食糧調達‐67
その日の朝はいつも通りだった。いつも通りと言えば、いつも通り。
朝の朝礼を終え、僕とアカネは朝一番に張り出された依頼を取ろうと思い、いつもの掲示板へと続く道へ何歩か踏み出した。
その時、ペリーの上ずった声が聞こえた。「お前達!」と、何かに脅えるようにして僕たちを呼び止めると、ぺリーはぱさぱさとこちらの方へ飛んでくる。
「お、お前達。ちょっと良いか……?」
「なに?」
アカネはドクローズの件でペリーにも良い感情を持っておらず、やや冷たい声でペリーに返事をした。僕は僕で、朝はアカネが電気がたまるだのなんだので余計ピリピリする時があるのを知っていたので、朝からいざこざが起きることを何となく恐れていた。
「ちょっとこっち来い」
そう言ってペリーは僕たちをギルドの隅の方へ連れて行く。何の話かと思っていたが、どうやら相当深刻らしく、ペリーの眉間には皺が寄っていた。冷や汗を垂らし、落ちつきのないペリーを見て、何か真剣な話だと察したのか、アカネは眉間のしわを伸ばす。
「どうしたの?ペリー」
「……黙ってないで何か言いなさいよ」
「……実は、昨日少ないながらあった筈の、倉庫の中の食糧が……今朝見たら、一気に減っていたのだ」
とんでもなく深刻な話だと思ったら、意外とそうでも無かった。深刻と言っては深刻だが、一週間分位の食糧調達ならば、一日でも一応出来るだろう。
「……つまり、私たちに食料の調達をしてほしいってわけ?それとも犯人探しかしら」
「要約するとそうではあるんだが……事はそう簡単ではないのだ。倉庫の中にあった食べ物が消えたのはもしかしたらベルが昨日使いすぎてしまったのかもしれない。私もあのときは機嫌が良くてな……ベルにどれくらい倉庫に残っているのか聞くのを忘れていたのだ。なので、とりあえず犯人が居ると言う極端な話は置いておいて、だ……」
ペリーの深刻そうな表情は、今尚続いている。そして更に、この話には続きがあるらしい。
「あの倉庫の中には「セカイイチ」という名前の、親方様専用のリンゴも食料と一緒に入っていた。……だが
、今回セカイイチだけが一つも残っていなかったのだ」
「絶対犯人居るって……」
僕が思った事をそのまま突っ込むものの、ペリーは困り顔をしながら話を続ける。「スルーね」と、アカネが小声で言っていて少なからず心に傷がついた気がした。
「……セカイイチは、とても大きくて甘い特上のリンゴなのだが、それが親方様は大好きでな……。
セカイイチがその日自分の食卓に並ばなければ……親方様は…………」
「パトラスが?」
「………と、とにかく……他の食糧は私が何とかする。だから、頼む。セカイイチをとってきてくれないか。本当に頼む……」
ペリーは土下座をする勢いで羽と羽を合わせ、僕達にお辞儀をした。良くわからないが、とにかく彼にとってかなり不味い事態だと言うことは分かった。
ドクローズがこのギルドに来た日の親方の「怒りの鉄槌」というのだろうか。それを若干ではあるが味わっているので、ペリーはそれを恐れているのだろうと想像した。
アカネは何となく納得出来てはいないようだが、渋々「わかったわよ……」と言っている様子だった。
「すまん……持って帰った暁には、報酬を出そう……」
「当たり前でしょ」
アカネはそう言ってフン、と鼻を鳴らす。報酬の事を聞くと、少しやる気が出たのだろうか。
ペリーの話では、その「セカイイチ」は、『リンゴの森』という、基本的にリンゴと果実一色の森の最奥部にあるらしい。
僕たちはこの時、この依頼を「簡単」だと思っていた。
途中で食物を拾ったりしながら、夕暮れ前までにリンゴの森最奥部にたどり着けばいい、と。
そう思っていたのだ。