体調不良‐75
リンゴの森から帰省した。その翌日だった。
「何か、頭……痛い」
珍しく僕が起きた頃にはまだ毛布にもぐっていたアカネが、ダルそうな声でそんな言葉を口から零す。
ゴルディがいつも起こしに来る十分前、大抵アカネは気まぐれに一人でさっさと朝礼場に向かったり僕を起こしたりする時間だが、そんなアカネが寝坊というのはとても珍しかったし、何より確かにしんどそうである。
「アカネ大丈夫?昨日の疲れ残っちゃったかな……もう少し休んでたかったらペリーに伝えるけど……」
「いや、大丈夫……だいじょうぶ……行くよ……」
そういいながらゆっくり毛布から出てくると、いつものように毛布を畳んでベッドを整え直すと言うようなことはせず、足元をぐらつかせながら朝礼場に向かう通路をふらふらと歩いていく。
「ちょ、アカネ。大丈夫そうじゃないよ!うおっ……何か熱ありそうだよ!」
「行く」
「行かない」
「いく」
頭痛の所為か、僕が思い通りに動かないせいか眉間に深く皺をよせながら反抗してくる。いつもより何となく口調が幼いような、上手く口が回っていないというか、いつもとは何処となく違う。僕の昨夜の予感は多少外れた。
「いかない!もういいからアカネ戻って!何か今日ちょっと態度も変じゃない?」
「はぁ?なにがぁぁ……」
「どうしたんですの?」
部屋の前でアカネと揉めていると、今起きだしてきたであろうギルドの先輩、キマワリのフラーと、その後ろに朝礼へ向かおうとしていたと思われるブレイヴの二匹がこちらを見ていた。
アカネは「めんどくさいのが増えた」という気持ちが見え見えの表情をすると、僕から顔を背けて朝礼へ行こうとふらふら歩き始める。
「あれ、アカネ?何か……風邪でも引いてるの?よろついてるけど」
「いや、あの……」
「キャーー!!まぁ!体が熱いですわ!無理しないで楽になるまで寝ていないと……長続きしても困りますわよ!」
「フラー、声がおっきいよ〜……」
前進しようとするアカネを引きとめ、目の前で女性陣達が揉め始めた。すたすたとリオンが僕の傍に来ると、「どうした?アカネのやつ……」と、僕にこっそりと話しかけてきた。
「昨日いろいろと大変なことがあってさ……ちょっと疲れが残ってんじゃないかなって思うんだよね……」
「そかそか……遠征も近いし、メンバーに選ばれようが選ばれまいが、しっかり休息とらないと後で大変だぞ。朝礼だって掛け声とかうるさいからな。ペリーの声は甲高いし、ゴルディうるさいし……部屋で休ませた方がいいんじゃないか?」
「そう思ってるんだけどね……」
そうだ、遠征も近いということをリオンに言われてから思い出した。パトラスからの「遠征メンバーに入れるかもしれない」という事を伝えられてから今日まで、特にそれに響くような大きな失敗はしていない筈だ。昨日夕食を抜きにされた為、パトラスがセカイイチを口にしたかどうかは知らないが、こうやって僕達以外のメンバーが無事だと言うことは大丈夫だったのだろう。
「女性陣って難しいよなぁ」
リオンがそう零した。リオンはステファニーと普段から仲よさそうだが、やはりそこらへん色々あったりするのだろうか。
僕自身は、悲しいことではあるが同い年位の女の子との深い交流が今までに多くはなかった為、基準がアカネなのかもしれない。
そんな事を、先ほどまでの状況を忘れぼんやり考えていた。
「あ、アカネ!?どうしましたの!?」
「え、え、え?え?大丈夫?あ、え、ど、どうしよう、カイトー!」
アカネをステファニーとフラーに任せていたのを思い出し、視線をそちらに向けると、アカネの背中が見えた。アカネの真正面に立っているステファニーとフラーが、何やら驚いたような、激しく動揺しているような、そんな仕草や口ぶりをしているのを見て何が起こったのかと不安になり、慌ててリオンと共に女性陣の方に駆け寄った。
「ごめん!アカネがどうしたの!?」
「よくわかんないんだよ、どうしよう……
アカネが泣いちゃって……」