでした。
 テストで低得点を取って落ち込んでいる僕の背中に鼻先を寄せて、体をそっと摺り寄せて慰めてくれたり、ボクが課題をやりながら眠ってしまった時には僕の体を揺すって起こしてくれたりする。
 姉のような、第二の母のような。そんなポケモンでした。
 でも何よりも、そんな彼女が本当に可愛くてかわいくて、仕方がなかったんです。
 僕が小さい頃からずっと育ててきた。ずっと育ててきた、娘のような物でもあったから。
 学校で、ポケモンはとても長生きする者もいるときいたことがありました。だから、僕よりもずっと後に生まれた彼女は、僕が丁度初老になる頃まで生きていて、最後は眠る様に空へ旅立っていく。ポケモンの一生の終わりは、普通の人間と同じでそんなものだとおもっていたし、そう思って疑いませんでした。
 どちらかというと僕の方が貧弱で、よく風邪を引いたりちょっとしたことで寝込んだりすることが多かったです。彼女は見た目が勇ましいだけじゃなくて、いつもポケモンバトルも強かったし、朝は僕よりも正確な時間に起きて僕を起こしに来る。当たり前の毎日で、彼女の食欲が、以前に比べて落ちているのに気付くのが遅くなってしまいました。本当はいつからそうだったのか、僕にも未だに分からないんです。
 僕が朝ごはんを食べ終わっている頃には、いつも彼女は先に食べ終わって僕の部屋で学校に行くのを待っていました。ある日の事、僕が朝ごはんを食べて顔を洗って、自分の部屋へ向かうと、まだ彼女の皿にはポケモンフーズと数個の木の実が残っていることに気付きました。だけど、彼女がお皿の前を離れたわけではなく、まだ食べている最中だったので、今日はあまりがっつくような気分でもないのかな、と思って暫く待っていました。
 そして、それが三日続きました。そして四日目には、ついに最後までご飯を食べなくなりました。それどころか、いつも行儀の良い彼女が、固い木の実やフーズをまき散らすようにして食べていたんです。口の中に入れるのが深いなのか、顔を少し振りながら食べているように見えました。四日、五日、六日とそれが続いて、ついに殆どご飯を食べなくなりました。
 僕は本当に不味いと思い、ポケモンセンターへと彼女を連れて行きました。だけど、僕の街にあるポケモンセンターはまだあまり精密な機械が導入されておらず、体内を見る為の機械で体の中を見て見ても、なんだかぼんやりとしていて良く分からなかったのです。
 ジョーイさんだけが悪いわけではないのはよくわかっています。僕も気が付くのが遅くなってしまったし、その時は風邪だろう、程度にしか思っていなかったのです。彼女を本当に大切に思っていたら、こんなことにはならなかったのではないか。僕は、本当に彼女の事を大切に思っていたのか。僕は今でも、ずっとこんなことを思っています。
 ジョーイさんのところに通い始めて三日目。殆ど食べなくなってしまった彼女は栄養剤を打ってもらってなんとか過ごしていました。ただ、触った時の感触は何となく骨ばっていて、いつものしなやかな彼女の毛並みは心なしか艶を失くしていました。ああ、痩せてしまったんだ。僕はその時、初めて事の重大さに気付いた気分でした。
 イライラさせてしまうかもしれません。僕だって、他所からみていればさっさと病院に連れて行けばいいのに、などと悪態ついたかもしれません。けれど、けれど。本当にそれが起こった時、僕は決断を引き延ばしてしまいました。
 三日目にポケモンセンターを訪れた時、ジョーイさんは今までの彼女のカルテを見て、静かな声で言いました。
「……隣町の病院に行ってください。そこで、精密検査を受けましょう」
「え?」
「あくまで、これは可能性ですが……この陰。体の中のこの部分に、泥が溜まっています。この泥は体内の油分で、それが凝固してこの場所にたまっているんです。
 この子は、癌の可能性があります」
「……ガン……て……」
 息が止まるかと思いました。だって、癌ですよ。ポケモンの癌なんて、そんなのテレビくらいでしかみたことがありません。ポケモンの癌は、それくらい珍しいんです。それに、体内写真を撮った時、腫瘍のような固まりなんて見られなかった。人間の癌なら分かります。でも、ポケモンの癌なんて。
「で、でも、もし良性だったら、摘出すれば治りますよね……?悪性でも、もしかしたら……」
「詳しく検査してみないと、分かりません。私がこの街で仕事をし始めて、ポケモンの癌なんて今まで見たことがありませんでした。
 でも……残念ながら、ポケモンの癌は発生率は低いですが、それぞれの部位に高確率で起こるんです。
 ……リンパに張りが見られます」
「……リンパ腫……?」
 リンパ腫に、良性も悪性も無いじゃないか。
 僕はあの時、本当の意味で絶望を知りました。だってポケモンの癌は、人間と違ってまだ症例が少なくて、抗がん剤なんかも殆ど開発されていなかったんです。
 効果があるとされていた薬は二種類。とある植物から採取した薬品と、キノコから抽出した進行を遅らせる薬。しかし、癌は成長する病だ。一度効果がなくなってしまえば終わり。
 僕はまだそのことを知らなくて、人間みたいに上手くやれば完全寛解することが出来ると思っていたんです。ジョーイさんも癌についてはわからないことが多いらしく、とにかく専門にしているジョーイに相談する必要があるとのことでした。すぐにジョーイさんは紹介状を書いて連絡をとってくれました。そして、車を手配して僕たちを隣町の病院まで運んでくれたんです。
 今思えば、診断が遅れてしまった事への罪悪感があったのかもしれません。定期健診にいったときには、聞いていないことでも少し何かあるとすぐに話をしてくれる世話焼きな人だったから。
 僕たちはすぐに隣町の病院へ向かいました。僕は親を呼んで、『もしもの時』の為に今までためてきたお年玉を全額銀行から下ろしました。ポケモンの癌の治療は、大した効果が見込めないにも関わらず大金が必要だというのです。
 でも、確定診断がでたわけではありません。まだ、ジョーイさんは可能性としか言っていませんでした。だから、もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。本当は彼女は癌なんかではなくて、他のどうとでも出来る病気なのかもしれない。だって、ポケモンの癌です。ポケモンの癌なんて本当に珍しくて、それこそテレビで仰天するニュースとしてとりあげられるくらい。注目はされても、滅多にないものなんです。
 これで本当に癌だったら。しかも、どうしようもないリンパ腫だったら。
 世界はなんて無慈悲なんだろうと思っていました。

 そして、確定診断が出されました。
 世界は無慈悲でした。彼女は悪性のリンパ腫。しかも、かなりステージが進んでいました。ポケモンの癌は、早期発見したところで抑えることが難しく、それを遅らせることはできてもどんどん進行していくのです。
 早期発見できていれば。そんな考えは愚かでした。だけど、僕はそう思わずにはいられなかった。もうステージがそんなに進んでいるなら。一週間もたたないうちになにも食べられなくなってしまうのなら。彼女の命は、いったいあとどれだけのものなのでしょうか。
 隣町のジョーイさんは、彼女の姿をとても悲しそうな目で見つめていました。彼女の命があと何日、何週間だのと言う事はありませんでした。
 ただ、僕の耳に残っている決定的な一言があります。
「抗がん剤治療に入る前に、癌の型の検査をさせてください。少し貧血も出ているので、一時的にお預かりして輸血をします。
 延命を見込める可能性は勿論あります。
 ただ、ご存知の通りポケモンの癌はまだ研究途中です。効果のある薬も殆どありません。これから、内臓機能や白血球や赤血球、その他様々な体内の機能が低下することが見込まれます。それらを補う薬をお出ししますので、必ず指定する時間に呑ませてください。……ヘルガーという種族です。無理やり飲ませると、大暴れして非常に危険な場合もあります。興奮し始めたら必ず鎮静剤を投与して、それから服用させてください」

「そして、今から更に厳しいことを言います。
 この治療がどう進んだとしても……『限りなく近い将来』その日は、必ず訪れます。
 少しずつでいいです。ただ、一日一日をできるだけ穏やかに……幸せに。過ごさせてあげてくださいね」

 僕の母は真剣な面持ちでそれを聞いていました。僕はただ、腕を後ろに組んで、そして顔をずっと上に向けていました。不自然に見えていただろうけれど、不自然に見えないように少し顔を振ったり、ふらりと後ろを向いてみたり、不審な行動ばかり。
 だけど、そうしないと涙が頬を伝ってしまいそうだったんです。唇を噛みしめないように、僕は喉の奥の方で息を止めていました。
 
『限りなく近い将来』だって。

 それは一体いつのことなのか。一か月後か、二か月後か。それとも、明日かもしれない。
 ジョーイさんが言ったその言葉は、僕の心に今でも強くこびりついていて離れない。
 『限りなく近い将来』に訪れる、彼女との別れの話。

彼女は懸命に生きていたと思います。自分の身に何が起こっているのか、伝えてもいないのに知っているような感じだったんです。彼女は薬を飲むとき、むせてつい火の粉を吹いてしまうことはあっても、絶対に大暴れなんてしませんでした。だから、僕がジョーイさんにもらった鎮静剤は、出る幕がありませんでした。
 僕の母。僕の姉。僕の妹で、僕の友達。僕の娘。
 僕の最愛のパートナー。
 僕は彼女の事をどう表現すればいいか分かりません。ただ、唯一無二の存在であったことは間違いないと思います。彼女にとって、僕はどんな存在だったんでしょうか。こんな弱虫で女々しくて情けなくて、我が儘で要領の悪い僕は、彼女にとってどんな存在だったんでしょうか。
 しばらくは平穏でした。抗がん剤が少し効いて、少しご飯を食べるようになってくれました。だけれどまたご飯を食べなくなって、ジョーイさんの所にいって次の手を考えて、そしてまたご飯を食べるようになって、食べなくなって。
 数回そんなことを繰り返しているうちに、僕達が出来ることは完全に尽きてしまいました。あとできることは、彼女を家でゆっくり過ごさせてあげることです。
 彼女の呼吸は早くて、苦しそうで。鼻に何かできものができてしまったのか、上手く通ってない様子でした。胸も上下していて、彼女の体は体内のエネルギーを上手く発散することが出来ず、常に高熱でした。
 鼻から呼吸がもっと楽にできるだけでも、もっともっと違うだろうに。なんでほとんどのポケモンは口呼吸をすることが出来ないんだろうと思いました。人間はすることができるのに、ヒト型のポケモンにはできる奴もいるのに。
 なんで、彼女はできないんだろう。
 悔しくて、そんな彼女を見る度に涙が止まりませんでした。
 そして、そんなときに鼻だけで呼吸をしようとすると、すごく苦しいことを僕は知りました。

 息だえる寸前の彼女を見つけたのは、平日の朝でした。朝起きて学校に行かなくてはいけないと思い起き上がった時、彼女は自分のベッドの上にはいませんでした。
 彼女の足は殆ど固まってしまい動かなくなっており、自力で立ち上がるのは最早困難なのに。
 僕は血の気が引く感じがして、勢いよく布団を跳ね飛ばすと彼女の姿を部屋に探しました。そして、案外彼女がすぐ傍にいることに気が付きました。
 ベッドのすぐ下。本当に、僕が足を下ろしたら踏んでしまいそうなくらいベッドの足に密着して、彼女は横たわって倒れていました。
 目は仄かに開いてはいますが、僕が起き上がって声をかけても一切こちらを見ようとしませんでした。名前を読んだらいつも動かしてくれる尻尾も動きませんでした。ただ、胸だけが上下して、鼻から微かな空気が流れる音がぴゅーぴゅーと響いています。
 
 あぁ。
 ついに、この日がきてしまった。

 僕は、その姿を見た瞬間に悟りました。ジョーイさんが言っていた『限りなく近い将来』が、今日だということを。
 ベッドを降りて彼女の傍に座り込む僕を、ドアの隙間から顔を出した母が呼びました。ご飯が出来たから呼びに来たようです。だけど、僕と彼女のその姿を見て、母も何かを悟ったような顔をしていました。
「学校行く?」
「…………今行ったら……」
 もう二度と会えない気がする。
 僕がそう言うと、母は何も言わずに僕の背中を撫でました。僕の顔を涙が伝って、母の目の下は特に濡れていませんでしたが、唇を噛みしめているのは分かりました。
 僕はその日、初めて風邪以外の理由で学校を休みました。学校の先生も友達も、彼女が病気だという事を薄々知っていたようです。学校に連絡するとき、先生の反応がまさにそんな感じでした。いつもぶっきらぼうで厳しい先生なのに、その時の先生の声はなんだか震えていました。
 
 その日、僕は彼女をリビングへ連れ出して、少し窓を開けて彼女に暖かい風を当てながら、ずっと彼女の体を撫で続けていました。
 母がその日どうしてもやらなければいけないことがあって、三十分程家を空けることになっていました。母が後ろ髪を引かれるような雰囲気で家を出ていくと、僕は彼女の目の前で正座をして、彼女の顔に手を滑らせました。

「本当に、ありがとう」
 涙が溢れ出します。
「ずっと、ずっと。ありがとう。いつも一緒に居てくれて、いつも迷惑かけて本当にごめん。
 おれ、今までありがとうって言った事なかった。おまえにきちんと伝えてあげたことなんて一度もなかった。だから、そんなおれと一緒にいて、おまえが幸せだったのかもわからない」
 彼女は呼吸をしている。胸は動いている。でも、耳は聞こえていない。目も見えていない。そんなことは分かっていました。でも、今伝えなければもう、形のある彼女には一生伝えることは出来ないと思いました。
「おれ、ほんとうにおまえには感謝することばかりだった。ほんとうに、ありがとう。おれ、おまえがいたから今までがんばってこれた。
 今はもうおおきくなっちゃったけど、ずっとずっとお前のことは可愛いし、どんなお前でも本当に大好きだ。痩せちゃっても、動かなくても。おまえのこと本当に大好きだ。
 おまえにあえて良かった」
 僕は、僕の事を本当は僕なんていいません。喋り方も、優しくはありません。内弁慶で、彼女に感謝をきちんと伝えた事なんて無かったかもしれません。
 でも、僕はその時、一番恥ずかしいと思っていた言葉を言う事を躊躇いませんでした。
「あいしてるよ」
 そう言った瞬間、彼女の体がピクリと反応するとか、そんな奇跡みたいなことは一切起きなくて、母が帰って来た直後、彼女の呼吸は突然とぎれとぎれになり、そして完全に止まりました。
 僕はもう色々伝えた後で、母が彼女に感謝を伝えている間、俺は彼女の体を撫で続けていました。
「もう頑張らなくていい」
 よく頑張った、と。僕が最後に彼女に伝えた言葉は、その一言でした。
「もう頑張らなくてもいい。本当に……よくがんばった。
 よくがんばったな、リンカ」
 リンカ。
 デルビルだった頃、花が好きな母が付けた名前です。
 

 
 どうして、この話が『僕が森の奥で木を育てている理由』に繋がるのかって?
 彼女は火葬できませんでした。何故なら、火に強い体を持っていたからです。
 だから、彼女を森の奥の開けた場所へ埋めました。埋めて、毎日のように墓参りに行きました。
 毎日のように墓参りに行って、そしてある日『それ』と出会いました。

 小さな苗木。
 
 あまりにも小さくて、踏んだら簡単に土と同化して見えなくなってしまいそうなくらい小さな苗木が、彼女の体を埋めたその場所からひょっこりと顔を出していました。
 その木が彼女だとは思いませんでした。ただ、どうしても気になってしまって、毎日その場所に行って、その度にその木に水をやるようになりました。すくすくと成長して、直に僕の背を追い越して、沢山枝分かれをして、はっきりと『木』と言える形に変わっていきました。
 二年したころ、僕の体の倍になったその木は蕾がなって、一体どんな花が咲くんだろうと思いました。その森の木は、大体花をつけるとするならば白くて細かな花をつけるのです。多分、この木もそうなんだろうな、と漠然と考えていました。
 だけど、それは違いました。

 リンカ

 その木は、まるで炎のように美しい橙色と赤色のグラデーションのかかった大きな花を隅々につけていました。気が揺れる度に、クルクルと回る様に風に乗って花が落ちてくる。この木はいったい何という種類の木なのだろうか。僕には正直、どうでもよかったんです。

「リンカ」

 彼女の名前を呼んでも、木は返事をしません。けれど、僕には何故か確信がありました。
 リンカの体はどこにもなくても。間違いなく、この花はリンカがこの世界に残したものです。
 生まれ変わりだとは思いません。病気で動くことが出来なくなってしまった彼女にはまた、元気に動き回って、幸せでいてほしいから。 

 あれから五年になります。
 僕は新しいパートナーと共に、一週間の間にここにきては、彼女の体の上に芽生えた大きな赤い花の木を眺めに来ます。今は枯れ葉になってしまっていますが、また大きな花を咲かせる季節が訪れると思います。
 美しく大きな花をつける木。誰も名前を知らない木。
 その木の名前を知っているのは、僕と僕のパートナーと、そして今話をしているあなただけなのです。
 長い話になってしまいました。自分語りに付き合っていただき、どうもありがとうございました。
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■筆者メッセージ
設定や結末省き、三分の一は実話です。
後悔は募りますが、少しずつ心の中を整理できるようになってきました。
ミシャル ( 2019/06/16(日) 21:06 )