仲直りをしよう-58
親子仲良く待っているなんて、出来る筈も無かった。母さんから締め出された後、ずっと部屋で父さんと一定の距離を取りながら喋っていた。それは主に、アカネの事だ。
「しかし、お前があんなに可愛い子連れてくるとは思わなかった。やるな、お前」
「……空気読めよ。そんな愉快な話する気分だと思うの?」
「大丈夫だって、母さんは上手くやるから」
「へえ」
フン、と顔を背け、バッグの中の不思議玉を磨き始める。母さんの事だから、きっと僕の昔の事を何でもかんでもアカネにふきこんでるんだ。アカネは更に僕の事を嫌いになるかもしれない。そうなったら、どうしてくれるんだよ。
アカネには、嫌われたくない。最初は、本当に嫌われてるのかと思ってた。だけれど、少しずつ心を開いてくれていると感じていたのに。なんだか、不安で不安で仕方が無い。
……アカネに、会いたい
「…………」
気まずい空気が流れている所に、トントン、とノックの音。もしかしてと思い、立ち上がろうとすると、ドアの近くに居た父さんが既にドアを開けていた。小さく舌打ちする。何でもかんでも、邪魔してほしくないのに。
「ガリュウ。あなたは出て。暫く二匹で話をさせてあげて」
ドアの前に立っていたのは母さんだったが、その陰からアカネが、ゆっくりとこっちに歩み寄ってきた。思わず、もう一度立ち上がるとアカネの方へ駆け寄る。また泣いてない?辛くなかった?嫌なこと言われなかった?
悶々とわき出てくる感情を抑え込み、出て言った二匹の後を見て、ドアを閉めた。そのまま、屈んでアカネの手を握ると、アカネをアカネ自身のベッドに連れていく。
アカネをそこに座らせると、自分も直隣のベッドに腰掛けた。
「…………」
「…………」
気まずいが、それは当たり前だと思う。僕は戸惑ってはいなかった。真剣な顔つきをしている筈だ。多分。
アカネは不安そうに目を伏せていた。お互い何を話せばいいか分からないが、とりあえず歩み寄らなければ、どうにもならないと思う。
「アカネ」
「…………」
「ごめんなさい」
僕は、そう言って頭を下げた。アカネはふと顔を上げ、驚いた顔つきをして僕を見ている。
「な、何で?」
「あの、早とちりして。母さんとか父さんがどう言おうと関係ないよね。さっさと自分の事認めてほしくて、何か、色々言っちゃった。ごめん」
「べ、別に!別に、あんたが行ったことなんてこれっぽっちも耳の中に入ってないわよ!……ただ……」
「……何?」
「自分が言ったことが気がかりだった」
そう言って、またアカネは俯く。僕の事を「仲間だと思っていない」と言ったことを、気にしているのかもしれない。そうだ、僕もあの言葉は気になっていた。
「……仲間だと思ってない何て言って、悪かったと思ってる。でも、分かんないのよ」
「うん……」
「あんたのことどう思ってるのか、私、良く分かんないのよ」
そう言って、歯を食いしばるようなしぐさをするアカネを見て、なんだか少し辛くなった。自分で自分の事を分からないのが、どれだけ不透明に見えるか、考えただけで、なんだか、本当に辛い気がして。
「そっか」
「ねえ、あんた、それでもいいの?私、きっとあんたに対して思ってる事、言わないよ?言いたくないことは、自分からは言わないのよ?」
「それが普通だよ?いいよ、それで。大丈夫、僕は大丈夫」
「私、何か鈍い?自分の感情、良く分かんないし。分かった事だけストレートに言うし、これって、鈍いってこと?」
「アカネって確かに鈍いよね。色々。頭はいいのに、身近に感じていることには気づかないし」
「…………ねえ、カイト」
「ん?」
「私があんたの事、ホントはどう思ってるのか分かるくらい、私に、その、接して。信頼してほしいと思ってるなら、その……私が分かるくらい信頼させて。もう、主導権握ってるの私とか、そういうのはもういいから。チーム解散とか、そういうのは、ちゃんと話し合って決めるから。…………勢いで喋りすぎた。ごめん」
「はは、もう。我儘だなぁ、いつも通りだよ」
そうは言った物の、アカネは「いつも通り」では無かった。
まるで、何かを手探りで探しているかのような、そんな様子で、少し、壊れそうで。母さんが何を吹き込んだのかは知らない。知らないけれど、それでも。
嬉しかった。今までで、一番