予期せぬ参加者‐97
* * *
「…………あのぉ……」
全員が遠征に対する思いを叫びながら喜び合っている中、階段の方からひょっこりとギルドメンバーたちを見ている一匹のポケモンがいた。
あまりにもメンバーたちの気持ちが合致しているように見えたために、そのポケモンは出てきていいものか悪いものか、と、数分前から同じ位置でずっと悩んでいたのだ。あわよくば誰かが自分に気づいてくれることを期待して待っていたのだが、そうもいかなかった。仕方なくといっては何だが、自分から声を上げることにしたのだ。
「……ん。シャロットじゃない?あれ」
「ほんと」
先ほどのジレンマとは一転、非常に機嫌が良くなったカイトは、そのポケモン……シャロットが発した小さな声に気が付いた。カイトの発言から伝染するように、周囲のポケモンたちはシャロットに注目していく。ペリーやパトラスも彼女の方へと目を向けた。
「あ!おはようございます……」
あまりの場違い感に少々おびえてしまい、シャロットはいつもよりも覇気がない。
「シャロットごめん、今日は……」
「あ、いや、それは違くて……。
あたし、毎朝開店したてのカフェでくつろぐのが日課なんですけれどもぉ……そこの店員のレイチェルさんが、ギルドの方から伝言って、すぐギルドに行けって言われましてですね……あ、あたし自身まったくもってワケワカランなわけですけれども……なんかこれから皆さん出かけるっぽい雰囲気で……早く気付いてもらいたいなー……なんて……」
シャロットはだんだんと別方向で不安になってくる。もしかしたらレイチェルは自分に冗談を言ったのではないか、と。いや、あたしは常連である。一応客である。そんなことをあんなに普段良いポケモンである彼女がする筈は……と思いつつ、やはり困っていた。何故自分はギルドに呼ばれたのか?中途半端にだが、一応自分が参加しているチーム、クロッカスの二匹に至っても自分の登場は予期していなかったらしい。
こんな時、元相棒のセオなら『騙されたんじゃないの?』と嫌味を言って早々に引き返すだろう。自分はそんな風になりたくない。だが、どうすればよいのか……。
「エート……困らせてしまって申し訳ない。
実は、ついさっき我がギルドで本日行われる『遠征』に、ここにいる全員で向かうことが決定したんだが……」
ペリーがこの状況を説明すると、シャロットは非常に驚いた顔で室内全員の面々を見渡した。
「そ、そうなんですか!?よかったじゃないですか!みなさん、すっきりした気持ちで遠征に行けますね!!ね、カイトさん、アカネさん!」
「ええ。……よかった」
「うん!ほんとよかったよ!」
シャロットの発言を聞き、メンバー全員が彼女に好印象を抱く。早朝の土下座もどき騒動を見ていたメンバーも中にはいたと思うが、そのイメージも少しは変わったであろう。
「……あー……実は今日、ちょっとそのことで彼女を呼んだのだ」
「へ?」
彼女、ことシャロットはきょとんとした顔をしてペリーを見つめた。メンバーも話の内容が気になるため、ペリーに注目する。そんなにガン見されると恥ずかしいんだが……と思いつつ、ペリーは本当にしたかった話を始めた。
「実は……提案があってな。以前会った……シャロット、だったか?クロッカスで良い成績を叩きだしている、という話を聞いた。
そこで、お前も助っ人として、遠征に参加してもらいたい……と、そういう提案が出たのだ」
「うえぇ!?そ、そんな大それた話っど、どなたが……?」
「そ、それは……その、タレこみ……というのかなぁ……いるのかもしれないしいないのかもしれな……」
「……答えになってないけど。わかんないの?」
シャロットの質問に、ペリーはしどろもどろながらも答えようと、というよりかはごまかそうとしていた。アカネはそんなペリーに苛立ったのか、彼の精神を逆なでし挑発する。止める必要はあまりないと判断したカイトは、不思議そうな顔をしながらペリーの方をじっと見ていた。
「なっ……私は情報屋だぞ!わからないことなどなっ……」
「僕だよ」
ペリーの後ろでニコニコしていたパトラスが、穏やかな口調で声を上げる。パトラスが自ら名乗り出たことから、ペリーはそれに便乗しようと考えた。
「僕が君を助っ人に推薦したんだよ、シャロット♪」
「……そういうことだ!親方様のお考えを私がペラペラしゃべるわけないだろう♪」
「ヘイ?ペラップなのに?」
「言葉の揚げ足をとるんじゃないよッ!!」
「ギルドの親方があたしを?ええ!?ちょ……とりあえず握手お願いします……」
「どうもどうも♪」
シャロットは『さっきまで地面につけてた足ですけどもごめんなさいありがとう』と言いながらもちゃっかり、そしてしっかりパトラスと握手をした。元々体が赤い為、わかりにくいが、顔を紅潮させると非常に嬉しそうな顔で笑っている。
「皆には速いうちから言うべきだったのかもしれないけど、ビックリしたでしょ?ねえ、シャロット。遠征に参加してくれないかな?」
「そりゃ、こちらからお願いします!あたしこの先の予定すっからかんなんで、ホント!いつでも大丈夫ですよ!」
それはいかがなものか……と、アカネ、カイトをはじめ、全員苦笑いするものの、以外にも異議を唱える者はおらず、そして当たり前と言えば当たり前かもしれないが、ドクローズを迎えた時よりも格段にメンバーたちの雰囲気は明るく、そして受け入れる体制であった。
それに気づいていながらも、グロムはククッ……と感情の読めない笑みをこぼす。クモロとエターはお互い目を合わせ、首を傾げた。
「あー……初めましてだけどよ!よろしくだぜ!ヘイヘイ!」
「キャーーーーラブファイトォッ!!ですわーー!」
フラーのみ意図の違う発言をしたのはさておき、それなりに彼女は受け入れられた。俄然機嫌の良いカイトは「よろしく!」とシャロットに手を振る。アカネも「よろしく」と柔らかに笑いながら言ったものの、彼女は再び違和感を抱く、が。自分が感じていることはここにいる全員も多少は感じているだろう。そこまで突き詰める程でもないかもしれない……と判断し、考えるのをやめた。
それでも、やはり不自然だし急すぎるのである。正直こんなにするりとシャロットがこの中に入っていけたのは幸運である。しかし、最初はここに来るよう指定された目的もシャロットは知らないようだったし、パトラス直々が話をするのであれば、現時点では何を探ろうにもどうにもならない。仕方がないことである。アカネはシャロットが加わるのが嫌なわけではなく、彼女の実力ならばそこそこ受け入れられる。ただ急すぎる、アンド理由が不透明なのが気になるだけなのだ。しかし、成績関係なく全員が参加できるということなのだから、変に突っ張る必要もない。
遠征隊がまた一匹増え、ギルドの中はお祭りムードであった。
しかし、『クズ共め……』と、毒づくドクローズ以外にもう一匹、微かに意味深な笑みを浮かべた者がいたことに、誰も気づくことはなかった。
“ある事実”を、知る者を除いては。