ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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七章 いざ、遠征へ
ツノ山‐101
 * * *

「……良い朝、かな」
 カイトはアカネにいつも通り起こされ、テントの目の前で大きく背伸びをしていた。ゴルディの怒号でたたき起こされたわけではない。静かな場所で静かに目覚めを迎えたのだ。
 アカネは先ほどまで自分とカイトで眠っていたテントから荷物をすべて出し、既にテントの回収を始めていた。朝食は普段でも食べることは少ない。そのため、眠気覚ましに少しカゴの実を齧ったりして腹ごしらえをする。さすがに疲れていたのかグーテは爆睡であったため、少々手荒ではあるがアカネは彼に電流を流して叩き起こした。すでに先輩後輩関係はどこへやら、である。
「静かな朝でゲスねぇ……」
 体の痺れをクラボの実で取りながら、グーテは朝の日差しに当たりながらぽつりぽつりとつぶやく。彼にとってそれは、とてものんびりとした朝であった。しかしながら、アカネやカイトはのんびりするつもりはあまり無いようで、二匹でさっさと荷物を片付け始める。そんな様子をみたグーテは『もう少しゆっくりしてもいいのに……向上心にあふれてるでゲスねぇ……』と、呑気に見つめているのであった。

「さてと……じゃあ、そろそろ出発しよっか!」
 荷物をきっちりまとめ上げると、カイトは自分のバッグを肩にかけて意気揚々とそう言った。爽やかな彼の笑顔はまぶしく、グーテは眠そうな眼を更に細めた。
 アカネはモモンの実を片手に床に広げた地図を確認する。この先にあるダンジョンは『ツノ山』という名称のダンジョンだった。名前から連想するに、なんだか岩タイプが多そうだとアカネは推測する。昨日のように比較的スムーズには行かないだろうと思い、無意識に眉間に皺を寄せ、ごくりと口に含んでいる分のモモンを飲み込む。
「……この山を越えてすぐのところにベースキャンプがある。ただ、距離を見るとちょっと深いダンジョンかもしれないわね」
「そうでゲスか……うぅ、でも、頑張るでゲスよー!」
「……てか、また道が二つに分かれてるね。とりあえずさっきと同じで大きい方に進もう。ちゃんと出られたしね」
「……そうね」
 二つに分かれた『ツノ山』への入口。どちらに入るかと話した結果、最初のように大きい方に入るということになった。
 ツノ山はゴツゴツした岩があったり、ポケモンが住み着きそうな草木がところどころに生えている。基本的に虫タイプのポケモンが多いらしく、ここではカイトが比較的有利だった。飛行タイプのポケモンも何匹か生息しているようで、必然的にそちらはアカネが相手をするということになる。
 グーテも躊躇ない『頭突き』や『転がる』を繰り出し、それなりにダンジョン突破に貢献していた。アカネが自身の特性である『静電気』で麻痺させた相手をグーテは徹底的に攻撃する。アカネの持つ電気タイプの能力は非常に有能であると改めてグーテは認識した。
 敵の相手をしつつ、階段を見つければ敵の隙を見つけて階段に三匹で飛び込む。時には一斉攻撃で敵を蹴散らすという方法で順調に奥に進んでいった。
 
「……ちょっと多いな……」
 階段から出た途端に複数の敵に囲まれる。あまり珍しいことではないが、大抵いつも面倒な状況になる。動ける範囲や逃げ道が限られているからである。最初は自分が動かない限り敵も動こうとはしないが、それは単独の敵だということがほとんどである。複数味方がいれば、その分敵意は増長し行動しやすくなる。そのため、先に一歩を踏み出したのは敵の方だった。
「アカネ!」
「わかってる」
 プテラが大きく翼を広げてカイトにつかみかかった。すぐさまカイトは身を引き、アカネが滑り込むことのできるスペースを作り出す。相手は岩を持っているが飛行も持っている。電気技が効かないことは決して無いだろう。
 アカネが頬袋に意識を集中させ、一気に体に力を入れる。狙いを定めて電気ショックを撃ち込むと、敵、もとい『獲物』に飛び掛かる要領で覆いかぶさろうとしてきたプテラの体を直撃した。プテラは痙攣したように体を震わせる。羽の動きが止まり地に落ちる瞬間に、隙ありとばかりにカイトが火の粉をプテラに向かって繰り出した。
 グーテの方には二匹のポケモンが行っており、グーテは苦戦する。彼には遠距離で使える技がほぼ無いからである。
 体を丸めて力むと、そのまま二匹のキノココのうちの一匹に突撃していく。しかし、スピードが足りずにあっさりとよけられてしまう。
 さらに避けられたことでゴツゴツとした岩の壁に激突し、自身がダメージを負ってしまった。攻撃を当てることができなかったことに焦り、再び『転がる』を繰り出そうとするグーテに対し、キノココは『痺れ粉』を発生させ彼の体に吹きかけた。
「しっしまっ……」
 じわじわと体が動かなくなっていく。追い打ちをかけるように『毒の粉』までも発生させようとするキノココに対し、グーテは恐怖心を抱いた。キノココから体当たりをされようとも体がしびれて抵抗することが出来ない。せめて、とバッグに手を伸ばしてクラボの実を取ろうと努力するも、指先がぴくぴくと動いただけで、実際体が動いているという感覚すら無いように感じられる。
(このままじゃやばいでゲス……体が持たない……)
 自分の武器である前歯で『体当たり』を仕掛けてくるキノココに噛みつこうとするが、顎を動かすタイミングが麻痺による感覚のズレのせいで全く合わない。毒の所為で体がだるく、息がしづらい。
 彼は心から願った。助けてくれ、と。
「グーテ!」
後方から火の粉が飛んでくるとともに、グーテは『助かった』と確信する。残りの敵をアカネに任せ、彼は颯爽と目の前に現れる。『毒の粉』の効果がまだその場所には微かに残っているが、カイトは気にせず大きく口を開けて『火の粉』をキノココ達に吹き付けた。苦手なタイプの技がいきなり降りかかってきて困惑しているキノココ達の様子を気にすることなく、火の粉で攻めていく。キノココは炎に怯えて逃げ出そうとするが、カイトの『切り裂く』ばりの威力である『引っ掻く』によって仕留められた。
 キノココが戦闘不能になったことを確認すると、カイトはグーテの元へ駆け寄り状態を確かめる。オレン、クラボ、モモンと、それぞれ除隊回復の効果がある木の実を取り出すと、握りつぶすようにしてグーテの口の中に流し込んだ。
「……ぐ、ゴホッゲホォッ……ぅう……」
「大丈夫!?喋れるかい?」
「あ、ああ……なんとか、でゲス……。
 申し訳ないでゲス、足を引っ張ってしまって……ぅう……」
「大丈夫。グーテの無事が第一だ。全員揃って元気にベースキャンプに到着しなきゃね」
 心配そうな顔をしながらも笑顔を見せ、カイトは手をグーテの方に差し出した。情けないような、申し訳ないような。自責の念に晒されながらも、グーテは前足を伸ばしてカイトの手をつかむ。ゆっくりと立ち上がると、木の実の効果か体が楽になっていた。
「す、すまんでゲス……」
「こっち終わったわ。とにかく、先進むよ」
 カイトとグーテがアカネの声に反応しそちらに視線を向けると、ネイテイやアリアドス、先ほどグーテが戦ったポケモンと同種族のキノココなどが所々少し焦げたような形で目を回していた。おそらくカイトが倒したものもあるだろうが、それでもその光景はグーテにとってはどこか異様に見えた。
 更にダンジョンの先へと進んでいくと、ダンジョンがまだ浅かった段階では出てこなかったポケモンが出現するようになった。おそらく、能力が高くて力のあるポケモンたちが密集しているのだろう、と考えられた。プテラの出現数が非常に多いのに対し、先ほど浅い段階で戦ったプテラはクロッカスの倒した一匹のみだったため、本来の居場所はここであると思われる。
 アゲハントやモルフォンが侵入者を挑発するようにアカネたちの目の前でクルクルと飛び回る。アカネが電撃を繰り出そうと頬袋に意識を集中させようとしたとたんに、モルフォンと共に行動していたアゲハントがいきなりモルフォンから離れていく。アカネ、カイト、グーテ……その全員が「何だろう」、と思った瞬間に、体を何か細かなもので傷つけているような感覚に全員が襲われた。
 モルフォンの『銀色の風』だった。広範囲の技なので避けるのは難しく、また当たると結構なダメージとなる。早めに片付けなければ。と、アカネは技を正確に命中させるため、尻尾を地面にトントン、と軽く叩きつけた後、勢いよく尻尾を地面に叩きつけ、その反動を利用して空中へと跳ね上がる。
 空中でのわずかな時間で姿勢を整えると、頬袋に電気を集中させ、一気に体から解放した。
 すると、体から出ていく電気の感覚が『電気ショック』を使った時とはかなり違うことに気づいた。衝撃や音も『電気ショック』の数倍のように思える。そのいつもとは『違う』電撃に直撃したモルフォンは、一瞬で地に落ちた。地に落ちたモルフォンのその体は、いつも以上に焦げ、微かに煙を上げている。
「……っと……。なんかさっき……違った気がするんだけど」
 地面に着地したアカネは、フラフラしながらも先ほどの攻撃の際の違和感をカイトとグーテに零した。
「あ……うん。明らかに電気ショックより大きかったし強力だったから……あれだね。
 電気タイプの鉄板技、十万ボルト!」
 カイトはどこか嬉しそうに説明する。アカネは十万ボルトと聞いて「なるほど」と納得した。ポケモンの事、技に関しての知識はなんとなく彼女の中にあるのだ。つまり、彼女は今この場で『十万ボルト』を取得したということになる。
「電気技のレパートリー、増えたわよ?」
「……僕も頑張るよ。それなりに……」
「すごかったでゲス……あんな一瞬で……。
 あ、そうだ……アゲハント!」
 グーテはアゲハントもこの場にいたことに気づき、慌てて辺りを見回すが、アゲハントの姿はどこにもない。まさか仲間を呼びに行ったのでは?と、グーテの中で不安が過った。
「いないでゲスね……仲間を呼びに行ったかもしれないでゲス……」
「アゲハントは一応群れで生活するから、あり得るわね」
 グーテの漏らした不安に共感し、アカネは頷く。カイトはグーテに続いて辺りを見渡すが、本当にアゲハントの姿は見当たらなかった。
「グーテの言う通り、仲間を呼ばれたら厄介だね。この階はできるだけ早めに抜けようか」
 急ぎ足で階段を探すと、思いのほかすぐに見つかる。怪談付近であからさまな殺意を向けてくるマユルドを火の粉で一撃で倒すと、後ろを振り返りつつ階段へと足を踏み入れた。

 * * *

「頭突きィッ!!!」
 渾身の力を込めてキノココに頭突きを直撃させる。急所に入ったのか、キノココは唸り声を上げることもなく目を回して倒れた。目の前で二匹のキノココが目を回して倒れているのを見て、少し前、自分が窮地に陥ってしまった状況を少しは挽回できたような気がした。
 経験がとても大事だ、と。ペリーや親方であるパトラス、グーテの先輩たちも度々口にしている。それは決して嘘ではないと彼は思った。
「ふうぅ……キノココは体が柔らかめだから助かるでゲス」
「さっきと同じ状況なのにすごい違いね……」
「あっしも、同じことを二度はやりたくないでゲスからね……」
 苦笑いをしながら答えるが、彼自身はその通りだと思った。フルボッコにされたという経験があってこそ、今度は自分が一撃のダメージも食らうことなく相手を倒すことができたのだ、と思ったのである。
「そろそろつくころじゃないかな?」
「……そうね。大分奥に進んだと思う」
 階段を移動しながら話していると、ダンジョンの中で見える光とは違う種類の光が差した。
 彼らは、ツノ山を突破したのである。
 



■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

シャロット「作者にビシッとやってやりますコーナー再びです!」
作者「……再び友人から不満が届いたと?」
シャロット「イエス。作者の友人M子さんからです」
作者「またあいつか」
シャロット「作者へ。普段貴女は初対面の方の前ではとても猫被りですね。最近貴女の媚びまくった猫撫で声を聞くと蕁麻疹が出るようになりました。即座にやめてください」
作者「ダウトだコラ嘘つけ!」
シャロット「今までも何度か作者は猫なで声を出してますね!確かにゾワッとしますよね!わかる!」
作者「わかるの!?」
シャロット「作者の特殊能力かなぁ。猫撫で声を出すだけで他者に精神的肉体的ダメージを負わせる能力」
作者「M子ぜってぇ許さね(# ゚Д゚)」
シャロット「作者は猫撫で声のみでダンジョンを突破できるかもしれませんね!新たな可能性が浮上した所でバイバイ!またいつか!」
作者「滅びの唄扱いしないでもらえます?」




ミシャル ( 2016/01/19(火) 22:02 )