襲撃者-46
「早くしないと夜になる。さっさとやるわよ」
「うん、それは分かってるけど……盗賊の痕跡とか、何もないよね」
「あのコリンク、頼んでくるわりにはなにも言わなかったわね。覚えてないとは言ってたけど、本当にそうなわけ?」
「アカネ、難しく考えすぎだよー……きっと、本当に覚えて無かったんだよ。どこで救出されたかも良くわかって無かったみたいだし」
アカネは、本当に考えすぎだと思った。アカネは頭が良い分、少し深く考えすぎてしまうところがあるのかもしれない。そういうところで、助けられたこともあるけれど。それよりも、コリンクの相方が襲われた場所だ。不謹慎だけれど、床に血でも広がっていれば直にわかるだろう。しかし、その盗賊というのはいったい何者なのだろうか。おそらく、一人ではないだろう。あのコリンクも、よほどレベルが高いようには見えないし、一体どんな敵なのかもわからない。
僕は、アカネから再び目を話して目の前を凝視する。大きな体の二匹が、のしのし僕たちの目の前を歩いている。本当に、どうしてだろう。どうして、僕にそんなに構うんだろう。僕はもう18だ。親の手を借りなくても出来ることは多いし、むしろそうじゃない方がどうかしている。親をうっとおしく思う年頃だと言われても構わないけれど、ただ、どう接していいか分からない。
アカネには本当に悪いなぁ、と思っていた。親子団体に一人だけ放り込んでしまって、きっと気まずい思いをしているんだろう。
「……ねえ、ちょっと止まってくれる?」
母さんがこちらを振り返り、キュッと口をとじた。
「何だよ、かあさ……」
「黙って」
母さんに反発しようとすると、うしろからアカネが飛びつき、僕の口を押さえこむ。そこで僕は、ようやく気付き、口をキュッと閉じた。アカネが僕の体から静かに地面に足を付けると、目を尖らせ、辺りを見回す。
「……何か来てるよな?」
「来てるわね」
僕にもそれは分かった。木々が大きく揺れているのが聞こえる。風とかではない。もっと、重い、重い何かが木々を飛び越えているような、そんな……。
「アカネちゃん!避けて!」
「アカネ!」
ドン、と、砂埃と煙が舞い上がる。あの紫色の球は、シャドーボールだ……!いったいどこから、そう受けとった次の瞬間、何かが激しくぶつかり合う音がした。
「アカネ、大丈夫!?」
「ええ……」
アカネも間一髪避けており、無傷だったが、同じく「音」に驚いたらしい。急いでチーム・ガーベラの二匹の方に振り向く。
マジカルリーフに火炎放射、一目で両親が放ったものだ分かった。しかし、それでもシャドーボールはこちらへ飛んでくる。いったい何なんだ、何だ!?混乱を隠せずにいる僕を、アカネは腕を引いて木の後ろに寄せた。
「アカネ……!」
「落ち着きなさいよ!なにうだうだしてんのよ!」
「…………うん。……あの、相手の正体は?」
「分からない。ただ、あの二匹は私たちの立てになって戦ってるつもりよ。つまりあの二匹はもう敵の正体がわかってる……」
「え、それじゃあ……」
言葉を口に出そうとした瞬間に、バン、と、後ろの木が破裂する。僕はアカネの肩を掴むと、間一髪攻撃を免れた。しかし、少しでも安心したのが悪かった。
「なにあれ……」
僕たちの目の前には、紫色の大きなポケモンが佇んでいたのだ。