ドリンクの味-61
「あ。あれアカネだ」
リオンが指さす方向を見てみると、確かに雌のピカチュウが居た。ひっそりとした場所にあるカフェだったが、意外とにぎわっている。アカネは、店長らしきパッチールと何か話しているようだ。パッチールは手で銀のコップを何やら重ねてシャカシャカやっている。それをしながらよく喋れるな、と思った。
そう思っていると、一匹のポケモンが僕たちの方へ近づいてきた。ピンク色と白が多めのポケモンで、リボンが可愛らしいポケモンだった。あまりに綺麗だったのでついつい見とれてしまったが、ステファニーがそんなぼくを尻尾で軽く小突いた。
「いらっしゃいませ!当店は初めてでしょうか?」
「あ、はい……」
いきなりで戸惑い、そんな風に返事をしてしまったが、後ろの方でリオンとステファニーがこそこそと話している。そちらに耳を傾けてみた。
「見たこと無いポケモンだな。なんて種類だろ」
「たしか、ニンフィアだよ。イーブイの進化系なの。嗚呼、可愛いなぁ、綺麗だなぁ、私もあんな風になりたい。ニンフィアに進化したいなぁ……」
うっとりとしているステファニーと、不思議そうな顔をしているリオンは、聞こえないように話しているつもりなのだろうがダダ漏れである。目の前の、ニンフィアらしきポケモンは、それでも笑顔を崩さなかった。何となく笑顔が、種族的にステファニーに似ている。
「当店では、食材をお持ちいただきますと、あちらにいるパッチールのエルフがドリンクに変えて提供させていただくんです」
「食材もってたっけ」
「あ、グミと林檎なら持ってるよ」
良かった。つまり、この店はお金を払って何かを出す店では無いということだ。少し変わっているな、と思ったが、それもそれで頭が良い商法なのかもしれない。
「ところで、貴女は?」
「あ、すいません。私はレイチェルと言います。種族はニンフィアです」
丁寧に付けたした。とりあえず、ニンフィアで間違いないらしい。
「あの、レイチェルさん。あそこのピカチュウって……」
「?……お知り合いでしょうか?」
「あ、探検隊のチームメイトなんです」
「そうなんですか!あ、じゃあ、貴方はもしかしてチームクロッカスのカイトさん!最近有名なんです!もしかして、そちらのお二人方はチームブレイヴの方ですか?えっと、リオンさんとステファニーさん!」
「あ、はい……そうです」
「わわ、すごい……あ、すいません。ちょっと、私そういうの好きで、舞い上がってしまうんです。あは……では、こちらへどうぞ」
ニンフィアは、体から延びている長いリボンのような物で、僕達が歩くように促す。その通りに進むと、アカネの隣まで連れてこられた。
「アカネ?」
「……ん?あんたなんでここいんの?」
「いや、こっちの台詞って、いうか。水飲みに言ったんじゃなかったっけ?」
「好奇心よ、好奇心。出かける前にくつろいだっていいでしょ。突っ立ってないでさっさと座んなさいよ」
アカネに地味に睨まれ、渋々席に座った。目の前に居るパッチールことエルフが、「いらっしゃい〜。何に致しましょう?」と、和やかな口調で言った。
「アカネ何にした?」
「今林檎百パーセント飲んでるとこ。結構美味しいわよ」
「じゃあ、僕もそれにしよ」
「私透明のグミあるから、それで……」
「俺はオレンの実で」
一斉に注文されても、食材を取り上げて手際よく作っていく。なるほど、腕が良いな。その後飲んだ「林檎百パーセントジュース」もとても美味しかった。良い店を見つけた。また来よう。
オレンの実のジュースは若干毒々しいような色になっていた物の、リオンは嫌な顔一つせずに飲んでいた。「おいしい?」と聞くと、「すごい美味い」と答える。ステファニーも同様の反応だった。
店を出ていく時、あの看板娘が送ってくれるのはとても心地が良い。アカネもなんだかとても満足そうな顔をしていたので、今日は依頼がスムーズに達成できそうだ。