ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜 - 六章 遠征メンバー発表まで
新鮮なやりとり‐82
空が暗い。
日が見える頃には帰ろうと思っていたのに、すっかり遅くなってしまった。
いつもやるくらいの仕事量を一匹でやってみて、改めて『アカネ』という存在の重要さを思い知らされた。アカネは攻撃向きというより補助向きなのだ。僕がなんとなくフォローされていたということを思い知らされる。割と麻痺していない敵はきついと感じた。
朝、ベルが言った通りアカネは一匹で部屋を抜け出しかねないのだ。何もありませんように、と思いつつ、ギルドの入り口から中に入った。
少し汚れてしまったので洗おうかとも思ったが、疲れていたので部屋で適当に拭こうと思い、雑に体の汚れを拭う。
「あ、おかえりなさい、カイトさん」
「ベル……アカネどうだった?」
「ええ、ちゃんと一日眠ってましたよ。日ごろの疲れもあったんですかね。よく寝るなぁって。まぁ、多分もう起きてると思うんですけど。
 そういえば、朝のお客さん……えっと、シャロットさんでしたっけ。返事が決まったら私に伝えてください。しっかり私が受け渡すから!」
「わかった……。ありがとう」
「それと、もう少ししたら夕飯なので。アカネさんもこれそうだったら来てくださいね」
そう言ってにっこりと笑うと、ベルはふわふわと食堂の方へ入って行った。
シャロットの事を忘れていたわけではないが、あまりさっぱりしない一日だったような気がする。かなり疲れたし、早めに寝ないと明日が持たない。おなかも減ったし。
まず、アカネの顔を見なければと思って直に部屋へと向かう通路を通って行った。チームブレイヴや他のギルドメンバー達はとっくに帰ってきているのか、ギルドの中でちらほら見たり、それぞれの部屋から話し声が聞こえてきたりしていた。
「アカネ、帰ったよ〜」
トントン、と一応部屋をノックして声をかけた。中から声は聞こえてこないが、僕の部屋でもあるので遠慮なく入る。
「アカネ?大丈夫?」
「……おかえり」
「ただいま」
なんだか新鮮である。いつもは二匹で帰ってきて、二匹して自分のベッドにダイビングしているので、相方から「おかえり」がとんでくることはまずなかった。
なんだか、本当に新鮮である、が。その「おかえり」が、何となくアカネの不機嫌な時の声に聞こえた。いつも不機嫌気味ではあるが、本当の不機嫌の時の声のような気がした。まだ体がだるくてそうなってしまうのかもしれないが、朝の時の様子とはどうも違う。
「体大丈夫?頭痛とか、熱とか……」
「……別に」
朝程声に弱々しさはないため、おそらく少しは良くなったのだろう。
「アカネ、」
「朝。誰か来たみたいだけど」
「嗚呼……」
きっと、その事が気になってもやもやしていたんだな、と軽く解釈し、僕は朝の来客と話の内容についてをアカネに伝える。思ったより過剰な反応はしなかったものの、それがどこか不自然だというか、もしかしてもう知っているのではないかとも思いながら話していた。
「……どうすんの?それ」
「ううん……仕事の時だけなら、いいかなぁ……なんて思ったんだけど……」
プライベートであの勢いだと、慣れるのに相当時間がかかりそうである。
「そうじゃない。ダンジョンで戦えんの?そのロコン」
「今日は会っただけだからなぁ。でも、一応仕事の経験はあるみたいだし、ダンジョンに関する基本知識はあるんじゃないかな、って思うんだけど」
「……それで。メンバーに入れんの?」
「仕事中だけなら構わないかな、って……ちょっと思う。ダンジョン内で味方は多いに越したことはないし……」
「あぁ、もう……!いいわよ!
 夕飯できたみたいだし……!さっさと行くよ!」
確かに、夕飯時の鈴の音が鳴っていた。
大声を出していて、体調は大丈夫なのかと思ったが、まだ少し頭に響くのか眉間にしわを寄せている。
それでも朝よりもしっかり立ち上がり、さっさと僕の前を歩いて行くのが見えて、ほっとしたような、不思議なような。
何をあんなに怒っているのだろう、とモヤモヤしながら食堂までの道を歩いていると、後ろから誰かにポン、と肩を押された。
「わっ……リオン!」
「一匹でお疲れ。
 アカネ回復したっぽいな。よかった」
そう言って再度慰めるように僕の肩をポンポンと叩いた。ステファニーはというと、リオンより先に食堂へ行ったのか、女性陣の談笑が聞こえる。
「朝かなりしんどそうで心配だったけど、ほんと良かった。アカネが居なくて大変だったかも、色々と」
「あー……朝結構騒いで無かったか?客がどうとか」
「結構皆知ってるんだ……アカネも多分客のことは知ってたんだよね。そんなにうるさかったんだなぁ……。
 アカネさ、ほとんど治ったは良いんだけど、何か少し怒ってるみたいで」
「客の事じゃないか?どういう話してたんだ?」
リオンが尋ねてきたので、足を止めると短めにまとめて説明する。彼は苦い顔をして少しだけ考えていたようだったが、直に何か思い付いたのか僕にこう言ってきた。
「ベルにアカネの面倒見てもらって、そのシャロットもベルに色々用件伝えたんだよな?」
「そうだね?」
「……うーん……アカネのいないところで客とカフェでお話か……なるほど」
リオンは一匹で考えて一匹で納得して閉まった様子で、苦い顔をしながらも、それがよくわからない僕に「もし」で説明し始めた。
「もしもだぞ?うーんと……俺でいいや。
 お前がちょっと用事ある!とか言ってその場を離れてる隙に。俺がお前に黙ってアカネカフェに連れ込んでたらどう思う?実はお前はそれを目撃しているが、俺はお前に何も伝えない」
「勝手になにしてんの?」
「だろ……怖いから止めろ。大丈夫だって、連れ込んでないから……」
つまり、アカネもその心理だったと言いたいのだろうか。
けれど、僕とアカネの内面はかなり食い違っていると思う。アカネが僕のように思うかどうかも、違うのでは……。
と思うと、何となく悲しい気がした。何故だ。
「まぁ、そういうの結構複雑なんじゃないか?特にあいつの性格だとな。
 ちょっと不思議に思ったこともある。お前らが何でチームなんて組んだのかって。昔からの知り合いって訳でもなさそうだ」
「……僕が何となく知ってるから。それでいいんだよ」
そう言って笑うと、リオンはなぜか、微かに目を泳がせた。不思議に思いながらも、食堂に向かっていた足を再び進め始める。僕たちは大分夕食に遅れてしまっているようだ。イライラしながら僕たちの事をみんな待っていた。
「リオン。ステファニーが空腹で潰れてるように見えるんだけど」

「……そうか。
 いや、いきなり悪かった。なんでもない。今行く」
リオンは僕の足跡を踏むように、後に続いて食堂へと向かった。



■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「サラさんていくつ?(唐突)」
サラ「はいぃ??????????????」
作者「口調とか見た目若々しいけど実子のカイトさん18じゃねっすか。少なくとも30は過ぎて……えっアッすんませ(規制)」
ミシャル ( 2015/11/29(日) 16:52 )