気持ちの違和感-52
カイトに言いたい事を伝えた後、私は直にその部屋から出た。特に混乱もしていない、勢いで言った言葉でも無かった筈なのに、何故か後悔はしていなかった。
私は、カイトを仲間だと思っていない。その通りかもしれない。信頼を感じたこともあった。あったけれど、それは直に消えていく。変わったことと言えば、カイトのイメージだ。ただの同居人。だから、気が向けば寝ているカイトを起こすし、気が向かなければそのまま置いて、朝礼に出る。あいつが怒られようと、知ったことではない。
結局、私は何も変わっていない。前に、少し自分は変わったかもしれないと思ったことがあったけれど、今日の事を経て、良くわかった。私は、何も変わって無い。感情がある生き物は信じられないし、自分の気持ちを伝えることも出来ない、間抜けな元人間。馬鹿みたい、自分が頭良いようなフリして、ほんと、馬鹿みたい。
割と速かった。遅かれ早かれこんなふうに衝突する事は分かっていたし、そろそろ潮時かなと思う。私は探検隊を止めて、野宿して、ダンジョンで食糧集めして、ふとした時に死んでる。何故自分がこうなったかもわからず、死ぬんだ。
……そんなの嫌よ。ふと、思った。じゃあ、どうすればいい?それが嫌なら、私は一体、どうすればいい?
分かっている筈なのに出てこなかった。分かっているだけど、どう考えて、どう言葉に出せばいいか、分からない。
「……あ、アカネだ」
「アカネ〜。何してるの?」
てくてく、てくてくと、二匹のポケモンが歩いてきた。ステファニーとリオンだろうか。きっと、仕事が終わったのだろう。少し疲れた様子で帰ってきている。夕食前だというのに、リオンは林檎まで齧りながら歩いている。そんな二匹の姿を見て、少しモヤモヤと、胸に違和感を感じた。
「別に。散歩よ、散歩」
「そっかぁ、私達丁度依頼終わって帰ってきた所なの。結構な収穫でね」
「まぁ、ステフィ歩いてるだけだったけどさ」
「だってリオンやる気満々だったから譲っただけだよ〜」
この会話、なんだかとても懐かしいような、そうでないような。本音のぶつけ合いが、こんなに幸せそう何て、知らなかった。
「……アカネ、何か元気ないね」
「べ、別に……そんな事無い。ちょっと、私も依頼で疲れただけよ。依頼人がとんでも無い奴で、疲れただけ」
「そうか。きっとカイトも疲れてんだろうな」
「……カイト……?」
「女の子って、色々疲れるから。何考えているのか、分からないし、やっぱり男と女って感じだから。上手くかみ合わない事、多くてさ」
「ちょっとリオン。どういう意味?」
「怒るなって、そのまんまの意味だよ」
嗚呼、可愛い。いいな。頬を膨らませているステファニーが、とても可愛らしく見えた。私も、あんなふうに素直で、可愛かったら、何か違っていたのだろうか。
「……あ、そうだ。ちょっとその二匹、ここ座って、ここ」
ギルドに設置してある椅子に、私とリオンは座らせられる。その場所からは、このギルドに出入りしているポケモン達の面々を見ることができた。以前はこう言う場所が落ち着かなくて、嫌いだったけれど、不思議と大丈夫だ。
「アカネに、朝礼の後キュウコンと救助隊の伝説の話するって言ったの、覚えてる?」
「ああ、そう言えばそういうこと……今日一日が、すごく長くて、忘れてたかも」
「今、ここでするのか?」
「うーん、ご飯まで少しだけ時間あるし、ぱっぱと話そうかなって」
そう聞いた途端、少し気になり始めた。伝説の救助隊、ガーベラ。あの二匹は一体、何者なのか。
「じゃあ、話すね。これは約――年前の話」
ステファニーは、物語を紡ぎ始めた。