流れ着いたその先-36
「それじゃ、いくよ!いっせーのーで!」
ぐっ!!と二匹で力いっぱい引っ張る。私もカイトの隣で宝石を抱え、力いっぱいひっぱたものの、地面から抜ける気配は無い。ふと、何をしているんだ、自分は、という感覚に襲われた。前なら絶対にこんなことはしなかっただろうに。どうしてこうなったんだろう、自分から言い出すなんて、と深く疑問に思った。
カイトが首をかしげながら、不思議そうに私の方を見た。なにはともあれ、宝石は抜けそうもない。これは応援を呼んだ方がいいか、そう考え始めた時だった。
ぐらり、と目の前が揺らいだ。「これは」そう思った時、目の前が暗くなるほどの閃光が目の前を過る。「アカネ!」と、私を呼ぶカイトの声が聞こえた。
ポケモンのシルエットだった。シルエットが、この場所に居る。シルエットは宝石の前へ立つと、その宝石を引くのではなく、押した。その瞬間、ザザザザ、ザザザザという音が響く。左右を見たポケモンは、驚いた様子でその場から逃げようとした、が、右方向から沢山の水が押し寄せる。そのポケモンは、流された。
「アカネ、大丈夫?」
「……だ、大丈夫……あの、それより」
「なかなか抜けないね……あ、そうだ」
何か思いついたような顔で宝石の方に向かうカイトを見て、まさか、そう思った。それは図星だったようで、カイトは宝石に手を掛けると、引くのでなく宝石をぐいっと前に倒した。
「ば、ばっ……」
「え?」
「逃げるよ!!早く!」
「え?ん?ん?え、ええええええええ」
右から大量の水、逃れようと走るも、私たちは水に呑まれ、そこから意識が遠くなる。カイトが、苦しそうにもがいていたのは何となく覚えていた。
*
「………んん……」
目を覚ましたのは、とても暖かいところだった。水に浸っているような、しかし体中ぽかぽかと暖かい。体にたまった電気も落ち着き、なんだかとても、心地がいい場所だった。
目を開けると、青い空が見えた。澄んだ青い空で、雲は一つもない。それがなんだか、少し詰まらないように思えた。なんだか、ずっとこのままで居たいと思ったし、コノ状況からはやく起き上らねば、とも思った。
「アカネ、目覚めた?」
目の前にカイトの顔。自分を見てみると、なにやら湯気を立てている水につかり、壁に寄りかかっている。カイトも気持ちよさそうな顔をしてバシャ、と水を手ですくい上げる。
他にも何匹か、その場所にはポケモンが居て、ここまであれで流されてきたのだ、と直に察した。
「お前さん、目が覚めたかい。カイトさんには話したが、ここは温泉だ。どうやら随分遠いところから流されてきたよいじゃの……さぞ疲れただろうし、ゆっくりしていきなさい」
ここは温泉、そう聞いてなんだか少し安心した。陸に上がっている、コータスらしきポケモンがそう言うと、カイトは「うん」と嬉しそうに頷いた。
バッグはびしょ濡れになっていたが、その中に一つ、きらきらと光るもの。黄色い宝石。水が汚れを流し、さらにきらきらと綺麗に光っていた。
「わしはコータスのジゴウという。よろしくのう」
ジゴウ、と名乗ったコータスの顔は、とても優しく見えた。