時間と溝-45
私達は、再び先ほどのダンジョンに戻ってきた。まだ時間もあったし、もたもたしていたら、今回の対象、盗賊団にも遭遇できる確率が低くなる。コリンクの仲間を襲った盗賊、その仇打ちだ。なんとも、くだらないことだと思う。私たちの職業はあくまで「探検隊」である。仇打ちなんてものは、探検隊の「た」の字も擦っていないような内容の依頼だ。くだらない。けれど、しかたなく引き受けたと言う感じの割に、億劫な気持ちにはならなかった。
私たちの目の前を、のっしのっしと歩く巨大な二人は、周りのポケモンを弾き飛ばすようにえいやほっさと殴り飛ばしている。なんて凶暴な夫婦だろう……あまり争いを好まないカイトが、本当にこの二匹の間から生まれてきたのだろうか。いや、この二匹もそこまで争いを好むタイプには見えないが、「やるときはやってやる」という精神が見える。こういうところは、きっとプロなのだろうと感じた。
「……あの」
私は少し戸惑いながらも、目の前の二匹に声をかけた。双方、私の方を振り向き、同時に「何?」と返事をする。本当に、息ぴったりの夫婦だ。
「お二人は、探検隊ではなく救助隊な筈ですよね。いいんですか、仇打ちだなんて。ぼこぼこにしてダンジョンに放置したら、元も子も無いじゃないですか」
「……まぁ、確かにそうだよな。結構疑問に思う所はあると思う。アカネは頭が良いな。カイトは、俺達がここに居ることに頭がいっぱいで、そこまで気が回らないみたいだし」
「ちょっと、父さん余計なこと言わないで」
そう言って、カイトはガリュウを睨みつけた。ガリュウは、少し鋭い雰囲気の顔つきとは真反対の、微笑みあきれるような表情をした。私がカイトと出会ってから少しは経つ。息子と話していられるのが嬉しいとか、そういうことだろうか。
しかし、空気がピリピリしているようだ。つい、体に力を込めてしまう。ばちばち、と頬袋の電気が渦巻き始めた。
「アカネ、あまり緊張しなくていいよ。落ち着いて」
カイトが小さな声で話しかけてきた。私も、小さな声でそれに答える。
「何よ、あんたの方が落ち着きなさいよ。ずっと不貞腐れて、仕事になんないじゃない」
「……ごめん。ちょっと、なんか変な感じで。ずっと会ってなかったから、どうしていいかわかんなくて。僕の中のバランスが、ちょっと崩れちゃって。ごめんね」
「……あんたの両親、すごいのね」
「え?」
目の前を歩きながら辺りを見回す、その両親を見つめた。体が大きくて、圧倒される。だけれども、それ以外の何かが、彼らの体内を渦巻いている、そんな気がするのだ。
「話しながらでも、目の前、左右、上下、どれにも警戒の糸を張ってる。見ててわかるけど、とてつもなく強い」
「……そうだね」
「あんた、それあんまり良く思ってないでしょ」
「……はは、どうかな?」
カイトはそう言って、私から目を背けた。あんたに何があったかなんて、私は知らないし、知るつもりも無いけど。
「……アカネは、そういう事とか、無かった?」
「例えば?」
「コンプレックス」
「……さぁ、あったんじゃないの」
そろそろ、空が赤くなってきた。