見惚れる少女-35
そういえば、と、相方の方に振り向いた。彼女は何か考えているようで、「ねえ」と口を開く。彼女が言うことは、俺も考えていたことだった。ペリーが嬉しそうに話していたチームクロッカスの話。今日はどうやら本格的な探検に行っているようだ。その話を聞き、彼女も俺も喜んでいたのだが、ふと朝聞いた話が頭を過る。
「リオン……やっぱ朝礼の時に言ってたあれ、本当なのかな。時が止まっちゃったって」
「朝大騒ぎしてたよな……たしか、キザキの森の時の歯車が盗まれた、とか」
この世界で時の歯車の存在を知らないポケモンはおそらく少数。時の歯車。この世界の時を司るパーツの事だ。これがなければ時は動かない。それはいくつもの場所に静かに眠っている。例えば、誰も知らない森の奥、鍾乳洞、火山、ポケモン達が行きにくく、過酷な場所にそれはある、と言われている。
時の歯車の目撃例は無いと言っていいほどだ。しかし、実在するのは間違いない。現に、時は止まっているのだから
「アカネとカイトは知らないよね。寝坊しちゃって」
「……二匹が行った場所が、時の歯車のある場所だったら、なんてな」
「んん〜、なんかそれはずるい気がするような?私も見てみたいもん」
「まぁ、時の歯車がある場所なんて誰も知らない方がいいんだ。その方が良い」
「………どうしたの?リオン」
そう、誰も知らない方が、都合がいいのだから。
*
「アカネ急いで!!」
「分かってるってば!動きにくいのよこの体!」
愚痴をこぼしながら、僕たちはひたすら走っていた。追ってくるカクレオン達の群れから逃れるため、ひたすら走っていた。
つい数分前の事だった。カクレオンのサークル内の商品だという事に気付かず、僕が木の実を拾ってしまったのだ。お金はすべて銀行に預けてしまった為、手持ちはたったの32ポケ。払える筈もなく、それにも気づかずサークルから出てしまった。それに気付いたカクレオンが仲間を呼び、僕達は現在泥棒として追われているというわけだ。
「アホ!!馬鹿!!!」
「ごめんごめんごめん!!!」
カクレオンの攻撃力は先ほど知ったばかりだ。思い切り体当たりをくらわされた時は死んでしまうかと思った。とりあえずサークル内に木の実を投げ入れ、今ひたすら階段を目指している。
「てかこれ刑務所入り何じゃないの!!?どうなの!!?」
「えとえとえと、確か探検隊の云々条って言うのがあってダンジョン内の店は犯罪扱いにならなかったようなえとああああまた今度話す!!」
「あっ階段!!」
「もうちょっとだよ!!」
急いで階段を上ると、そこはすでに静かだった。誰も追ってこない。ただ静かな水音と、輝く宝石がちりばめられていた。「綺麗」息を切らしたアカネがそう呟いた。きらきら、きらきら、床に埋め込まれたのか、埋まっているのか。綺麗な宝石が、色とりどりに輝いている。これを持って帰れば、かなりの実績になるだろう。それよりも、ただ目の前の光景が、綺麗で綺麗で。
アカネが床に埋まった小さな宝石を掘り出し、手に持った。黄色い、アカネと同じ色の宝石だ。きらきら光って、反射して、輝いている。
「アカネ、それ持って帰ったら?」
「………宝石とか興味無いし」
また嘘をついて、と少し呆れた顔をした。ほれぼれしているような顔で宝石を見つめているアカネは、とても嬉しそうだった。綺麗な物が好き、というのを見ると、やはりアカネもちゃんとした女の子なのだな、という事が感じられる。
ふと、奥の方を見ると、桃色の巨大な宝石が、デンと、佇んでいた。アカネもそれに気付き、さらに目を光らせる。意外と物欲が強いのでは、と思ったのは秘密だ。とにかく、持って帰って皆に見せてあげたい、そんな欲が僕の中で渦巻いた。
「すごいね……これ持って帰れるかな!?」
「お、重そうね……」
嬉しそうなものの、その大きさに驚いていた。確かにこれを持って帰れるかどうかは少し考えものである。しかし怪力の僕だ。どうにかなるだろう。とか考えてみた
「とりあえず何か埋まってるみたいだし、引き抜いてみるね」
そう言うと、僕は宝石をがっしりと掴み、ぐいぐいと引き抜こうと引っ張る。こんな時、普段なら地面がベリベリと割れ、宝石にもヒビガ入りそうなものだが、どういう事だろう。びくともしない
「ん〜……んーーー!!」
「……手伝うけど」
「あ、宜しく……」
アカネに頼んだ時、その宝石は、僕を笑っているようにきらきらと光り輝いていた。