頼み事‐77
少し遅れたことやアカネの事について、ペリーは特に文句は言わず、朝礼が終わった後他の先輩メンバーからも声をかけてもらった。
仕事にかかる前にベルにアカネの事を言っておく必要があったので、いつものベルの持ち場であるチームメンバーの編成所に向かう。
ベルもアカネの事はちゃんと知っていたらしく、僕の姿を見るとチリリン、と、小さく鈴を鳴らす。
「ベル、アカネの事なんだけど……」
「大丈夫、私の仕事、朝は少し忙しいけど、昼に近づけば段々落ちつきますから。そしたら私が少しの間見てます。
フフ、アカネさん脱走しそうだもの。そこが可愛いんですけどね」
本当にその通りです、とばかりに目を細めてコクリと頭を下げた。大人の余裕という物があるベルは、僕の頼みをくみ取って瞬時に受け入れた。
出来るだけ夕飯の二時間前には帰っておきたいし、遠くのダンジョンに行く訳にもいかない。今日は近場のダンジョンでの依頼を遂行しようと思った。
「ごめん……アカネ、ああ見えて自分のご飯の余りとか食料とかしっかりキープしてるタイプだから、木の実類、グミ、リンゴとかは大抵あると思う。もし使うようなら使ってよ。ギルドの食糧事情も大変だろうし」
「フフ、アカネさんちゃっかり夕食の時とってますよね。カイトさんはガツガツ食べちゃうのに」
そう言ってベルは綺麗な笑顔を浮かべた。なるほど、食事を作っている側ということもあってメンバーの様子はきちんと見ているんだな、と感心した。確かに僕は半ば戦場と化した夕食時、ガツガツ食べている。あまり交流はなかったが、暖かいポケモンだと言うことが何となくわかる。
「はは……アカネはもともとそんなに沢山は食べないから。ちょっとアカネの貯め癖に甘えちゃってるかも。
よろしくね、ベル」
ベルにアカネの事を頼んだ後、はにかんで笑う。自分でもよく食べると思っているし、アカネもそれを呆れながらも許容してくれているので、何となく気持ちが暖かい。
「なんだかあれですね、言葉で言い表せない愛情ですよね!そういう二匹見てると〜」
「え」
「フフ、じゃあ、頑張って行ってらっしゃい!」
再びベルがちりんちりん、と鈴を鳴らした。
照れくさくなり、手を振って踵を返す。どういう意味で言ったのか、気にならないと言えば嘘になるが、何となく聞く勇気が無いと言うか、言葉に詰まる自信があると言うか。
『愛情』という言葉の意味を頭の中で固定してしまう自分がどうしようもなく恥ずかしくなって、ブンブンと首を横に振った。