意思の偏り 追走‐84
―――――最近、また同じ夢を見るようになった。
俺はあの時、どうするべきだったんだろう。
夢を見るたびに考えさせられた。
楽しかった記憶を浮き上がらせたような夢であっても、目が覚めた瞬間からぼやけて忘れてしまう。楽しい夢だった、それだけしか残らなくて、虚しくなる。
あいつはどうして俺の夢に何度も出てくるんだろう。
やはり、俺の事を恨んでいるのだろうか。憎く思っているのだろうか。
何故、あの時分かりあえなかったのだろう。
お前にも、少し話をしたことがあるかもしれないが、お前が俺達の前に現れる前だったから。お前はきっと何のことかわからないだろうな。
もしも、あいつが生きていたなら、今はどういうだろう。
前みたいに、無駄なことだと狂気を込めた顔で嗤うのだろうか。
…………すまない。そんな場合ではなかったな。自分語りはこれくらいにしておこう。
お前は変わりないか?お前は自分の事を囮だと言っていたが、奴らはお前に気付くだろうか?少し不安だ。
俺が歯車を集め続ければ、必ず俺の存在はこの世界で浮き彫りになってくるはずだ。
その時、お前がどうするかにかかっているのかもしれない。……プレッシャーを与えるようなことを言ってすまん。ただ、本当に後が無いんだ。
どちらかが、もしくは彼女さえ生きていてくれれば、まだまだ望みはある。あの世界で呆然としているよりも、何もかもが理想に近づける。そのために、今まで頑張ってきたんだ。
もしも、俺達が失敗してしまったとして……歴史はまた繰り返すだろう。
俺が駄目になった時……あの方を絶対に守り通してほしい。
あの方が居れば、また俺たちは同じ場所に集まることができる。何かが……変わるかもしれない。
何としても守り通せ。きっとこの世界で暮らしている筈だ。微かな記憶の断片ではあるが、お前の立場はあの方を探し出すのに最も有利と言えるだろう。
それから、当分は手紙でのやりとりは止めようと思う。可笑しな噂を聞いたのだ。箒星の探検家……聞くところによればだが、あいつの風貌によく似ている。有名探検家という地位を得ているのなら、こちら側でも影響力は大きいかもしれない。この手紙で感づかれたらおしまいだ。いつも通り読んだら焼き捨てろ。俺も当分この場所には表れない。
この星で同じ種族のポケモンがいるのは承知の上だが、もしもということがある。お前は特に気をつけてくれ。
正直気がかりなことがたくさんある。共にこちら側へ来たお前と彼女の事、今この世界で暮らしているあの方の事。
…………きっと俺を憎んでいるであろうあいつのことも、だ。
一方的ですまない。だが、手がかりを残すのは避けたいんだ。時間は限られている。この手紙も本当は直接渡したかったのだが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
無責任な判断だというのは重々承知しているつもりだ。本当にすまない。
そちらも上手くやってくれ。健闘を祈る。
*
「……ちくしょ……」
まだ伝えきれていない。新しい情報もある。
なのにも関わらず、一方的に遮断するということか?
まずいことになるかもしれない。それでも、お前はこの場所には現れないと言う。無人だとわかっていながらも情報を放置するのは危険だ。けれども、重大な話があるというのに、それをどう伝えればいいというんだ?真の意味での俺達の味方など、現在のこの世界には一匹だっていないんだぞ?
情報が不十分だと、ヘマをするぞ。取り返しがつかないことになる。
この世界では確実に時間が動いている。一秒一秒が刻まれているんだ、絶対に時間はある。俺たちはまだ袋のネズミじゃない。
……焦るな、ルーファス。