他者の事情‐87
「ねえ、アカネは女の子同士というか、親友同士で秘密の話?とかしたことあるの?」
「え?」
ふらり、とオレンの実を持っていた手元が揺らぐ。危うく木の実を落としそうになった。唐突に何だ?と思ったが、今日のイベントのことを考えるとなんとなく納得がいった。ステファニーが不思議そうな顔で私に尋ねてくるが、どう返してきていいのかわからない。
はっきり言って、記憶をなくしてから初めて出会ったのはカイトだし、そこまで深々とした関係の相手はどこにもいない。女友達などステファニーやシャロット位だが、友人といっていいのかも分からない。ずっとカイトが近くにいる。あまり気にしたことはなかった。
「……ああ……そう、ね……。
まぁ、そこそこ……。ステファニーはどうなの?」
「うぇ?私?えっと、私は……言っちゃアレなんだけどね、家族意外での交友関係が少ないんだ。ふふ。
私ね、家族が多いから、そっちで手一杯だったっていうか、ファミリーが友達って感覚もあったんだ。住んでた所が少しひっそりしてたこともあって、実は外の世界との交友が少なかったんだよね!
だから、秘密の話とかはあんまり……かな。というかみんなオープンだったし!」
初耳である。そういえば、カイトの家庭事情だけはなんとなく分かってはいたが、それ以外のポケモンのことはほとんど知らない。
ステファニーのことについても、本が好きで女の子らしく、好奇心旺盛。という、表面上の知識しかない。
というよりかは、無関心だったのだ。今ここで聞かれるまで。
「ファミリー……ね。イーブイ系統の兄弟が多いってこと?」
「ううん、そうじゃないんだけど。私ね、実は養子なの。ほかの兄弟達もそうで、みんなもともと孤児だったんだ。
お母さんとお父さんの種族上、子供できるのが難しくて。ほら、種族が離れすぎてると、うまく遺伝子が組み合わないの。
だから、みんな血はつながらなくて、家族であり友達でもあるっていう感じかな」
そうやってひらひらと笑うステファニーを見ると、なんだか恥ずかしくなって目を泳がせた。なぜそう思ったのかはよくわからないが、幸せそうにしているのを見ると、なんとなくこう、キラキラしている。その光に目がくらんだような、そんな感覚だ。
どのような経緯で孤児になったのかはわからないが、それでも彼女は幸せそうである。身近な幸せを傍に置いて笑えるというのは、どんなに楽しいことだろう。考えてみたものの、埋め合わせ中の記憶の中には思い当たることがなかった。
「ねえ、アカネはどうなの?というか……ちょっと気になってたんだよね。なんでカイトと一緒なのかな……って」
聞かれるととても困ることを連続で尋ねられ、どう言葉を返そうか迷った。何故なら、初めて出会った時の話をすれば、必ずその前が気になってしまうからだ。
私が海岸に倒れていた。それをカイトが発見した。キュウコン伝説と伝説の救助隊の話を知っているポケモンならば、カイトがその救助隊の息子だという事実で何かを無理やりつなげようとするかもしれない。私とカイトが出会った状況が物語と酷似しており、カイトがその物語とつながりがあるからである。
「まぁ……いろいろあったのよ、最初は」
「……というと?」
「秘密」
そういってかすかに口角を上げた。それを聞いたステファニーは頬を膨らませ、尻尾を軽く振り回している。少し呆れたような、そんな感情があったものの、それは微笑ましさのようなものにかき消された。
*
「朝話した通り、先ほど大部屋を二つ開放したので、相談してどちらがどちらの部屋を使うか決めてくれ。その後の過ごし方については何も言わないが……。
羽目を外しすぎて翌日朝礼に遅れるなどということは無いように!」
ピシャリとペリーはメンバー全員に向かって告げた。面倒だ、とも思ったが、カイトの反応が気になる。こういうイベントには大喜びしそうなものなのだが、やたらと冷めているような気がした。
「……じゃ、行くから」
「あ、うん。じゃあまた明日ね。お休み」
「ん」
どちらの部屋をとるか、というのは先ほどフラーとゴルディが揉めに揉め、やっと決まったところだった。なぜそれだけであそこまで派手な言い合いができるのかわからないが、途中でベルやグーテが仲裁に入ったことで、何とか終結したらしい。
といっても、実際どちらの部屋も大して変わりはなく、藁を敷き詰めて毛布を出して、そこで眠るだけだった。
ギルドのメンバーの中でもメスは比較的少ない。私にステファニー、ベルとフラーのみである。少ない方が疲れることもないか、と思い、三匹と合流すると指定された部屋に向かった。
一瞬こちらをちらりと横目に見たカイトと目があったが、気のせいだと思いすぐにそらしてしまった。