早朝の客人‐79
「んー……改めてみると拷問レベルで報酬少ないよね……九割ギルドに持ってかれる訳だし……」
今まで目につく依頼を取ってはアカネと遂行していたが、アカネは別として僕はそんなに報酬を気にしたことはなかった。どんなに一回の報酬が少なくとも、やればやるだけお金がたまる、という感覚しかなかったのだ。これは少し危ないのだろうか。
そもそも、あまりお金を使わない。食料もアカネが食卓からくすねてくるものが部屋にあるわけだし。あまりほめられたことではないが。
なので、銀行に行って金を預けても、残高を確認したことはあまりなかった。次に銀行にいったら確認してみようか。
大体依頼人から受け取る報酬が一回につき平均1000ポケから3000ポケ程度。これがすべて僕達のものになれば、これから半年以上僕たちは仕事しなくたって生活していける。しかし九割取られるとなると一回100から300ポケ。とてもではないが継続しても満足のいく生活ができるかどうかは謎である。
ギルドの厳しさというのはある意味こういうことだろうか。厳しい。金銭的に。
「……よし、アカネ居なくても大丈夫、男見せよう」
依頼書を確認してバッグに入れると、そのまま依頼に向かおうと足を向ける。
途中でドクローズのグロム達とすれ違ったような気がするが気にしない。というよりかは、少し鼻が慣れてきたようで室内の臭いはそれほどひどいと思わなくなっていた。鼻が慣れたというより麻痺してるかもしれない。アカネに手を出さなければいいな……と思いつつも、意識を仕事に向けようと歩みを速めた。
「おい、カイト!カイト!まだいるか?」
気持ちを切り替えようと思った刹那、ゴルディの声が耳にゴンゴンと叩きつけられるように聞こえてきた。思わず口隅がつりあがるが、耳を庇うように囲ってから「まだいるけど!」と、叫び返す。
「お前……ってかクロッカスに客だ!ギルドの前まで出てこい!」
「え……わかったー!」
この会話、アカネに聞こえていたりしないだろうかと思いつつも、元々ギルドの外へ向かっていたのもあって軌道は変えず、少し早足にギルドの出入り口前へと移動した。
ゴルディから『客』ということ以外は特に聞かされていなかったため、『依頼人が再び訪ねてくるとかいうのは日常茶飯事』でありながらも少し不安に思いながらギルドの外へ出た。
「えっと、お客さんというのは……」
「あ、あたし、あたしです!」
ギルドの前は特に混んでもいなかったが、まだ出発していないチームがうろうろしていたりたむろしていたりして、キョロキョロしていたところを客の方から声をかけてもらった。
「ん……?君は?どちら様……?」
「あ、ほ、本当に…………も………
―――――申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「は、え、え!!?なに!?なになに!?何ですか!?」
『客人』と名乗るポケモンは、いきなり謝罪の言葉を述べる、というよりは腹の底から叫び倒すと、僕の前で綺麗に土下座するような姿勢になり、床に伏せた。いきなりの事で意味がわからなかったし、不審なものを見るような周りの視線がミサイル針のように絶え間なく突き刺さる。
一体、なんだ、何なんだ?