ガーベラ-41
____これを読んでいるということは、つまりまたこの場所に現れたということか。話は聞いている。どうやら、歯車の一つを手に入れることに成功したらしいな。こちらは、今の所収穫は無しだ。奴らも現れる気配は無い。だが、油断はできない。すでに奴らにも歯車の事は耳に届いている筈だ。彼らが居る限り、奴らは俺に手は出さないだろうが、油断は禁物だ………なんて。俺が言わなくてもお前なら分かってるか。それと、はぐれてしまった彼女も見つかっていない。探してはいるが、痕跡一つ見つからない。別の大陸に飛ばされた可能性もあるが、あの時間の長さから考えてそれは無いだろう。………実は、彼女と……。すまん。余談だった。とにかく、こちらはこちらで調査を続けようと思う。お前も頑張れ。じゃあな____
「………そうか。見つかって、ないのか」
お前は今、何処に居るのだ。何をしているんだ。
「…………」
*
「なんであんた布団入ったままなのよ。ふざけんじゃないわよ」
「いたたた……お腹が……いたた……」
「嘘つかない。炎ボウボウ言ってんじゃないの。早く行くよ。遅れるでしょ」
「アー!!!つらい……」
私はカイトの尻尾を引っ掴むと、両手でどうにかこうにか引き摺りながら朝礼に向かった。通路から出てきた私たちを見て大笑いの嵐が巻き起こり、ペリーの「お黙り!」という声によってその笑いはかき消される。あからさまに嫌そうな顔でカイトは朝礼のいつもの位置に立った。何がそんなに嫌なのだろうか。いつものカイトらしくない事は何となくわかった。
「えー……昨日も言っていたように、隣の大陸から救助隊の方々にお越しいただいた。くれぐれも失礼の無いように!……それでは、ガーベラの方々、どうぞ」
ガーベラ、そうペリーが口にした途端に、辺りがざわめき始めた。どうやらここに居る弟子たちも知っているらしく、顔を赤くする者や困惑した顔をする者が居る。その中で明らかに浮いているのは、隣に居る赤いトカゲだった。顔を真っ青にし、冷や汗が滝のように流れている。
「ちょっと何よ」
「あああ………ああ……」
青い顔で震え始めたので、本当に気分が悪いのではないかと思い心配になる。と、同時に、弟子たちから歓声が上がった。どうやら、救助隊が現れたらしい。カイトの腕を掴み、込み合ってるところを押しのけ救助隊の顔を見た。
「あ………昨日の……」
救助隊は二匹。その片方が私の方を見て声を上げる。それは、昨日私がぶつかったメガ二ウムだった。その隣にはリザードン。私の手から逃れようとするカイトの腕を思い切り握りしめると、カイトが「痛い!!痛い痛い!!」と声を上げた。どうやらこの二匹と顔を合わせないようにしているらしく、必死に弟子たちにまぎれている。
「せ、静粛に!静粛に!!」
途端にシン、と場が鎮まった。弟子たちが元居た場所に戻り始め、前に居るメガ二ウムとリザードンは安堵の表情を浮かべる。「僕ちょっと気分が悪いから……」と、逃げようとするカイトの腕を捻り上げると、睨みつける。
「えー……お前たちも知っているだろう。隕石による世界の破滅。それを食い止めた伝説の救助隊。チームガーベラのお二人だ」
見れば、みんながみんな憧れの表情を浮かべ、うっとりとしている。まさかのサプライズに心から嬉しさがあふれだす……そんな様子だった。私にはまったくわからないが、あの二匹がとにかく凄いポケモンなのだな、という事は何となく分かる。
そして、そのガーベラとこの赤いトカゲがいったいどんな関係にあるのか。私には想像もつかないし、知り合いにさえ見えない。共通点は、リザードンがヒトカゲの最終進化系だと言う事だけだった。
「皆さんはじめまして。救助隊チーム、ガーベラと言います。私はリーダーのサラ、と言います」
「俺は副リーダー、ガリュウです」
二匹してそう言うと、頭を下げお辞儀をする。どうやら、メガ二ウムはサラ、リザードンはガリュウというらしい。二匹が顔を上げ、サラの方は辺りを見回す。弟子たちの顔を覚えているようだが、こちらに目が向いた時、ふと固まってしまった。
「あっ……」
少し声を上げると、ガリュウもこちらを見る。すると、彼も驚いた顔をして固まる。その先には、私ではなくカイトが居た。
「カイト………?」