復帰‐83
「アカネ、今日復帰する?」
目を開けると、目の前にカイトの顔があった。あまり珍しいことだとは思わなかったのでそんなに驚きはしなかったものの、電気ショックを浴びせそうになった。あいつが悪い。
昨日色々と疲れて直にぱたっと寝てしまったような気がする。
ギルドの生活に慣れたとはいえど、私より先にカイトが起きるなんて昨日ぶりである。昨日は私が極端に遅かっただけだし、私は仕事に行こうと思えば行けた。それでも迷惑をかけるというのは分かっていたが。未だにおさまらない。
「……いま。何時?」
「六時……?六時四十分」
「……いま、おきる」
治りかけが肝心と言う。昨日は治りかけていたところで色々と動き回ったりしてしまったが、今日は割と大丈夫なようだ。
今日なら仕事に行くことができる。そう思い、ゆっくりと体を起こす。頭が少し痛いような感じもするが、多分頭が起きていないだけだ。
「アカネ、治りかけが肝心だよ!また調子悪くなったらすぐ言う。いいね?」
「わかったわよ……いつも朝はこれくらいだといいんだけど」
カイトはゴルディが来る二分くらい前まで寝ていることも少なくはない。いつもこの時間に起きてくれればいいのに、と思いつつ少し気持ちのモヤが取れたような感じがした。目も腫れていないようだし、特に心配することはない。
分からないことも、多いけれど。
「ねえ、アカネ。シャロットの事なんだけど……」
「別に私はどっちでもいい。あんたもいいんなら別に入れればいいんじゃない」
「…………分かった。アカネ、大丈夫?」
「別にかまわないって言ってんだけど。あ、オレンの実もうひとつくらい入れてって」
「そっかー……わかった。……あー……縛り玉補充しとかないと」
「昨日きつかった?」
「うん、ちょっと。
いつもサポートありがとう」
「さっさと自分の毛布畳んで」
一通り朝の作業を終えると、ゴルディが来る前に朝礼場へと直行した。あまりメンバーは揃っていない様子だったが、あと少しすればぞろぞろと来るだろうと思う。何せゴルディが動き始めた頃だった。ゴルディの怒号が各部屋から響いてくる。きいているこちらの耳までギンギンしてきた。
「仕事行く前にお金とかいろいろ預けたいから銀行行くけど、付き合ってくれる?」
「まぁ、いいけど……昨日どれだけ行ったの?」
「いつもと同じくらいかな……あ、でも少しだけ減らした」
「……そう」
朝礼が終わると、ステファニーやリオン、他のポケモンから度々復帰おめでとうという言葉をかけられた。たった一日風邪こいて休んだ程度で大げさな、とも思ったが、少しだけ、素直にうれしいと思った。
「昨日のドリンクどうだった?美味かったろ」
「……まぁ、良かったわ。でも甘すぎ」
「感謝の言葉を述べてほしかったよ……」
苦笑いするリオンを尻目に昨日のコップは返さなければいけないだろうか、などと考えて一旦部屋に戻ろうとした。
「ねぇ、ドリンクって何?」
「え、いや見舞い品持ってくって言った……ちょ、やめ、怖い」
「カイト!?床に尻尾の炎燃え移ってない!?」
不穏な会話が聞こえたが、あまり関係ないと思いドリンクの入っていたコップを部屋から取ると、そのままカイト達が居る場所へと向かった。昨日のがウソみたいに体が楽だ。多少の休暇も大切だ、と思い知らされた。
カイト達の方へと駆け寄る。若干焦げ臭いにおいが鼻をついて、床が多少焦げているような気がしたが特に気にしない。面倒になったらあとでごまかしておけばいいだけだ。
「カイト、行くよ」
「うん。ようし、今日はアカネがいるから楽だよ!その方がやっぱり楽しいしね」
「ちょっと、私はあんたが楽するためにいるわけじゃないんだけど。
…………まぁ、いいけどさ」
「じゃ、ステファニーとリオンと頑張ってね!」
「うん。私達は後から出るから。そっちも頑張って!」
「俺はだんだんお前が分かんなくなってきたよ……波導が邪悪だよ……」
リオン達と別れると、まずはトレジャータウンに向かった。倉庫とカクレオンのイゴルとラゴニの店、銀行に寄らなければならない。
一番ギルドから近い銀行をすっ飛ばし、手持ちのポケでカクレオン商店に行くが、これと言って買おうと思うものはなかった。というか大抵倉庫にあるし、あまり買い込むと倉庫の上限を超えてしまう。イゴルとラゴニの悲しそうな顔が頭にふわりと浮かんだが、結構どうでもいいので無視である。
「次倉庫だね。そろそろ傷みそうな木の実は部屋に持って帰る?」
「……帰りでいいわ。今更ギルドに上がるのめんどうよ」
ガルーラおばちゃんことリンダは、トレジャータウンの倉庫の経営者、守り主である。リンダは人脈が広く暖かい性格をしていた。おなかの袋の中に抱えている子供が一々うるさいが、使い勝手はいいので利用させていただいている。
ギルドのポケモンもほとんどが利用しており、探検家がリンダと交流を持つことはとても大切なことだ……と、勝手に思っていた。
「あら、アカネちゃんとカイトじゃない。アカネちゃん相変わらず別嬪さんね。可愛いわぁ」
「ねずみ!ねずみ!」
「……どうも」
ガルーラの実娘であるコリスは、まだリンダの腹の袋を使用するくらい幼いが、情緒などの成長が始まっているのかよく喋る。見事に神経を逆なでされ、腹がギュっときつくなった。カイトがひやひやしながらこちらを見ているが、それも何だか腹が立つ。
「えっと……縛り玉一個引き出したいんだ。あと、これは預けるよ」
「了解。うち今日から料金いただくことになったのよ。300ポケね」
「え、え!?嘘だよね!?一回分の依頼料全部じゃないか!」
「うそよ〜。うちは旦那がちゃんと稼いできてくれるから。さ、がんばっていっておいで」
リンダが面白そうにケタケタ笑う。若干恥ずかしそうに顔を伏せるカイトは、引き出した品を受け取って直に「どうも!」と言い、早足で銀行に向かって言った。銀行に行くのは正直、少し苦手である。というよりかは、店主が苦手である。
「えーっと……ホレフさん、こんにちは」
「ウヒヒッ!こりゃ、クロッカスさんじゃないですか!ウヒッ!」
「全部預けるわ」
「どうもどうも!ウヒヒッお金!ウヒヒッ!
1000ポケでよろしいですか?一日でよく稼ぎますねぇ」
「あ、うん。じゃあそれ全部預けるから。宜しくね、ホレフさん」
「了解しました!ウヒヒッ」
ホレフ、というのは銀行の店主だ。種族はヨマワルで、癖のある喋り方がどうも苦手だった。なんだか、ぞわっとする。カイトは困惑しつつも平気なようだ。やはり慣れ、だろうか。
銀行に金を預けると、そのまま仕事に行こうという話になり、トレジャータウンの出口へと歩き出した。