プチイベント発表・チーム初参加‐85
「―――――……ということで、遠征メンバー発表前ではあるが、最近新人が増えたため、仲間同士の交流を深めたるためのイベントをしよう、と考えている」
「……交流、っすか?」
いつも通り滑舌よく話すペリーに、思わずリオンは首を傾げた。
アカネが仕事に約一日ぶりに復帰できてから二日目のこと、朝礼の最初にペリーから『イベント』と称すものの内容発表があった。それは遠征のことではなく、ギルド内でのメンバー交流イベントのことらしい。
アカネはいつも通りの眠気と低血圧らしく、多少イライラしていた。なので、ペリーの話を右から左に流しながら聞いていたようだったが、リオンが発した声で少し内容が気になり始めたのか、ちゃんとペリーの方へと向き直った。
「嗚呼。ドクローズの皆さんには不参加、という返事を頂いたが、お前たちにはまだ聞いていなかったからな。今日初めて言ったからアタリマエだけど。
……要するに、だ。最近は地域のダンジョン化や、お尋ね者や遭難者の増加が進んで、お前たちも仕事に振り回されっぱなしだった。もちろん新人達も働きっぱなしだったからな。
私としては……まぁ仕事しまくって稼ぎまくってほしいのが本心ではあるが……ギルド内で同じ生活をするメンバー同士との交流が朝礼と夕食だけっていうのは、さみしすぎるだろう。
一日仕事を休みにする……というわけにはいかないが、いつもよりも早く切り上げて良し!夕方前に帰ってきて構わない。体力はそこそこ温存しておくように。ただ、急を要することがあれば迷いなくそちらを優先しろ。遅くなりそうなら連絡してくれ」
「んで、結局なにすんだ?交流って言ったってさ」
ゴルディがペリーに尋ねる。ペリーが話した一連の流れは、交流を深めるといっても何を具体的にするのかはまだ話されていない。皆そこが疑問だろう、と思う。
アカネは面倒そうに腕を組むと、眠たそうに眉間にしわを寄せた。確かに少し話が長いかな、と思うが、今までにはない体験かもしれないと思い、僕は真剣に話を聞いていた。
「夕食後、弟子部屋の中でも特別大きい部屋をそれぞれ二部屋開放する。雄雌分かれてひと部屋使ってくれ。どちらを雄が使うか雌使うかとかは、まあ任せる。
要するに、同じ部屋で寝泊まりをするのだ。いつも夕食が終わったら皆翌日の準備をしに自分たちの部屋に戻ってしまうだろう。仕事後の空いた時間をそれに費やして、夕食後の自由な時間を使って雑談するなりゲームをするなり、好きなようにしてみろ」
ペリーの隣でパトラスがいつも通りの妙なにやけ顔を浮かべていた。これは口答えしたら不味いパターンのやつだろうか、とばかりに、反対意見は何も出なかった。
それどころか、皆表情が明るく、笑顔である。これは、俗にいうお泊りというやつだろうか?と、僕は数少ない交友関係の記憶に思考を巡らせる。
だめだ、記憶にないや。
「えっとえっと、それって!女の子と男の子が分かれて、女の子同士で夜の怪談言い合ったり、恋の話するとか、そういうやつ!?男の子も武勇伝語り合ったりとかいう、アレ?」
さっそくステファニーの目はキラキラと輝いている。どうやら彼女も大人数かつ同性と寝泊まりは初めてのようだ。
アカネをちらりと見たが、微塵も興味なさそうな顔をしている。が、よく見れば先が丸くなった尻尾がパタパタと上下していた。照れ隠しかな?なんだかさみしくもある。
「今日のことだよね、たぶん」
「……そうみたいね。めんどくさ」
「ちょっと、寂しいよね」
僕がそういうと、後ろから軽く小突かれる。振り向くと、アカネのしっぽだった。パタパタとせわしなく動いている。顔を見ようとしたらもう一度小突かれた。
「別に、そうでもないけど」
「……その尻尾は何だい?」
「……知らない」
そういって彼女はそっぽを向く。
僕たちはもちろん、周りもギルド内でのイベントでザワザワしている中、ペリーが「静かに」と声をかけ、その後いつも通りの朝礼が行われた。いつもよりもメンバーたちの表情が明るい。皆、そういうのが好きなポケモンたちなのだろう。ステファニーはリオンの隣でうれしそうにステップを踏んでいた。
苦笑いしているようなあきれているような、そんな表情でそれを見ていたリオンは、僕の視線に気づくと軽く片手をあげて、「よろしく」と口を動かす。僕も手を軽く上げて返事をした。
「なんだかんだで皆楽しみそうだよね。僕たちも早めに終わらせられるようにがんばろっか!」
「……はいはい。依頼の量、今日は半分にしとく?」
「……やっぱり、アカネもちょっと寂しい?」
「んなわけないって言ってんでしょうが」
*
結局、いつも通りより少し仕事の量を減らしただけだった。今日一日仕事を減らすだけでも、困るポケモンは必ずいるだろうし、僕たち自身だって反動で困ってしまうかもしれない。
僕たち二匹で時間内にやりきるのはさすがに簡単ではない。
そのため、ここぞという時のための助っ人に協力を求めた。今回、初めて一緒に仕事。そして、アカネはその子とは初対面だ。
「その!呼んでくれてほんとありがとうございます!!あたし頑張ります!ハイ!
あ、初めまして……!アカネさん!」
グイグイ来る目の前のロコンことシャロットに対し、さっそくアカネは若干引き気味である。が、僕の時ほど困惑することはなく、「嗚呼、初めまして」と、口角をあげることなく言い放った。
「あ、えっと……その節はすいませんでした。セオっていうか……セオが」
「別に、あんたが謝ることじゃないでしょ。話によれば相当反省してるみたいだしね。腹立つけど……もういいわ」
「うぅ……本当にごめんなさい。ありがとうございます」
「ところで、君戦いの経験はあるよね?一応元探検隊だったんだし」
そこは一番肝心なところだが、聞くのを忘れていた。初対面時のあまりの気迫に圧倒されて、聞く隙がなかった、といえばいいか。
彼女自身はメッチャ敵倒す、みたいなことを言っていたため、とくに問題は無いだろうと踏んでいたが、実はまったく戦闘慣れしてなかったらどうしよう、と、いまさらになって不安が過った。
「ハイ!これでもランクCくらいのお尋ね者は余裕です。有名になれなかっただけで……」
シャロットは落ち込みながら、ふらふらと依頼内容にあった森林の中を歩いていた。アカネは相当不安そうな顔をしていたが、特に文句を言うようなこともなく、僕の隣を歩いていた。
朝の木漏れ日は気持ちがいい。背伸びをするのと同時にブワッ、と尻尾の炎が一瞬大きく燃えた。僕やシャロットのような炎タイプにとっても、日の光は気持ちがいいものだし、アカネにとっても悪いものではないはずだ。
「あたし思ってたんですよ。なんでこんなとこで遭難するんだろ?」
特に当たり障りのない疑問だったが、その疑問を口に出す際、シャロットはかすかに目を細める。アカネが眉間に皺を寄せると、その疑問に答えた。
「……ここがダンジョンだから、じゃないの。
野生のポケモンは皆自分の縄張りを守るのに必死よ。ろくに戦ったことのないポケモンが挑むとやられる。そういうとこ、なのかしら?」
アカネが僕をちらりと見た。アカネにはこの世界の知識がない。確信を持てないのも無理はなかった。
大体あってるよ、という意味で頷くと、シャロットも納得したのか「そっか」と声を漏らす。
「変なこといってごめんなさい。
でも、こんなことセオの前で言ったら、ものすごい馬鹿にされるんじゃないかと思ってたんで、今まで言わなかったんです。
……今思えば、クロッカスへの迷惑行為以前に……性格の不一致だったのかもな!なんて!」
そう言った瞬間、シャロットは前方の敵に火の粉を吹きかけた。火の粉、というよりかは炎の粉、というくらいの威力で驚いた。そして、うらやましく思った。
当然戦闘レベル低めな子のダンジョンのポケモンは一撃で戦闘不能。さすが、一応探検隊として活動していただけあるな、と、アカネも感心しているように目を細め、腕を組んだ。
「……あんたも馬鹿力だけじゃどうにもなんないよ」
「……火炎放射取得、頑張るね……」
がっくりと肩を落とした。このままでは、炎要員の座をシャロットに取られてしまうかもしれないと思い、不安になる。とんとん、とアカネが肩をたたいてくれた。ありがとう。
「……私とカイトだって、まったく性格一致して無いけど」
「……違うんですよね。そういうんじゃないんです、クロッカスの場合。
あたしとセオには、ストッパーっていうか。そういうのがなかったんです。チームも基本的にあたし達二匹だけだったし、もめたらそのままもめ続ける、っていうか。お互いがストップをかけるようなことがなくて、最終的に嫌々折れる、みたいな。
……でも、なんか違うんですよ。水と油に見えるのにちゃんと混ざってるっていうか、なんていうか。たまに分離しかけてるときあるんですけど、自力でもとに戻るっていうか。
…………とにかく、羨ましいんですよ。本当は私も、きっとセオだって、アカネさんとカイトさんのそんな関係が。
うらやましかったんですよ、きっと」
意味ありげにシャロットは笑いながら、もう一撃、とばかりに目の前のポケモンに火の粉を食らわせた。