花の美女-40
その日は、ステファニー、リオンと共に二つのチームで依頼に出かけた帰りだった。トレジャータウンに立ち寄り、私たちの話題は「時の歯車」の話になっていた。少し前に盗まれた時の歯車は、今どこにあるのか、誰が盗んだのか。という話題だ。ステファニーは「許せないよね……」と少し俯き、力無く言う。この世界のポケモン達にとって、時の歯車というのはとても大切なものなのだろう。目に触れた事が無くとも、ここまでのダメージなのだ。警察が調査しているらしいが、一向に犯人は現れない、らしい。
調査協力の要請は今のところギルドには来ていないが、犯人みつかればどうなるか分からない、とリオンは言う。
「時の歯車を全部とっちゃったらどうなるのかなぁ……なんて考えてたんだけど、どう思う?」
「んん……多分世界の時が全て停止しちゃうんじゃないかと思うんだよね」
ステファニーのその言葉に、リオンはぴくりと反応した。その顔には、不安の色がにじんでいる。ふと、リオンは何かを知っているのではないかと思ったが、そんな訳は無いと首を横に振った。
「アカネ。僕先に帰っとくね。何か眠くて」
「嗚呼、気をつけなさいよ。階段に躓きそうで怖いし」
「分かってるよ〜。ありがと」
そう言うと、カイトは小走りでギルドの方へ向かった。少しだけ手を振ると、二匹の方を振り返る。と、同時に二匹が変な顔でにやついているのが目に入った。何なのだ。一体。
「アカネ、何か性格柔らかくなったこと無い?」
「………は?」
「いや、何か前はカイトがあんな事言っても「ふーん」一つで済ませてたような」
「………あ、いや。その」
「実質どうなんだ?ん?」「おとなしく吐きたまえよ!」と私にぐいぐい迫る二匹は、それはもう息ぴったりで、まさにコンビだ。吐くって言ったって、何を吐けば。そう思った時、ちゃんと前を見ていなかったがために何かに衝突する。何か大きい物で、見ればステフィもリオンも驚いた顔をしていた。
トレジャータウンのど真ん中だったため、自分が気を抜いてしまったことに気付く、あわてて前を向くと、目には黄緑色の鮮やかなポケモンが映っていた。
「あ、ごめんなさい。お怪我は無い?」
「い、いえ……大丈夫、です」
大きな花に、大きくて綺麗な体。それは、メガ二ウムというポケモンだった。随分整った顔立ちをしていて、女の私からしても「綺麗」と口を零してしまうほどだった。彼女は「お詫びに」と、私に林檎を渡すと、丁寧にお辞儀をして通り過ぎていく。
「……わわ、すごい綺麗なポケモンだったね!!すごい優しいし、素敵だなぁ」
そう言って目を輝かせるステファニーに、「あんただって可愛い癖に……」と吐き捨てたくなった。本当に顔立ちが整ったポケモンは良い物だ。しかし、顔でポケモンも判別できるのだな、と思う。正直ポケモンになってから自分の顔をあまり見ていないし、人間の時の顔も覚えていない。自分は周りからどう見えているのか、分からなかった。
「それにしてもここらじゃ見ないポケモンだったな。他の大陸から来たのかな」
「あ、確かにそうだね……」
「他の大陸?」
この世界一色かと思ったら、大陸があるのか。それは知らなかったな。まぁとにかく、今頃部屋でカイトがいびきをかいている頃だろうから、ギルドに帰ろう。そう思い、二匹を連れて急ぎ足でギルドに向かった。
*
「えー……夕食の前に」
夕食時だった。帰ってきて、爆睡していたカイトを見て、自分も仮眠を取った後、鈴の音により夕食によばれた。さあ、いざ食べよう、というところでペリーがストップをかけ、現在ペリーにブーイングが飛んでいた。「静粛に!」と怒鳴りつけると、静かになり、ペリーが何かを話し始めた。
「明日、隣の大陸では有名な救助隊がこのギルドに足を運んでくださる事になっている。何日かこのギルドに居てくださると言う事で、失礼の無いようにな。おそらく朝礼の時に紹介する事になるだろう。………では、止めてすまなかったな」
救助隊とは、探検隊と違い救助活動を主にしている団体の事だろうか。カイトに聞こうと思い、隣に振り向くと、カイトの顔色が良くなかった。何かに脅えているような、不安なような。そんな顔で冷や汗を垂らしている。
「ちょっとどうしたの」
「え!?あ、いや、なんでもない……」
食事が終わった後も、こんなぎこちない会話は続いた。