ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜 - 七章 いざ、遠征へ
遠征メンバー発表‐96
* * *

「……えー、それでは……これより、親方様により決定された遠征メンバーの発表を行う。 では、親方様。メモを」
 ペリーは、自分の後ろでルンルンしているパトラスから遠征メンバーに選ばれた者の名前が書きこまれているメモを受け取る。ペリーは一目見て、思わず顔をしかめた。非常に字が汚い。ギリギリ読める程度の字だ。口に出すと後が怖いので、ペリーは何も気にしていないように振る舞いながら、発表へと事を運ぼう、と考えた。
 メンバーたちには緊張感が走る。唯一達観していたのは、後ろでニヤニヤしながら佇んでいるドクローズくらいのものだった。
「……ここに、遠征へ行くメンバーが記されている。名前を呼ばれた者は、直ちに前へ出るように」
「……うぅ、いよいよですわね……」
「……くぅ……あっし……心臓が破裂しそうでゲス……」
「――――それでは、発表するぞ。
 まず……ゴルディ!」
「うぉぉぉぉおおぉおぉぉぉぉぉ!!!」
 ゴルディは緊張感が解けたと同時に、歓喜のあまりその場で絶叫した。耳を塞げるものは塞ぎ、そのほかのメンバーたちはクラクラとしている。ドクローズは聞きなれない轟音に驚き、せっかくの空気を台無しにするんじゃないですわ!!と、フラーは内心毒づいていた。
「ま、まぁ……ワシ選ばれるのは当然と言えば当然だがな!がハハハハ!!」
 大笑いしながら前へとルンルンし、挙句の果てには以前矯正した筈の一人称を思い切り口に出していた。以前は『ワシ』という一人称だったが、フラーから「見た目以上に老けて見えますわ〜」と言われ、『俺』に矯正していたのだ。

(よく言う……) (よく言うでゲス……)
(内心は決して穏やかではなかったはずですわ……)
(……うっさ)(うるせぇ)
 フラー、グーテ、ベルにアカネ、そして後ろの方でムカついてるグロムと、同時に五匹……いや、実際もっと何か思ったポケモンはいたであろうが、少なくとも同時に五匹の心の中でゴルディは毒づかれていた。
 そんなことは気にすることなく、ゴルディが前へと出てきて自分の位置を確保したのを確認すると、ペリーは容赦なくメンバー発表をつづけた。再びその場に緊張が走るが、既に確定済みのゴルディはそんな様子はなく、どこかお気楽そうである。
「次!ヘクター!」
「へ、ヘイヘーーイ!!ヘェーイ!選ばれたぜェ!!」
 前へ移動しながら少し大袈裟にはしゃいでみるも、ホッとした表情を見せたヘクターに対する目は心なしか暖かかった。先ほどの空気はいったい何だったのか。と、ゴルディが初めて気にし始めるくらいには。
「そして……おっ?おおっ?……なんと……少し前まで一番の新人だったグーテ!」
 おぉ!という反射的な声がギルドメンバーの中から複数上がる。まさかこんなに早くからこいつの名前が出てくるとは、と、ギルドメンバーは驚きと称賛の目でグーテを見ていた。
「え、あ、あっしが……!?あっしが……遠征隊に!!?嘘じゃないでゲスよね!!?」
「いや、冗談抜きでだ。って……どうした?早くこっちにこい!」
「ウッ……そっちに行きたいのはやまやまなんでゲスが……感動のあまり足が……動かないでげすぅ……!」
 その様子を見ていたギルドメンバーの半分ほどが、『大丈夫かな、こいつ……』という意味を含んだ表情に早くも変化していた。ペリーはため息をつくと、仕方ないな、と、次の名前を呼ぶことにした。
「次!フラー、そしてベル!」
「え!?私たちも!?」
「キャーですわー!!」
 フラーとベルは歓喜の声を上げると、足早に前へ出て、先に選ばれていたゴルディ、ヘクターと並んだ。
「えー……以上で、遠征メンバーは……」
「……うぅ……」
 カイトもステファニーも、自分が呼ばれなかったためにすっかりしなってしまう。前に出ている、遠征隊に選ばれたメンバーたちは、その様子を見て同情心と罪悪感に駆られていた。フラーやベル、グーテは心の中で謝り、ヘクター、ゴルディはお土産をごっそり持って帰ってやろう……と、同じことを考えていた。

(…………ククッ。あいつらは駄目だったようだな。やはり俺の圧勝だ、アカネ!)
 ざまぁみろ、と、ドクローズ達は選ばれることが無かったクロッカスやブレイヴを嘲笑する。
 しかし、勝手にグロムに圧勝宣言されていた当のアカネはと言えば、このメンバー構成にどこか違和感を覚えていた。

(……目的は未開の地の探索な筈……こんな数匹で、不可能ではないけれど、かなりの時間を有することになるし……多すぎるのもよくないかもしれないけれど、それ以上に少なすぎる気がする……能力に偏りも……。いや、これは逃げ、か。)
 アカネは自分なりに考えを巡らせていたが、これは選ばれなかったがための現実逃避のようなものかもしれないと自覚し、すぐに考えるのをやめる。しかし、内心まだモヤモヤとしていた。すでに視線を落とし気味のカイトをちらりと盗み見してしまい、更に心に何かがつっかえた。
 後ろではきっとドクローズが嘲笑しているだろう……そう思うと、非常に腹ただしい、というわけではないが、やるせないような、そんな気持ちで包まれた。
「……遠征メンバーは……えーと……あれ?」
 取り残されたメンバーたちの気持ちがどんどんと沈んでいく中で、ペリーはパトラスが書いたメモを見ながら困り果てていた。隅っこの方に、つぶれた字で何かつらつらと書いてあるのを見つけたからだ。種族柄、目はいいはずなのだが、常識を逸した字の汚さというよりか、もはや読ませる気もないであろうパトラスの書いた文字に困惑するばかりだった。何とかぐっと顔を近づけ、解読を試みる。親方様は字がほんとに汚いんだから……と、内心は非常に毒づいていた。それを口に出すと後々酷いことになるため、彼はたった一匹で頑張っていた。
「……えーと……まだ続きがある。うん。
 ……ト……トラン♪ アドレー♪ クレーク♪ リオン♪ ステファニー♪えー……。
 アカネ♪ カイト♪……以上……って、ん?え?
 ちょ、ちょちょ、親方様!こ、これってもしかして……てかもしかしなくても!ギルドのメンバー全員じゃないですか!?」
「え?そうだよ?」
 パトラスはペリーに対して『何言ってんの?』如く明るく、だがかすかに不思議そうな顔をして答えた。ペリーはもう訳が分からず、終いには、自分はなんのために一生懸命解読をしていたのか……と、自分の行動と内心を虚しく感じていた。
「それじゃメンバーを選んで私がそれを読み上げた意味が……!
 だ、大体、そんなことしたら、ギルドに誰もいなくなっちゃうじゃないですかぁ!?留守番する者がいなくて大丈夫なんですかァ!?」
「だいじょぶだいじょぶ♪ちゃんと戸締りしてくから♪」
 ペリーが半ばあきらめかけていたところで、新たに声を上げたポケモンがもう一匹いた。
「親方様……私も心配です。遠征に行くには、少しメンバーが多すぎるのではないでしょうか?
 行く先は未開の地だという話ですが、そうなるとまったく予期していない状況に出くわすことも在りうると思います。全てのメンバーに意識を向けることができず、指示が浸透しにくくなってしまうのではないかと」
 言うことの筋は通っている……。そんな発言をしたのは、ほかでもなくドクローズのグロムだった。できることなら、クロッカスはここで落としておきたい。そういう下心もありつつも、遠征へ参加している“一匹のポケモン”の視点としてもこの状況のマイナス面を考えた。自分が思っていた以上に芸達者で、グロムは密かに驚いていた。
「そもそも、何故全員で行くのです?皆で行く意味なんか……あるのですか?」
「えー!?意味はあるよ!?
 だってー、全員で行った方が楽しいでしょ!?」
 その回答に、思わずグロムは『ひぇっ!?』という小さな叫び声を上げた。何を言っているのだ、こいつは!!思わずそんな憤りのようなものが溢れるが、内心と相反し体は動かなかった。
「皆でワイワイ行くんだよ!?そう考えたらさ、僕、ワクワクして夜も寝られなかったよ♪ 
 というわけでみんな、これから楽しい遠征だよ♪頑張ろうね!!」

 おおぉーー!と、活気のある掛け声がギルド内に響き渡った。思わぬ形で自分たちのリーダーが論破されたのをみたクモロとエターは困惑し、グロムも尻すぼみしたような状態になっており、完全にこの活気のあるギルドメンバー、もとい、遠征メンバーたちの空気から放り出されていた。



■筆者メッセージ
作者「私がなりたいポケモンはピカチュウだ!!体から電気を放出してみたい」
アカネ「……あっそ」
作者「でも空も飛びたい!何度タ●コプターが夢に現れたことか……」
カイト「なら絞られてくるかな」
アカネ「サンダーは作者にしては神々しすぎる」
カイト「そうだね。エモンガとかは?」
作者「エモンガー!!エモンガがいいー!」
アカネ「後のシリーズで別のが役張ってるわよ」
カイト「あの勇敢なエモンガに作者を被せるのは失礼だね」
作者「じゃあ何ならいいん?」
アカネ「ボルトロスは電気飛行」
カイト「いたね」
作者「待って待ってかっこいいけどキュートじゃない」
アカネ「キャラ的にあってるわよ」
カイト「作者の来世はボルトロスだ。決定」
作者「ボルトロスさんに失礼だ!私にも!」
カイト「日頃の行為が悪い」
作者「それはわかる」
※ボルトロスさんに罪はない
ミシャル ( 2016/01/14(木) 22:09 )