ドキッ!深夜の雑談会【壱】‐88
「カイト。なんか忘れ物でもしたか?」
「あ、ううん。大丈夫」
もやもや、とした何かが気持ちの中で渦巻いていた。が、たった一日のことだし、寂しいだけであって、特にこのイベント事態が嫌なわけでもなく、実際はワクワクと胸を躍らせていると思う。
女性陣に囲まれてアカネが自分たちの部屋に入っていくのを半ば見届ける。雄と雌、お互いの部屋に入ってはだめだ、と先ほどフラーから釘を刺されたところだった。
リオンはなんとなく察したような顔で部屋に入る寸前で僕のことを待っていた。本当にいい奴だなぁ、と思う。
「カイトは俺達の少し後に来たから、そんなに先輩たちと交流無いよな」
「うん。一番交流があるのがリオンとステファニーだよ」
リオンと肩を並べ、先輩たちが集っている部屋に向かった。部屋に入ると、中はかなり騒がしい。男だけなんだから、こんなもんだよな、と自分を納得させる。いつも以上にテンションがハイになっている先輩ばかりだった。ほぼ毎朝顔を合わせるゴルディ。彼とはかなり面識がある。
ヘイガニのヘクター。ヘイヘイ!が口癖の元気のある先輩だ、が。アカネはこの等のタイプは苦手らしい。グレッグルのクレーク。彼はよくギルドの片隅で不気味なツボをいじっている。なんでも、珍しい道具などを町のポケモンたちとトレードすることができる不思議なツボだというのだ。声を聴く限り、年齢は中年、それか少し手前位だろう。何事にも興味なさそうに横になって鼾を立てていた。ダグトリオのアドレー。彼の仕事は掲示板の貼り換えの筈だが、よくさぼっているのを見る。アドレーの息子、トランはよくできた子だと思う。まだ幼げなのにも関わらずにギルドの見張り番。彼の声には少し驚かされていた。ビッパのグーテ。彼はよく僕たちのことを気遣ってくれる。これからお世話になることは多いかもしれない、と思った。
そしてリオン。彼はギルド内の男性陣の中で一番親しいポケモンだ。初対面時、戦闘中彼とステファニーのチーム、ブレイヴに救われたことがきっかけだった。彼は打ち解けやすい性格だったため、現在進行形でもかなり助けられている。
ちなみにペリーとパトラスは不参加。彼らはイベントに参加しないらしい。
「とりあえず木の実とかかき集めてきたぜヘイヘイ!軽く切ってるから、これつつきながらなんか話したい!ヘイ!」
ヘクターはそう言うと、体の半分ほどある大きい鋏を振り回した。部屋の中央に藁が引かれていない部分があり、そこにはカットされた木の実が集められている。皆思い思いに手を伸ばし木の実を食べているが、本当は飛びついて犬食いしたい衝動があるに違いない。
「これで全員でゲスかね?じゃあ、明かりけしても大丈夫でゲスか?」
「え、ちょっと早いきがするけど……だって今日イベントでしょ?一応」
「トラン、一応徐々に眠気を誘わなければ、徹夜してしまう可能性があるからな」
「まぁ、明日も仕事だもんね」
木の実が置いてある場所とは少しずれたところに小さなランプを置いた。部屋の明かりをすべて消すと、そのランプのみが淡く光っていた。そのランプの明かりを囲むようにして皆寝そべる。クレークのみがすでに眠っていた。
「あんまり考えてなかったけど、何すればいいんだよ?」
ゴルディが寝そべりながらそう疑問を漏らすと、ヘクターがゲームを提案する。が、珍しく自分の意見を言ったグーテに却下された。
「ゲームもいいでゲスが……せっかく男性陣集まったんでゲスから、何かお互いのことを話してみたらどうでゲスかね?例えば、順番に一匹ずつ質問をして全員がそれに答えるとか。勿論質問した側のポケモンは最初に話すことになるでゲス。あまり無理な質問をしないようにするでゲス」
たしかに、と皆が頷く。僕はあまり乗り気ではなかったが、あまり深いところに行かずに軽くはぐらかすなりなんなりしようと考えていた。
「んじゃ、それでいいな。よし、じゃあまずこの俺、ゴルディから質問させてもらう!」
話題が定まり、輪が一層にぎやかになってきたのだった。
*
「……そして、そのポケモンは深い深い、どこまでも続く沼底に沈んで見えなくなった。
ポケモンの友人は困惑した。このことを大人に告げれば、立ち入ってはいけない場所に立ち入ったことを咎められる、沼に沈んだポケモンをどうして助けなかったのかと責められる……。
彼の頭の中には、とにかく責任を負わされたくない、という気持ちが渦巻いていた。彼は逃げた。その沼からできるだけ遠いところへ、遠いところへと。
自分は沼になんて行っていない、自分が怒られる筋合いなどない……そう思わせるために、できるだけ沼から離れようとした。
彼が沼に沈んだポケモンのことを大人に知らせることはなかった。もちろん、彼は二度と地上に姿を現すことなく、罪悪感で心がつぶれそうになっていた彼も、いつしかそのポケモンのことが頭の中から霞はじめていた……」
「き、キャァーーーーー!!!!聞いていられませんわ!!怖いぃぃぃ!!!」
「いやいや、これからよ。ここからどんでん返しが始まるのよ……キャー!!!」
ステファニーが語っていく『怪談』なるものを私、フラー、ベルで聞いていた。フラーはあまり得意でないのか早々に叫び声をあげる。ベルは大人の余裕……というよりかは、この中の誰よりも怪談たるものが好きならしい。この『怪談』も、ベルによって提案されたものだ。
ステファニーが読んできた本の中で怖さは『微弱』なものを選んだらしいが、その、なんだろう。その……。
「夜一匹で出歩くのが怖くなりそうですわ……!ア、アカネはどうですの?平気ですの?こういうの……」
「…………」
「あ、アカネ?」
ピタ、とフラーが手を私の背中に置いた。何かが這ったような感触がして、思わずびくりと体を震わせる。寒気がしただけであり、怖いというのは一ミリもない。
「アカネ……!まさか、怖いんですの!?」
「怖くないわよ、失礼ねッ……」
幽霊物は怖くない。別に幽霊じゃなくたって怖くないが、幽霊物は怖くない。
逆に、生きているにも関わらず頭がトチ狂った恐ろしいポケモンが出てくる話には神経が逆立っている感覚が確かにある。しかし、怖いわけではなく本能的なものでそうなっているに違いない。怖いわけではない。……と思う。
なので、お決まりの「沼に引き込まれた友人が霊的な何かになって戻ってくる」からは、特に何も感じることはなかった。前半部分の生きているポケモンが沼に引き込まれ、見えなくなるのを絶望した顔で見ている友人……という図はこわか……神経が逆立った。
「ア、アカネかわいいですわ!もう、いつもツンデレばっかりしてるのに、こんな時はプルプル震えてるなんてなんてかわいいんですのーー!」
「な、なに言って……ふ、震えてないけどっ」
あまりの恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。これだから、集団で雑談するのはあまり好きではないのだ。
「カイトが知ったら大喜びしそうだよね!」
「……言わないでよ!絶対!」
顔が熱い。半泣き状態になりながら、床をペしぺし叩いて訴えた。