ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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一章 茜色の花歌
チーム・ドクローズ-39
「そう言えば」
 朝。早く目が覚め、朝礼に向かう準備をしていた。アカネが何かを思い出したかのように僕の方に振り向く。手にはバッグ。中には探検に必要最低限の物が入っていて、嗚呼、アカネも探検隊のポケモンなのだな、と思わせられる。
 その成長が嬉しくて、もう最初にした約束などとうに忘れているのではないかと思った。それでいいのだ。それでいてほしい。ずっとアカネと、探検隊を続けていたいのだから。
「ペリーが言ってたあれ。なんたらの歯車。結局何だったの?」
「時の歯車の事?そういえばアカネはこの世界を知らないんだったね。時の歯車は、この世界の時を司る物、っていうのかなぁ。世界の、何個にも分かれた心臓のようなものだと思ってるんだけど。ペリーが言ってたように、それをその場所から動かしたら一帯の時が止まっちゃうんだと思うよ。だから普通なら、どんな凶悪なポケモンでも近寄ろうとはしない」
「あんたは、その時の歯車っていうのの在り処知ってんの?」
「そんな、とんでもないよ…。時の歯車は今までの目撃例は無いと言っていいほどなんだ。誰も近寄れないような、見つけられないような場所にあって、多分その地域のポケモン達が守ってるんじゃないかな」
 ふうん、というと、アカネは少しすっきりしたような顔をした。どうやら昨日、ペリーに突っかかられたのがどうも引っかかっていたらしい。案外気にしやすいタイプなのかもしれないな、と思い、くすりと笑った。そうすると彼女は、ぎろりと僕を睨むとバッグを抱えて先に朝礼に向かってしまう。
「あ、アカネ!!待ってよ」
 そんな事を彼女に叫ぶと、僕もバッグを持って朝礼に向かった。
 *
 この日は、いつも通り、依頼を遂行する日となった。ペリーに背中を押され、僕たちは掲示板のある階に向かう。「今日も頑張ろうね!」「言われなくても分かってる」なんて日常的な会話をしながら、掲示板に向かっていた。
「……ちょっとストップ」
「は?」
 掲示板の方を見た次の瞬間、僕の手はアカネの前に出る。そして僕の目に映ったのは、ふかふかと体が浮いた毒々しい色の球体と、色の可笑しい蝙蝠だった。彼らは前に見たことがある。アカネは覚えているのか覚えていないのか、誰かわかっていないのか。「なんなのよ!」と僕に怒鳴りつけていたが、僕はそんなことはあまりきにならなかった。
 何故彼らがここに居るのだろう。一般市民だった僕らに襲いかかってきた彼らが、何故ここに。
「……あ」
「アカネも気づいた?あいつらだよ。なんでここに」
 彼らはポスターを舐めるように見ていた。おそらく簡単で報酬の良い依頼を探していたのだろう。救助要請された日時や状況を見るのは基本だと思うのだが。まぁ、これも僕の勝手な考えにすぎない為、実質どうなのかは分からないが。
 アカネはアカネで馬鹿を見るような目で彼らを睨んでいる。そんな僕たちの視線に気付いたのか、彼らは僕らの方へ振り向いた。
「……!!お、お前ら……!」
「あの時の!!」
 再会お決まりと言っていいほどのセリフを僕達に吐きつける。彼らの周りにはみるみるうちに敵意が漂い始め、僕達も彼らを睨みつけた。
「何でお前らがここにいんだよ」
「それはこっちのセリフだよ。お前達がどうしてこんな所に?逆だよね普通」
 僕がそう言うと、彼らは少しひるんだような顔をする。どうやら逆の立場、というのはよくわかっているらしい。しかし、この場所に居ると言うことは彼らもおそらく探検隊ということだ。
「はっきり言って不向き」
 心の奥の声に従い、そう吐き捨てた僕に、アカネは驚いた顔をしてこっちを見た。僕が誰かの悪口を言うようなポケモンに見えなかったらしい。
「確かに俺らは探検隊だ。だが、お前らもここに居ると言うことは探検隊なんだろ?不向きなのはどっちかなぁ?」
 そう言うと、二匹は僕に襲いかかってくる、と思いきや僕の体を力ずくで押し、自分達の居た場所に引きずり込んだ。腹が立った僕は、左手に居るズバットを思い切り跳ね返す。彼は地面にたたきつけられ、「うぐっ」と情けない声も上げた。ダメージは少ないだろう。
「ちょっと!あんたそんな事していい訳!?」
 ギルド内ということもあり、手を出すのは良くない。アカネはそう言いたかったのだろうが、僕の中には彼らに対する嫌悪感しかなかった。そんな大したこともやられた覚えは無いが、どうしてか。
 「喧嘩か?」と、周りのポケモンの目が僕達に集まり始めている。流石にドガースもズバットも気まずくなったのか、黙り込んだ。
「……ケッ。お前らだってまだ弱い癖に、探検隊なんて見栄張りやがって」
「弱いのはどっちよ。今私達とあんた達が戦えば、こちらの勝利は目に見えてる」
「ふん。あの時は兄貴が居なかったからな」
「へえ、あんたたちはその兄貴ってのが居ないと何にも出来ないのね。負け犬じゃない」
「う、うるせっ……!この臭い………」
「におい?」
 確かに、少し臭った。何の臭いか分からないが、こう、鼻を突くような臭いだ。アカネも鼻を押さえ、「何これ……」と不愉快そうな顔をしている。彼らはなぜか平気な顔をし、ニヤニヤと階段の方を見ていた。
 何かが、降りてくる。そう思った。どしどしと、何かが下りてきている。近づくにつれ強烈になっていく臭いに、全神経が逆立つ。
 降りてきたのは、巨大なスカタンクだった。スカタンクはアカネの方を睨みつけると、後ろを向き、目に見えるほどの何かを吹きかけた。
「な、ちょっ!!!」
 途端に先ほどとは比べ物にならないほどの強烈な臭い。下手すれば倒れてしまいそうだったが、その臭いの中でアカネは普通に鼻を押さえている。この時はさすがに驚いた。
「ほう。気絶しないとは、なかなかやるな。こいつ」
 その臭いで、周囲のポケモン達は騒ぐ。もろに受けたアカネは目を潤ませながらも臭いを払っていた。
「グロム兄貴!!こいつらっすよ!前話してた!」
「エター、クモロ。確かに聞いた通りだ。俺たちはチーム・ドクローズだ。お前達。俺たちの事良く覚えておけ。特にお前な」
 アカネの方をみると、彼らは階段を上り、上へと上がっていく。アカネはまとわりつく臭いに不快そうな顔をし、「水浴びしてくる!!」と叫んで、食堂の方へ向かった。
「……エター、クモロ、グロム……」
 ズバットのエターと、ドガースのクモロ、スカタンクのグロム………
「嗚呼もうなんか憂鬱だなぁ」
 そんな事を思いながら、まだ臭いの残った部屋で、ポスターの依頼に目を向けたのだ。


ミシャル ( 2014/07/12(土) 13:09 )