僅かな痛み-50
「……カイト、ちょっとこっちきて」
セオが帰った後……先ほどから黙りこんでいた母さんが、口を開いた。父さんが手招きをし、僕は食堂の方へと誘導される。ただ一匹、アカネを残して。アカネは何も感じていないような顔で、自分の部屋へと戻っていく。その姿か、なんだか少し寂しそうに見えた。いや、寂しいのは、僕かもしれない。
「……アカネちゃんとは、どうして出会ったの?」
食堂の奥、隅の方で、僕は二匹に壁に追い詰められ、尋ねられる。その原因は明らかで、きっと、先ほどのアカネの言葉が引っかかっているのだろう。「僕が脅されている」ということに。
しかし、その質問には、上手く答えられない。だって、それを言うと言うことは、アカネの秘密を告げ口してしまうと言うことだ。アカネがどう思っているのかもわからないのに、そんなの言えない。
「…………」
「じゃあ、質問を変える。探検隊を結成したいと言ったのは、どっちなんだ?」
「……僕」
「アカネちゃんは、どう言ったの?」
最初は、嫌がっていた、なんて言えない。そうしたら、きっと二匹はとても嫌な気持ちになるだろう。無理やり誘って入門させたなんて、そんな事を言いたくはない。
「……関係ないでしょ」
「親として言ってるんじゃない。同じ種のチームとして言ってるの。アカネちゃんに脅されてるってどういう事なの」
「いいじゃない……。放っといてよ!!」
「カイト!待て!」
僕は、その場から走る。ただ走って、ついた場所は「サメハダの岩」だった。トレジャータウンを抜けて、その先にある、サメハダの形をした崖の事だ。
ここの風景が好きだった。世界を一望できる、そんなところ。アカネと出会った海が、やっぱり一番好きだけれど、ここもすきだった。
嗚呼、そういえば。あれ以来忙しくて、あそこには行ってないな。
「……戻ろ」
アカネと、ちゃんと話さないと。そう思い、振り向いて、足を動かし始めた。