夜の呼び出し-38
夕食を終え、僕たちは部屋でくつろいでいた。否、アカネは完全に爆睡していた。今日のあんだこんだで疲れてしまったのだろう。毛布も掛けずにベッドですやすや寝息を立てている。僕は毛布を手に取ると、そっとアカネに掛けた。ふと、毛布を持ったまま手が止まる。丁度僕の居る所から窓が見える。綺麗な月が顔をのぞかせ、暗い筈の部屋を明るく照らしていた。部屋の隅に置いてあるランプは、あまり使っていないな、と思う。いつも依頼から帰ってきて、食事を食べると直に眠ってしまうため、ランプはあまり必要なくなっていた。
「お前何寝込みを………」
「………んぁ!?」
そんなことを考えていると、部屋の前にはペリーが堂々と佇んでいた。気付かなかった。考えに浸っていて全く気配に気付けなかったのだ。
アカネは何かもごもごと寝言を言って寝がえりを打つと、僕の持っている毛布を思い切り引っ張った。毛布は僕の手を離れ、アカネはキャタピー状態である。
「二人部屋だからってイチャイチャせんでくれ……」
「いやしてないよ!?ていうかどうしたの?」
「うっさい」
眠っているアカネが目を覚まし、僕の足に思い切り尻尾を力いっぱい叩きつける。そんなに痛くは無いため我慢しているが、とても機嫌が悪いようだった。目付きが鋭い。
「お前達。親方様がお呼びだ。直に部屋まで来るように。」
起き上ったアカネが、肘をつきながら「はい?」と鋭い声で言う。アカネの肩を叩いてあやすと、僕とアカネはペリーのあとに続き、パトラスの部屋へ向かった。
*
「こんばんは。いきなり呼び出してごめんね」
満面の笑みでパトラスはそう言った。絶対に反省していない。そもそも反省するほどの事でもない筈だが、謝ったのは隣の彼女がとてつもなく不機嫌だからだろう。眠りを妨げられ今にも食いかかりそうな勢いである。
「アカネごめんね、すぐ終わるから。実は、近々遠征をするんだけど……」
「遠征?」
遠征と言うことは、どこか遠いところまで行き探検すると言う事だろうか。しかし、何故よりによって新人の僕達に声をかけたのだろう。それは分からなかった。パトラスは相変わらずにこにことしていた。
「で?その遠征が何」
「おいアカネ。親方様に失礼だぞ」
「はは、いいんだよペリー。元々呼びだしちゃった僕が悪いんだから。」
嗚呼、なんて良い人なんだろう。咄嗟の出来事にそう思う。アカネも機嫌を直せばいいのに、と思いながら一回、二回とアカネの肩をぽんぽん叩いた。
パトラスの表情は相変わらず穏やかで、アカネとは大違いである。その後ろでペリーもまた、不機嫌そうに雰囲気をピリピリとさせていた。
「実は、その遠征で君たちを特別にメンバーに入れようと考えてるんだ。本来新人は入れたりしないんだけど、君達は頑張ってるし、他のメンバーに比べ仕事も上々だ」
「えっ!!ほ、本当に!?」
「まだ完全に決まったわけではないけど、このまま伸ばしていけば、遠征メンバーに入れると思うよ」
あまりの事に、アカネの方を向いて手を取ってしまう。いきなりで驚いた顔をしたアカネも、手を払いはしなかった。両手を掴むと、僕は考えもせずに今の思いを吐き出す。
「やったよアカネ!遠征メンバーってすごいよ!明日から頑張ろうね!」
「………毎日頑張ってるでしょーが。いつも道理でいいのよ」
そう言ったアカネの顔も、なんだか少し嬉しそうだった。先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、だ。そんな僕らを見つめるパトラスの視線は、とても暖かかった。